2021.07.13 Clinical Case Conference

1. 題「ST 低下していませんか?〜アトニンの副作用〜」 担当:柳先生/劉先生
2. 題「術中初発の PSVT」 担当:川上先生

1. 題「ST 低下していませんか?〜アトニンの副作用〜」
柳先生と劉先生は帝王切開においてアトニン投与中に ST 低下を認めた症例をプレゼンした。 アトニンはオキシトシンのことで、子宮を収縮させる作用があり、分娩誘発や子癇出血の止血で使われているが、冠動脈攣縮を起こす副作用の報告もある。本症例は副作用に注意し、 心電図でモニタリングすることで、アトニンによる ST 低下に早く気づき、適切な対応ができた一例だった。
症例は特に大きな併存疾患がない初産婦だった。経過中、胎児心音低下から、緊急帝王切開となった。 脊髄くも膜下麻酔下で手術が開始され、胎盤娩出後にアトニンを 10 単位子宮に局所注射を行い、メイン点滴に5単位混注し投与した。その後さらにメイン点滴に 10 単位混注し投与の途中で心電図上 II 誘導において ST 低下を認め、患者本人が胸部絞扼感及び嘔気を訴えはじめたため、アトニンによる冠動脈攣縮を疑い、アトニンの点滴静注を中止した。細胞外液、ネオシネジン投与で対応し、ST低下及び自覚症状が改善した。
アトニンによる ST 低下は麻酔科学会が発表された麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドラインにも記載されている。疑いのある場合、対応として、まずはオキシトシン投与を中止し、 出血などによる Hypovolemia を是正する。疼痛緩和などで心筋の酸素需要が抑制するのも 対策の一つで、さらに同時にニコランジルを準備するのも良いだろう。また、出血やHypovolemia による酸素供給の減少も ST 低下の鑑別で、対応として体液量の補正や酸素投与になる。

2. 題「術中初発の PSVT」
川上先生は術中の PSVT がベラパミル投与で改善した症例をプレゼンした。 症例は大きな既往歴のない 70歳代女性で、腰椎変性すべり症に対して椎弓形成術・脊椎固定術が行われた。術前検査では 12 誘導心電図を含めて明らかな異常を認めていなかった。 麻酔導入後は特に問題なく経過したが、腹臥位にし手術準備を行ったところ心拍上昇、P 波を認めない、狭いQRS波のある、RR 一定の波形を認めた。
PSVT を第一の鑑別とし、Valsalva 手技を行うも効果を認めなかった。ブレビブロック投与に対しても心電図波形の変化が見られなかった。ベラパミル投与を試みたところ sinus 波形に復帰し、その後再発もなかった。 ガイドラインを振り返ってみると、血行動態が安定している PSVT に対して、迷走神経刺激手技、ATP急速静注、ベラパミル静注での対応が薦められている。また、血行動態が不安定な場合は、カーディオコンバージョンが第 1 選択となる。今回の症例に関しては、バイタルが安定しており、Valsalva手技を試すも無効だった。ATP 急速静注の使用に際して腹臥位という体位もあり、使用をためらい、まずはカルシウムチャンネルブロッカーのベラパミルを投与したところ効果が見られた。
実際の場合、麻酔中に発生した PSVT に対してβブロッカー及びカルシウムチャンネルブ ロッカーを投与すると、血圧低下・心拍出量低下が顕著に見られやすい。鎮静・鎮痛が得られているため、特に循環動態不安定や循環にリスクが高い症例には、最初にカーディオコンバージョンを行うのも一つの手だと考えられる。

亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 金

このサイトの監修者

亀田総合病院
麻酔科主任部長 小林 収

【専門分野】
麻酔、集中治療