British Journal of Anaesthesia誌:新生児および小児における術中の重症呼吸イベントと術後肺合併症に対する呼吸器設定の戦略とリスク因子:NECTARINEコホート研究の2次解析
2025-5-29 麻酔科抄読会サマリー
担当:八木
指導医:柘植
Ventilation strategies and risk factors for intraoperative respiratory critical events and postoperative pulmonary complications in neonates and small infants: a secondary analysis of the NECTARINE cohort
Alexander F, et al. Br J of Anaesth 2025 Feb 19:S0007-0912(25)00058-3.
doi: 10.1016/j.bja.2024.12.038.
背景
小児の呼吸器合併症は周術期の主要合併症と死亡原因として最も高く、新生児ではさらにリスクが高い。NMBA(筋弛緩薬)気管挿管を容易にし、効果的な呼吸管理を行う上で使用が推奨されている反面、新生児においては術後効果残存の可能性が高いとの報告がある。現在の問題点としては、欧州において小児麻酔の際、数ある呼吸器設定のうち一体どのモードが頻用されているのか、さらにPPC(postoperative pulmonary complication)発生率とNMBAリバースの関連は明らかにされていない。
今回の研究では、欧州における小児の人工呼吸器設定、NMBAとそのリバースの使用状況、合併症との関連 について検討した。
※PPCには、長期的に呼吸器離脱ができなかった症例、抜管後再挿管が必要となった症例、胸水・肺炎・気胸・ECMOが必要となった症例などが含まれる。
方法
本研究は欧州31カ国、165施設の他施設前向き観察研究の2次解析を行った(NECTARINE研究)。対象は最終月経60週齢未満に手術・診断的処置を受ける乳児として、種々の呼吸器設定の比較とNMBA拮抗薬の有無について比較を行った。
主要評価項目は、術中換気モードと術中呼吸器有害事象(介入を必要とする低酸素血症・高もしくは低二酸化炭素血症)の関連、副次評価項目はNMBA拮抗薬の使用と30日術後肺合併症の関連。
結果
・半数以上でPCVモードが使用され、PRVC(pressure regulated volume control)モードの使用はわずか7%であった。
・気管挿管前後のNMBA使用は、高もしくは低二酸化炭素血症の発症と有意に関連しており、気管挿管後のNMBA使用はPPC発生リスク上昇とも関連していた。
・Ventilation strategyに関わらず、気管チューブを介した機械的陽圧換気はPPC発生増加と強い関連があり、それは声門上器具を用いた症例でも同様の傾向であった。
・NMBAを使用した群のうち、拮抗薬を使用した症例はわずか30%程度であった。
拮抗薬あり群となし群で比較すると、あり群ではPPC予防効果を示したのに対し、なし群では発生率が高かった。
結論
Ventilation strategyに関わらず、mechanical ventilationは術中呼吸有害事象とPPC発生率を高めるリスク因子である。
抜管前のNMBAリバースは新生児のPPC減少と有意に関連している。
抄読会での議論
・NMBAリバースの有無や術中の筋弛緩モニタリングに関して、手術内容や手術時間の詳細(術中に筋弛緩状態を必要とする手術か否かやNMBA最終投与からの時間など)な記録がないため、今回の結論を一概には言えない可能性がある。
・NMBAの種類はRocuronium33.5%、Atracurium32%、Cisatracurium16.5%、Succinylcholine8.9%、Mivacurium5.1%、Vecuronium4.0%
・小児麻酔での筋弛緩使用率59%は成人に比べると少なく感じるが、実際のところ実臨床でどのように使用しているか。
文責:亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 坂手
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔