新井先生がT2-low喘息と好中球性気道炎症、GLP-1受容体作動薬について発表
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。
今回は、専攻医1年目の新井先生が「T2-low喘息と好中球性気道炎症、GLP-1受容体作動薬」について解説しました。
近年の重症喘息診療では、血中好酸球数や呼気一酸化窒素(FeNO)などのバイオマーカーを用いてT2(2型)炎症を評価し、病態に応じて生物学的製剤を選択する個別化治療が大きく進歩しました。
一方で、好酸球やFeNOが上昇せず、ステロイドへの反応も乏しいにもかかわらず、増悪を繰り返す患者さんがいます。
こうした喘息は「非T2喘息」「T2-low喘息」と呼ばれますが、実際にはT2-high喘息ほど病態が明確ではありません。
今回の勉強会では、そもそもT2-low喘息とは何なのか、どのように評価すべきなのかというところから議論が始まりました。
T2-low喘息は「T2ではない喘息」の集合である
T2-high喘息では、IL-4、IL-5、IL-13を中心とする炎症経路が明らかになっており、好酸球、FeNO、IgEなどのバイオマーカーを用いて病態を評価できます。
一方、T2-low喘息には、それ自体を直接同定できる確立したバイオマーカーがありません。
現在は、血中好酸球数やFeNOが低値であることなどから、T2炎症が確認できない喘息として消去法的に捉えられています。
その中には、Th17、IL-17、IL-6、IL-1βなどが関与する好中球性気道炎症だけでなく、顆粒球性炎症自体が目立たない少顆粒球性喘息など、異なる病態が含まれます。
つまり、T2-low喘息は一つの均一な疾患ではありません。
この不均一性こそが、T2-high喘息と比べて病態解明や治療開発が難しい理由の一つです。
一度の好酸球やFeNOだけでT2-lowと判断しない
臨床で特に重要なのは、T2-high/T2-lowという状態は必ずしも固定されていないという点です。
血中好酸球数はステロイドの影響を強く受けます。高用量の吸入ステロイドや経口ステロイドを使用している患者では、本来存在しているT2炎症が治療によって見えなくなっている可能性があります。
実際、重症喘息患者を経時的に評価すると、ステロイドを減量した後にT2-highの特徴が明らかになる患者が存在します。
さらに、安定期にはT2-lowと判定されていた患者が、増悪時にはT2-highへ変化することも報告されています。
したがって、
「今日の血中好酸球数が低く、FeNOも低いからT2-low喘息である」
と一度の検査だけで判断することは適切ではありません。
過去の好酸球数やFeNO、ステロイド使用状況を確認し、可能であれば増悪時にもバイオマーカーを再評価することが重要です。
好中球性炎症とT2-low喘息
T2-low喘息の代表的な病態の一つが好中球性気道炎症です。
感染、大気汚染、喫煙、肥満などによって気道上皮や自然免疫系が刺激されると、IL-1β、IL-6、IL-23などを介してTh17系が活性化されます。
Th17から産生されるIL-17A/Fは、気道上皮細胞や線維芽細胞などに作用し、CXCL8(IL-8)やCXCL1、G-CSFの産生を促します。その結果、好中球の気道への動員や生存が促進され、好中球性気道炎症につながります。
もっとも、IL-17が病態に関与しているなら、IL-17を阻害すれば喘息が改善するというほど単純ではありません。
IL-17は感染防御にも重要であり、好中球性炎症にはIL-1β、IL-6、TNF-α、CXCL8など複数の経路が関与しています。
また、そもそもT2-low喘息という集団自体が不均一であり、Th17/IL-17経路が主要な病態である患者を臨床的に選択する方法も確立していません。
これまで非T2炎症を標的とした複数の治療薬が十分な有効性を示せなかった背景には、こうした問題があります。
現在のT2-low喘息治療
T2-low喘息であっても、まず重要なのは喘息診断を再確認し、吸入手技、アドヒアランス、併存症を評価したうえで、吸入治療を最適化することです。
ICS/LABAを基本とし、LAMAはT2バイオマーカーに依存せず効果が期待できます。
また、増悪を繰り返す喘息では長期アジスロマイシン療法の有効性が報告されています。ただし、導入前にはNTM症の除外、QT延長、聴力障害などへの配慮が必要です。
生物学的製剤の中では、上皮由来サイトカインTSLPを標的とするテゼペルマブが重要です。
TSLPはT2炎症だけでなく、気道上皮を起点とするより広い炎症経路に関与しており、好酸球やFeNOが低い患者でも増悪抑制効果が期待できます。
ただし、T2-low喘息に対する治療選択肢は依然として限られています。
そこで今回、もう一つの重要なテーマとなったのが肥満でした。
肥満は喘息を複数の経路から悪化させる
肥満と喘息の関係は、単純に「体重が増えると息苦しくなる」というものではありません。
肥満は少なくとも、炎症、呼吸力学、代謝という複数の経路から喘息を悪化させます。
脂肪組織から産生されるIL-6や、NLRP3 inflammasomeを介したIL-1βは、Th17系を介して好中球性炎症に関与すると考えられています。
また、胸壁や腹部脂肪によって胸壁コンプライアンスや予備呼気量が低下し、低肺気量で呼吸することで気道径が狭くなります。睡眠時無呼吸症候群や胃食道逆流症などの併存症も喘息コントロールを悪化させます。
肥満を伴う喘息患者では減量によって喘息コントロールや肺機能が改善することが示されており、減量そのものが重要な喘息治療です。
しかし、喘息患者に対して「運動して痩せてください」と指導するだけでは十分ではありません。
運動によって咳嗽や喘鳴が誘発されれば運動を避けるようになり、活動量低下からさらに体重が増えるという悪循環に陥ります。増悪時の全身ステロイドも体重増加を助長します。
この点からも、運動だけに依存しない減量手段には大きな意義があります。
GLP-1受容体作動薬は喘息にも作用するのか
そこで注目されているのが、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)です。GLP-1受容体は膵臓だけでなく肺にも発現しており、気道上皮細胞、血管内皮細胞だけでなく、複数の免疫細胞にも発現が報告されています。
前臨床研究では、GLP-1RAによって気道炎症、粘液産生、気道過敏性が抑制され、肥満モデルでは好中球性気道炎症も抑制される可能性が示されています。
今回、新井先生が中心的に紹介したのは、Foerらが2021年に American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine に報告した研究です。
この研究では、2型糖尿病と喘息を併存する患者について、新たにGLP-1RAを開始した患者と、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬、スルホニル尿素薬、基礎インスリンを開始した患者を比較しました。
その結果、GLP-1RAを開始した患者では、他の糖尿病治療薬を開始した患者と比較して、その後6か月間の喘息増悪が少ないという関連が認められました。
さらに興味深いのは、BMI、HbA1cおよびそれらの変化量を調整しても、この関連が維持されたことです。
GLP-1RAによる喘息への影響が、単純な体重減少や血糖改善だけでは説明できない可能性を示す結果です。GLP-1受容体シグナルそのものが、気道炎症や気道平滑筋に直接作用している可能性も考えられます。
GLP-1RAが「T2-low喘息に効く」とはまだ言えない
ここは明確に区別する必要があります。
Foerらの研究では、血中好酸球数、FeNO、喀痰細胞分画などを用いたendotype分類は行われていません。したがって、この研究からGLP-1RAはT2-low喘息に有効であると結論づけることはできません。
また、対象は2型糖尿病を併存する患者に限られ、後ろ向き観察研究であるため、因果関係を証明した研究でもありません。
GLP-1RAが単なる減量を介して喘息を改善するのか、それとも気道炎症そのものにも作用するのかについては、今後の検証が必要です。
今後の検証―GATA-3試験
現在、肥満を伴う症候性喘息患者を対象として、セマグルチドの有効性を前向きに検討するGATA-3試験(NCT05254314)が進行しています。
糖尿病を合併しない肥満関連喘息患者を対象に、セマグルチド2.4 mg週1回とプラセボを比較する無作為化二重盲検Phase 2試験です。喘息コントロールに加えて、FeNOやperiostinなどの炎症指標、体重変化も評価されます。
2026年8月時点では登録を終了して追跡中で、結果はまだ公表されていません。
GLP-1RAによる喘息への効果が、減量による効果だけで説明されるのか、それとも気道炎症への直接的な作用も関与するのか。その点を検証する試験として結果が注目されます。
今回の勉強会から
T2-low喘息は、一時点の好酸球数やFeNOだけで判断できる単一の病態ではありません。過去のバイオマーカー、ステロイド使用状況、増悪時の所見を含めて評価することが重要です。
また、持続的にT2バイオマーカーが低い患者では、好中球性炎症や肥満・代謝異常など、T2炎症とは異なる病態にも目を向ける必要があります。
今回の勉強会では、その一つとして肥満関連喘息とGLP-1RAの可能性について学びました。
執筆担当者:亀田総合病院 呼吸器内科 舟木佳弘
参考文献
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