救急外来で不穏状態の患者に対する4種の鎮静薬(オランザピン、ジプラシドン、ハロペリドール、ミダゾラム)の筋注の効果を比較したらどうか?

Intramuscular Midazolam, Olanzapine, Ziprasidone, or Haloperidol for Treating Acute Agitation in the Emergency Department
Klein, L.R. et al., Annals of emergency medicine, 2018.72(4), pp.374-385.

【Introduction】
救急外来では興奮した患者が来院することは稀ではない。興奮している患者に対しては、まず言語によるアプローチが取られるが、しばしば成功せず薬物治療が必要になる。一般的には抗精神病薬(ハロペリドール、ジプラシドン、オランザピン)やベンゾジアゼピン系(ミダゾラム、ロラゼパム、ジアゼパム)などが用いられていたが、米国で利用可能かつ効果や安全面から見た鎮静薬の理想的な選択は定まっていなかった。

【Research Question】
救急外来で不穏状態の患者に対する4種の鎮静薬(オランザピン、ジプラシドン、ハロペリドール、ミダゾラム)の筋注の効果を比較

【Methods】
2017年6月〜2017年10月にかけてアメリカのHennepin County Medical Centerで行われた単施設前向きコホート研究である。元々double-blind RCTとして企画されたが、FDAから許認可が下りず、前向きコホート研究として実施された。対象患者は救急外来で急性興奮状態となり薬物治療を必要とする18歳以上の成人とされた。鎮静が必要と判断された場合、前もって指定された薬剤の筋注を行い、Altered mental status scale(AMSS) scoreを用いて評価された。使用薬剤はハロペリドール5mg、ジプラシドン20mg、オランザピン10mg、ミダゾラム5mg、ハロペリドール10mgを3週間毎単位で変更された。使用薬剤の順序はハロペリドールが連続しないよう一部制限下でランダムに選択された。各薬剤の用量については、先行研究を参考に等価量に基づき設定された。主要評価項目は薬剤投与15分後の時点でAMSS score<1で定義される適切に鎮静されている患者の割合とし、副次評価項目として追加薬剤投与を必要とした患者数や適切な鎮静までの時間、有害事象などとした。先行研究からサンプルサイズは635人と設定したが、多重検定については考慮されなかった。

【Results and Conclusion】
3443人をスクリーニングし734人が解析対象となった。各群で最大33人の人数差があった。組入ミスやスクリーニングミスは稀であった。組入患者の中央値は40歳(18-77歳)で527人(72%)が男性、興奮状態の原因はアルコールが最多(650人;88%)であった。興奮状態の患者に対する各薬剤の筋注15分後に適切な鎮静を得た患者割合は、ミダゾラム:89人(71%)、オランザピン:99人(61%)、ジプラシドン:76人(52%)、ハロペリドール5mg:61人(40%)、ハロペリドール10mg:64人(42%)で、ジプラシドン20mg、ハロペリドール5/10mgと比較してミダゾラム5mgで有意に多かった。オランザピンに関してはミダゾラムと有意差は認めなかった。副次評価項目としてはミダゾラムで適切な鎮静までの時間が最も短く(12分)、追加の鎮静薬投与量も有意に多かった(40%)。また、有害事象については各群で差は認めなかった。ER滞在時間に関しては各群で有意差は認めなかった。
ハロペリドールやジプラシドン、オランザピンと比較して興奮患者へのミダゾラムの筋注治療は投与15分後時点でより高い割合で適切な鎮静を達成する。

【Implications】
救急外来での興奮状態の患者に対する鎮静薬について調べた研究であるが、オープンラベルや、多重検定を考慮していない点、単施設研究であることなど多くのLimitationを抱える。更に、副作用については症例数が少なく評価不十分である。しかし、スタディデザインとしては実質的にCluster RCTであり交絡因子は比較的少ないと考えられる。また、今回の結果であるミダゾラムの優位性は過去の研究とも一致している。以上より、副作用に十分注意しながらミダゾラムの筋注の使用は考慮に値すると考える。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科