British Journal of Anaesthesia誌:脊髄幹麻酔と脳幹網様体賦活系に及ぼす影響
2024-12-12 麻酔科抄読会サマリー
担当:専攻医 竹下
指導:吉沼
Spinal anaesthesia indirectly depresses cortical activity associated with electrical stimulation of the reticular formation
J. F. Antognini et al, British Journal of Anaesthesia 91 (2): 233±8 (2003)
DOI: 10.1093/bja/aeg168
https://doi.org/10.1093/bja/aeg168
2003年にBJAに掲載された、脊髄くも膜下麻酔が脳幹網様体賦活系の活動を間接的に抑制し、鎮静薬の必要量が減少するか検討した動物実験の論文。
背景
脊髄幹麻酔は外科手術中に生じる侵害刺激を取り除くためによく行われるが、鎮静薬の必要量を減少させることがこれまでの研究で報告されている。
メカニズムとして、脊髄幹麻酔によって脳幹網様体(MRF)への上行性感覚入力が遮断され大脳皮質の興奮性が低下することが関与する可能性が示唆されている。
本研究では脊髄くも膜下にリドカインを投与し、上行性体性感覚入力をブロックすると脳幹網様体刺激に対する脳波の脱同期化が抑制されるという仮説を立て、検証した。
方法
イソフルランで全身麻酔下のヤギを用いて、脊髄くも膜下に4%のリドカインを投与し脊髄くも膜下麻酔施行。その後、脳幹網様体に挿入した刺激電極より0.1mAから刺激を開始し、最大で0.4mAまで刺激電流を増加させ、BISとSEF95の値を記録した。
結果
① 脳幹網様体刺激に対する脳波の変化に関して
全身麻酔のみを行なったコントロール群では最も弱い刺激電流である0.1mAの刺激でも脳波の脱同期化がみられ、電流強度を上昇させていくと、それに伴って脱同期化も顕著になった。
一方で脊髄くも膜下麻酔中の脳幹網様体刺激に対する脳波の変化は0.1mAという弱い刺激ではほぼ脱同期化は見られず、0.3mAまで刺激電流を上昇させても脱同期化は抑制されていた。
② 脳幹網様体刺激に対するBISとSEF95の変化に関して
BISはコントロール群で69、脊髄くも膜下麻酔群で55
SEF95はコントロール群で18.6Hz、脊髄くも膜下麻酔群で13.6Hzでどちらも有意差を持って脊髄くも膜下麻酔群で低い値を示した。
BISとSEF95の変化を起こす電流の閾値はコントロール群では約0.1mAであったが、脊髄くも膜下麻酔群では0.3~0.4mAとより強い電流を必要とした。
つまり、脊髄くも膜下麻酔下では脳幹網様体刺激に対するBISとSEF95で評価した脳波の脱同期化の抑制が見られた。
結論
今回の研究結果から、脊髄幹麻酔によって上行性体性感覚伝達を遮断することで、覚醒機構(網様体-視床-皮質系)の興奮性が低下することが示唆される。これは麻酔薬の必要量が減少することと一致している。
抄読会での議論
- 脊髄くも膜下麻酔中に深部感覚など残ってしまうことがあるが、その場合でも覚醒度の低下は引き起こされるのか。
→温度覚、痛覚、深部感覚が遮断されたから覚醒度が落ちる、深部感覚まで遮断されていないから覚醒度が保たれる、といったことではない。
脳幹網様体への刺激の入力の総量が減ることで鎮静の必要量が減るので、感覚の遮断の程度と覚醒度に相関はあまりないと考えられる。
麻酔レベルと鎮静薬の必要量や覚醒度にはやはり相関があると考えられる。 - 今回の研究がそのほかの研究と違うところは?
→関連する文献を読んだ限りでは、今回の研究は実際に脊髄くも膜下麻酔中に脳幹網様体を刺激してBISやSEF95の値の変化を記録することで定量化が行われている点がそのほかの研究と異なる。
また、今回の研究は脊髄くも膜下麻酔下で麻酔レベルとは関係のない、脳幹網様体を刺激しても脳波の脱同期化の抑制が見られているという点が非常に興味深いと考える。 - 脊髄くも膜下麻酔併用全身麻酔、硬膜外麻酔併用全身麻酔、全身麻酔単独などそれぞれの条件で脳波を解析してみるのも面白いかもしれませんね。
文責:亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 坂手
担当:専攻医 竹下
指導:吉沼
Spinal anaesthesia indirectly depresses cortical activity associated with electrical stimulation of the reticular formation
J. F. Antognini et al, British Journal of Anaesthesia 91 (2): 233±8 (2003)
DOI: 10.1093/bja/aeg168
https://doi.org/10.1093/bja/aeg168
2003年にBJAに掲載された、脊髄くも膜下麻酔が脳幹網様体賦活系の活動を間接的に抑制し、鎮静薬の必要量が減少するか検討した動物実験の論文。
背景
脊髄幹麻酔は外科手術中に生じる侵害刺激を取り除くためによく行われるが、鎮静薬の必要量を減少させることがこれまでの研究で報告されている。
メカニズムとして、脊髄幹麻酔によって脳幹網様体(MRF)への上行性感覚入力が遮断され大脳皮質の興奮性が低下することが関与する可能性が示唆されている。
本研究では脊髄くも膜下にリドカインを投与し、上行性体性感覚入力をブロックすると脳幹網様体刺激に対する脳波の脱同期化が抑制されるという仮説を立て、検証した。
方法
イソフルランで全身麻酔下のヤギを用いて、脊髄くも膜下に4%のリドカインを投与し脊髄くも膜下麻酔施行。その後、脳幹網様体に挿入した刺激電極より0.1mAから刺激を開始し、最大で0.4mAまで刺激電流を増加させ、BISとSEF95の値を記録した。
結果
③ 脳幹網様体刺激に対する脳波の変化に関して
全身麻酔のみを行なったコントロール群では最も弱い刺激電流である0.1mAの刺激でも脳波の脱同期化がみられ、電流強度を上昇させていくと、それに伴って脱同期化も顕著になった。
一方で脊髄くも膜下麻酔中の脳幹網様体刺激に対する脳波の変化は0.1mAという弱い刺激ではほぼ脱同期化は見られず、0.3mAまで刺激電流を上昇させても脱同期化は抑制されていた。
④ 脳幹網様体刺激に対するBISとSEF95の変化に関して
BISはコントロール群で69、脊髄くも膜下麻酔群で55
SEF95はコントロール群で18.6Hz、脊髄くも膜下麻酔群で13.6Hzでどちらも有意差を持って脊髄くも膜下麻酔群で低い値を示した。
BISとSEF95の変化を起こす電流の閾値はコントロール群では約0.1mAであったが、脊髄くも膜下麻酔群では0.3~0.4mAとより強い電流を必要とした。
つまり、脊髄くも膜下麻酔下では脳幹網様体刺激に対するBISとSEF95で評価した脳波の脱同期化の抑制が見られた。
結論
今回の研究結果から、脊髄幹麻酔によって上行性体性感覚伝達を遮断することで、覚醒機構(網様体-視床-皮質系)の興奮性が低下することが示唆される。これは麻酔薬の必要量が減少することと一致している。
抄読会での議論
- 脊髄くも膜下麻酔中に深部感覚など残ってしまうことがあるが、その場合でも覚醒度の低下は引き起こされるのか。
→温度覚、痛覚、深部感覚が遮断されたから覚醒度が落ちる、深部感覚まで遮断されていないから覚醒度が保たれる、といったことではない。
脳幹網様体への刺激の入力の総量が減ることで鎮静の必要量が減るので、感覚の遮断の程度と覚醒度に相関はあまりないと考えられる。
麻酔レベルと鎮静薬の必要量や覚醒度にはやはり相関があると考えられる。 - 今回の研究がそのほかの研究と違うところは?
→関連する文献を読んだ限りでは、今回の研究は実際に脊髄くも膜下麻酔中に脳幹網様体を刺激してBISやSEF95の値の変化を記録することで定量化が行われている点がそのほかの研究と異なる。
また、今回の研究は脊髄くも膜下麻酔下で麻酔レベルとは関係のない、脳幹網様体を刺激しても脳波の脱同期化の抑制が見られているという点が非常に興味深いと考える。 - 脊髄くも膜下麻酔併用全身麻酔、硬膜外麻酔併用全身麻酔、全身麻酔単独などそれぞれの条件で脳波を解析してみるのも面白いかもしれませんね。
文責:亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 坂手
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔