ARMEC ER 合同Journal Club

「腸内細菌菌血症に対する静注から内服抗菌薬への変更における30日死亡率の関連について」

今回は安房地域医療センター(以下ARMEC)との合同Journal clubを行いました。プレゼンテーターは救急研修中の亀田ファミリークリニック館山の金久保Dr.でした。
内服での抗菌薬使用は家庭医診療科にも通ずるtopicであり、家庭医診療科のDr.とdiscussion出来るいい機会となりました。

Association of 30-Day Mortality With Oral Step-Down vs Continued Intravenous Therapy in Patients Hospitalized With Enterobacteriaceae Bacteremia.
Tamma PD, et al. JAMA Intern Med. 2019 Jan 22. PMID: 30667477

【Introduction】
各種ガイドラインは、グラム陰性桿菌(GNR)菌血症の推奨抗菌薬投与期間は出しているが、投与経路にかんしては定まっていない。通常GNR菌血症は静注抗菌薬で治療開始となるが、 臨床経過が良好な場合に内服に変えてもアウトカムが担保されるかは不明である。尿路感染症(UTI)に続発する菌血症に限っては内服スイッチをしても安全であること、効果的であることが示唆されている。
腸内細菌菌血症の治療を内服でできれば、行動が制限されないことや、カテーテル留置に伴う不快感の改善、カテーテル留置に伴う感染性/非感染性副作用のリスク軽減、医療費削減といった点で患者のQOL向上に繋がりそうである。

【Clinical Question】
腸内細菌菌血症に対する静注から内服抗菌薬への変更は有効な治療法か。

【Method】
2008/01/01-2014/12/31の間の、米国の3施設(The Johns Hopkins Hospital, the Hospital of the University of Pennsylvania, the University of Maryland Medical Center)でのデータを用いたレトロスペクティブコホートスタディが組まれた。
18歳以上で単一菌種*の腸内細菌菌血症で入院した患者のうち、次の基準を満たした患者が組み入れられた。すなわち静注抗菌薬初回投与日を1日目と定義した場合の5日目までにソースコントロールがついている、感受性良好な内服抗菌薬を使用できる、5日目までに他の内服薬や食事を摂取できる、5日目までにPitt bacteremia scoreが1点以下になるといった基準である。一方で、次の基準を満たした患者は除外された。すなわち静注抗菌薬投与開始後6日目以降に内服抗菌薬に変更された、初回血培採取から24hr以内に有効な抗菌薬が投与されなかった、合計抗菌薬投与期間が7日未満あるいは17日以上であった、耐性のある抗菌薬の投与を受けていた、2剤目以降の静注抗菌薬を5日目以降も投与されていた(例えば1剤はCPFX内服にしたがGMを静注で併用継続していた、など)、5日目までに死亡したといった基準である。アウトカムは30日全死亡率、30日の同一臓器の菌血症再発、入院期間の3つであった。
*Citrobacter species, Enterobacter species, Escherichia coli, Klebsiella species, Proteus mirabilis, or Serratia marcescens

3施設で感染症科医師が電子カルテを遡りデータを収集した。統計解析は2018/03/02-06/02の間にStata ver 15.0を用いてなされた。プロペンシティスコアはmultivariable logistic regression modelで計算された。変数は暴露群か否かの2値変数とした。共変量は年齢、人種、既往(末期肝不全、透析を要する末期腎不全、 器質的肺疾患、EF45%未満の心不全、糖尿病)、免疫不全状態(CD4<200/mLのHIV感染症、固形臓器移植、造血幹細胞移植、6ヶ月以内の化学療法、血培採取時点でANC<500/mm3)、免疫調整薬使用中あるいは20mg以上のコルチコステロイドを14日以上使用中、1日目のPitt bacteremia score、菌血症1日目にICUにいたかどうか、菌血症のソース、最初の48時間を超えて複数の抗菌薬が処方されたかどうか、合計治療期間とした。統計解析は1:1 nearest-neighbor matching without replacementで、キャリパー幅 0.20SDとした。標準化平均バイアスは、プロペンシティスコアマッチを経た2群間の差が10%未満であればバランスがとれているとみなした。患者の特性はカイ2乗検定で比較した。連続変数はWilcoxonの順位和検定、 アウトカムはログランク検定、Cox回帰分析で記述した。

【Result】
4967人を調査し、2161人が組み入れられた。1478人をプロペンシティスコアマッチングを用いて解析した。プロペンシティスコアマッチングを受けた患者群では30日死亡率は内服スイッチ群 vs 静注群で97件(13.1%) vs 99件(13.4%)[HR1.03, 95%CI 0.82-1.30]であった。30日での同一臓器の菌血症再発は、6件(0.8%) vs 4件(0.5%)[HR0.82, 95%CI 0.33-2.01]であった。入院期間は5日(IQR 3-8日) vs 7日(IQR 4-11日)[HR0.98, 95%CI 0.97-1.00], P<0.001]であった。
プロペンシティスコアマッチングを受けた、内服スイッチ群(739人)のうち617人(83.5%)はhigh bioavailabilityな内服抗菌薬(フルオロキノロンやST合剤)を使用した。そのうち518人(83.9%)はフルオロキノロンを内服した。high bioavailability群の64人(11.0%)、low bioavailability群(βラクタム系)の15人(12.3%)が30日以内に死亡した。[HR 1.05, 95%CI 0.67-1.66] high bioavailability群の4人(0.6%)、low bioavailability群の0人(0%)が 30日以内に菌血症を再発した。

【Conclusion】
腸内細菌菌血症における静注から内服への変更は、 適切なソースコントロールがなされて臨床的改善が認められる場合は、静注継続と比較して遜色ないアウトカムを得られる。早期に内服スイッチがなされれば、入院期間も短縮される。

【Implication】
患者の特性として、年齢中央値は59歳と比較的若年であり、アジア人は5%未満であった。免疫不全患者の割合が日常診療に比して多い印象であった。3施設とも大病院(772〜1154床)であるため、中小規模病院での外的妥当性は担保されていない。
サンプルサイズの推定については後ろ向きなので必ずしも必要ではないが、得られた差とサンプル数から、post-hoc power を計算しても良い。
傾向スコアマッチングを併用したレトロスペクティブコホートであり、ある程度の内的妥当性は担保されていると考えるが、RCTのデザインという視点から考えると内服治療へスイッチする時点がランダム化の時点であるが、その時点は明確にできないためベースラインの共変量を代用している。モデルをよりよくするために時間依存性の変数を共変量に組み込めればより良かったかもしれない。
安房地域医療センターは医療過疎地域の二次病院でしばしば満床であり致し方なく外来通院を行うことが多いが入院セッティングでの研究であり、抗菌薬静注から内服への治療変更については別途検討が必要である。

post158.jpg


Tag:

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科