ハワイ大学医学部SimTikiシミュレーションセンター留学報告

筆者は2018年7月から2020年6月までの2年間、亀田総合病院麻酔科よりシミュレーション教育・医学教育の勉強・研究のために米国ハワイ州のハワイ大学医学部SimTikiシミュレーションセンターに留学しておりました。

ハワイ大学医学部SimTikiシミュレーションセンターの留学報告

はじめまして。亀田総合病院麻酔科の重城聡です。今回、ハワイでの留学経験を報告する機会を頂きましたので、簡単に紹介させて頂きます。
私が留学した施設であるSimTikiシミュレーションセンターは、米国ハワイ州ホノルルのハワイ大学医学部 (John A Burns School of Medicine)[写真1] に併設される、シミュレーション教育・研究に特化した施設です。利用者は医療従事者、米軍の関係者など多岐にわたり年間3000人以上がシミュレーショントレーニングに訪れています。また、海外からシミュレーション教育を学ぶために私のような留学生が毎年訪れています。(https://www.simtiki.org/)。

[写真1]
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このSimTiki シミュレーションセンターで私は以下の5つのことを行いました。

  1. シミュレーション教育・医学教育のレクチャーの受講
  2. 研修医に対するシミュレーション教育のアシスタント参加
  3. ハワイ大学の医学生に対する気管内挿管シミュレーショントレーニングの講師
  4. ハワイ大学の医学生に対する心エコー教育の開発と研究
  5. 経食道心エコーシミュレーターのSystematic review & meta-analysis

これからいま挙げた5つを2年の留学期間で私がどのように行ったのかを紹介させていただきます。まず、私が留学して最初に参加したのがシミュレーション教育・医学教育のレクチャーでした。SimTiki シミュレーションセンターのディレクターのBenjamin Berg先生と副ディレクターのJannet Lee先生による全10回にわたるシミュレーション教育のレクチャーでは、シミュレーショントレーニングの方法論・カリキュラムの開発・研究の方法など様々な角度からシミュレーション教育の理解を深めることができました。また、ハワイ大学医学部教育部門 (Office of Medical Education)のRichard Kasuya先生が行う教育学全般の講義 (1年間)に参加させて頂き、シミュレーション以外の医学教育に関する知識を養うことができました。ハワイに留学した最初の1年間は、私は教育学の講義漬けの生活を送っていました。シミュレーションにも教育学にも大した予備知識がなかった私ですが(もちろん英語も最初はほとんど話せませんでした)、教育学+英語漬けの生活を送ることで、徐々に異国の地で教育者としての1歩目を踏み出すことができました。
徐々に留学生活への自信がついてきたころで参加したのが、 研修医に対するシミュレーション教育のアシスタント参加とハワイ大学の医学生に対する気管内挿管シミュレーショントレーニングの講師でした。毎年定期的に日本の研修医の先生がシミュレーショントレーニングを受講するために、SimTikiシミュレーションセンターに1-2週間訪れておりBenjamin先生とJannet先生が主導するセッションに参加しています。英語ベースでシミュレーションのセッションは進められるので、私は日本の研修医が英語を聞き取れなかった時の通訳として参加し、また同時に2人の先生がどのようにシミュレーショントレーニングを進めていくのかを学びました。シミュレーション教育の現場に触れシミュレーション教育の概要を理解した後に、私が挑戦したのはハワイ大学の医学部生に対する気管内挿管シミュレーショントレーニングの講師でした [写真2]。私が麻酔科医ということで、医学生向けの気管内挿管のシミュレーターを用いたトレーニングの講師を任せてもらいました。事前に集中治療医でもあるBenjamin先生と打ち合わせをし、気管内挿管のトレーニングプランを作成し、また学生が挿管をうまくできないときのフィードバックプランを入念に練った上で、講師の任務にのぞみました。英語力不足のため時々説明したいことが表現できずもどかしい気分にもなりましたが、幸いにも学生たちが満足できるようなトレーニングを行うことができました。

[写真2]
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留学の最初の1年間でシミュレーション教育の基礎知識の習得と実践を終え、残る1年間で私はハワイ大学の医学生に協力してもらい教育研究を行いました。私の留学でのメインテーマとなった『ハワイ大学の医学生に対する心エコー教育の開発と研究』です。
昨年、米国でスマートフォンに接続するだけで高解像度のエコー検査が施行できるButterfly iQ ( https://www.butterflynetwork.com/uk/ )と呼ばれるポータブルエコーが発売され、米国の医師・学生の間でもとても話題になっていました。近い将来、医学生たちが白衣のポケットに聴診器ではなくポータブルエコーをいれて病院実習に参加する日が来る可能性があると考え、ポータブルエコーを用いた医学生への心エコー教育のカリキュラムを開発しその教育効果と実現可能性を評価する研究を立案し実行しました[写真3]。米国心エコー学会の推奨する医学生への心エコートレーニングのフレームワークを参考にカリキュラムを作成し、医学生に対してマンツーマンでハンズオントレーニングを行い、我々が開発した心エコーのカリキュラムが学生の技術・知識に対してどの程度効果があり、また長期的にどれくらい教育効果が残存するのかを調査したものです。この教育研究のパイロット研究[1]は論文化し投稿中で、本試験の結果は論文作成中[2]となっています。

[写真3]
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また、留学前から経食道心エコーシミュレーターの教育効果のSystematic review & meta-analysis[3]を執筆中でしたが、シミュレーション教育に関する専門知識をSimTiki シミュレーションセンターのメンバーから教授してもらうことで最終的に論文化することができ、現在、米国のシミュレーション教育の雑誌に投稿中となっています。
短い2年間という留学期間でしたが、シミュレーション教育の基礎知識の勉強からはじまり、最終的には、教育研究を行い論文化するところまで行うことができました。ここまで多くのことが実現できたのは、SimTiki シミュレーションセンターの皆様の尽力なくしては不可能でありました。また、留学にあたり多大なサポートをして頂いた亀田総合病院・一般社団法人SUNRISE研究会にはこの場を借りて感謝申し上げます。
この投稿をご覧になっている方で、シミュレーション教育や医学教育に興味のある方、学生や研修医に対するエコー教育にご興味のある方、さらにはSimTikiシミュレーションセンターへの留学に関心のある方、ぜひ亀田総合病院の麻酔科にご連絡ください。お待ちしております。

亀田総合病院 麻酔科・シミュレーションセンター 重城 聡

引用

[1] Jujo, S, et al. "Pre-clinical medical student cardiac point-of-care ultrasound curriculum based on the American Society of Echocardiography recommendations: a pilot and feasibility study." (2020).

[2] Jujo S, et al. Preclinical medical student echocardiography training american society of echocardiography curriculum.ClinicalTrials. gov Identifier: NCT04083924.<https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04083924>Accessed Apr. 1, 2020.

[3] Jujo S, et al. Systematic review and meta-analysis of the efficacy of transesophageal echocardiography simulator training for novices. PROSPERO International Prospective Register of Systematic Reviews. Available at: http://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/display_record.php?ID=CRD42017060892http://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/display_record.php?ID=CRD42017060892. Accessed July 17, 2019.

このサイトの監修者

亀田総合病院
麻酔科主任部長 小林 収

【専門分野】
麻酔、集中治療