レベチラセタム・ホスフェニトイン・バルプロ酸を比較したランダム化比較試験(ESETT)

【論文名】
Efficacy of levetiracetam, fosphenytoin, and valproate for established status epilepticus by age group (ESETT):
a double-blind, responsive-adaptive, randomised controlled trial
Lancet 2020; 395: 1217-24、DOI: 10.1016/ S0140-6736(20)30611-5

【Reviewer】Asami SASAOKA

【背景】
ESETT試験はてんかん重積状態の成人・小児患者に対する二次治療薬であるレベチラセタム・ホスフェニトイン・バルプロ酸を比較したランダム化比較試験であったが、中間解析結果に基づき中止され3剤の有効性に有意差がないことを報告した。しかし、小児と成人ではてんかん重積の病態生理は同様であると考えられているものの、根本的な病因と薬力学の違いが治療への反応に異なった影響を与える可能性があるため、同研究において小児の登録を延長して、3つの年齢層で比較を行った。

【方法】
本研究は、確定したてんかん重積状態の患者(小児・成人・高齢者)に対して、ベンゾジアゼピン抵抗性であった場合、次に用いる薬剤は何が最も適切かを検討したアメリカの58の救急外来で行われた適応的デザイン・二重盲検化RCTである。患者の組入基準としては、2歳以上のベンゾジアゼピン抵抗性の患者であり、外傷、血糖異常、心停止、低酸素脳症による症候性発作は除外された。
各群に割り当てられた患者はLevetiracetam(60mg/kg)もしくはfosphenytoin(20mgPE(Phenytoin等量)/kg)、valproate(40mg/kg)を投与された。各薬剤はいずれも外見からは判別不可能であり、投与時間も一定に調整された。主要評価項目は薬剤の追加投与なく試験薬投与60分後時点の意識レベルの改善を伴う明らかな発作の停止とした。また、同時に試験薬投与60分以内の致死的な低血圧や不整脈の複合アウトカムである安全性評価項目も評価した。解析はITT解析を用いた。適宜中間解析時にベイジアンアダプティブデザインを適応し各年齢層の各治療群の事後確率を算出し、その後の割付割合を調整した。事後確率が最大サンプルサイズにおける仮定した治療効果15%(65%vs50%)に達する確率が97.5%以上もしくは5%以下を優越性、無益性のため試験中止基準とした。Primary outcome, secondary efficacy outcomes及びsafety outcomeの二次分析は年齢層毎に報告された。ロジスティック回帰分析を用いて治療割付とベースライン共変量の関連が評価された。

【結果】
2015年11月3日から2018年12月29日までの間に、小児225例(<18歳)、成人186例(18〜65歳)、高齢者51例(>65歳)の計462例が登録され解析された。このコホートには、小児コホートにおいて事前定義された無益性中止基準を超えた後(2017年11月29日から2018年12月29日)に組み入れられた78人の患者(小児76人、成人2人)が追加されている。患者背景において、この疾患の病因は年齢層によって異なっており、小児で非誘発性発作の割合が最も高く、熱性疾患が最も一般的な原因であった。ヒスパニック系民族または白人も小児で割合が高かった。しかし、年齢層内の治療郡間のベースライン特性に違いはみられなかった。主要評価項目では、各年齢層内の治療群間に差は見られなかった(18歳以下および18歳以上、p = 0.93)。 全体的に小児は治療の応答率が数値的に高かったが、治療の成功率は年齢の関数で解析した結果では有意差はなかった(継続年齢の主な影響についてはp = 0.69、治療と年齢の相互作用についてはp = 0.88 [年数] )。 事後分析では、有効性は年齢のサブグループ間でも同様だった。 Per protocol解析の結果は、Intention to treat解析の結果と一致していた。年齢層別の安全性の結果については、生命を脅かす低血圧または心不整脈はまれであり、どの年齢層の治療群間でも差はなかった。 小児の気管内挿管は、フォスフェニトイン群でより頻繁に発生した(フォスフェニトイン群で24 [33%]、レベチラセタム群で7 [8%]、バルプロ酸群で8 [11%]、フィッシャーの正確確率検定p = 0.0001)、 しかし、成人・高齢者絵では治療群間によって差はなかった。 安全性の結果の他の違いは検出されなかった。

【Implication】
本研究の特徴として、ベイズ統計を用いた統計解析と隠蔽化やブラインドを適切に行っているなど洗練された研究デザインがある。そのため、高い内的妥当性を保持しており、結果の妥当性は高いと考える。外的妥当性についても、本研究ではアメリカ1カ国の試験ではあるが、主要評価項目と年齢・性別・人種等の交互作用は認めなかったため広い患者へ適応できる可能性がある。しかし、実臨床においてはてんかん重積に占める高齢者の割合が最も高いが、本研究では高齢者の登録割合が非常に少ないこと、使用された薬剤量が日本での使用量に比して多いことは、日本で臨床応用する点で疑問が残る。今回有効性・安全性について抗てんかん薬3剤で年齢層及び治療群間で差が出ず、フェニトインとレベチラセタムを研究した小児を対象とした最近の2つの大規模な研究(ConSEPT、EcLiPSE)の結果と一致している。レベチラセタムに関しては比較的新しい薬であり、今後システマティックレビューを通して安全性に関しては十分検討されるべきではあるが、既知の効果発現までの時間や薬価、易使用性、薬物相互作用、副作用等を考慮すると、実臨床においてはベンゾジアゼピン抵抗性のてんかん重積状態患者に対してはFosphenytoinだけでなくLevetiracetamの使用も考慮されると考える。大規模な3つのRCTが終了したので、今後のシステマティックレビューでそれぞれの治療効果や安全性の結果が待たれる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科