池田先生が国立がん研究センター東病院での研修とASCO 2026の注目演題について発表
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。
今回は、専攻医の池田先生が、国立がん研究センター東病院での3か月間の院外研修を振り返るとともに、ASCO 2026で発表された肺癌領域の注目演題について解説しました。
池田先生は2026年4月から6月まで国立がん研究センター東病院 呼吸器内科で院外研修を行い、7月から当科での研修を再開しています。
ASCO 2026から少し時間が経ちましたが、今回の発表では、ASCO 2026で発表されNew England Journal of Medicineに同時掲載された肺癌領域の2つの第III相試験、EGFR exon 20 insertion陽性進行非小細胞肺癌を対象としたWU-KONG28試験と、RET融合遺伝子陽性NSCLCを対象としたLIBRETTO-432試験を中心に紹介しました。
EGFR exon 20 insertion陽性肺癌の治療はどのように変わってきたか
EGFR exon 20 insertion(exon20ins)は、一般的なEGFR exon 19 deletionやL858Rとは薬剤感受性が異なり、従来のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)では十分な治療効果が得られにくい遺伝子変異です。
この領域では近年、EGFRとMETを標的とする二重特異性抗体amivantamabと、EGFR exon20insを標的とする経口EGFR-TKIであるsunvozertinibの登場により、治療選択肢が大きく変化しています。
まずPAPILLON試験では、未治療のEGFR exon20ins陽性進行NSCLCに対して、amivantamab+カルボプラチン+ペメトレキセド療法が化学療法単独と比較されました。PFS中央値は11.4か月対6.7か月(HR 0.40)で、amivantamab+化学療法により有意に延長しました。この結果を受け、ASCO Living Guidelineでも、EGFR exon20ins陽性進行NSCLCの1次治療としてamivantamab+platinum-based chemotherapyが推奨されています(Zhou, N Engl J Med 2023;ASCO Living Guideline 2026)。
一方、sunvozertinibについては、まずプラチナ製剤による治療後の患者を対象としたWU-KONG1B試験で有効性が検討されました。米国FDAが承認時に評価した200 mg投与群では、奏効率46%、奏効期間中央値11.1か月が報告され、2025年にプラチナ製剤治療後のEGFR exon20ins陽性進行NSCLCに対して迅速承認されました。
ASCO 2026直前に公表されたLiving Guidelineでは、1次治療としてamivantamab+platinum-based chemotherapyを使用し、病勢進行後には、それまでに受けた治療に応じてsunvozertinibやamivantamabを用いるという治療シークエンスが示されていました。具体的には、platinum chemotherapyとamivantamabの両方をすでに使用した患者ではsunvozertinib、platinum chemotherapy後でamivantamab未使用の場合にはamivantamabまたはsunvozertinibが選択肢とされています。
そこに、1次治療からsunvozertinibを使用したWU-KONG28試験の結果が加わりました。
1次治療からsunvozertinibを使用したWU-KONG28試験
WU-KONG28試験は、未治療の進行非扁平上皮NSCLCでEGFR exon20insを有する患者324例を対象に、sunvozertinibとカルボプラチン+ペメトレキセド療法を比較した国際第III相試験です。
163例がsunvozertinib群、161例が化学療法群に割り付けられ、主要評価項目は盲検独立中央判定によるPFSでした。
PFS中央値はsunvozertinib群10.3か月、化学療法群7.5か月で、病勢進行または死亡のリスクは35%低下しました(HR 0.65、95%CI 0.50–0.85)。12か月PFS率は46.1%対26.7%でした。
奏効率も58.9%対31.1%とsunvozertinib群で高く、奏効期間中央値は11.2か月対7.1か月でした(Zhou, N Engl J Med 2026)。
一方、安全性についてはGrade 3以上の有害事象がsunvozertinib群75.5%、化学療法群56.7%に認められました。sunvozertinib群ではCK上昇、下痢、貧血などが主なGrade 3以上の有害事象であり、皮疹や爪周囲炎などを含め、EGFR阻害に関連する有害事象への対応が必要となります。
WU-KONG28試験をPAPILLON試験とどう考えるか
EGFR exon20ins陽性NSCLCの1次治療としては、PAPILLON試験でamivantamab+化学療法のPFS中央値11.4か月、今回のWU-KONG28試験でsunvozertinibのPFS中央値10.3か月という結果が示されました。
しかし、この11.4か月と10.3か月を単純に比較して、どちらの治療が優れているかを判断することはできません。異なる患者集団を対象とした別々の臨床試験であり、直接比較試験ではないためです。
一方で、一方はamivantamabを含む点滴治療と化学療法の併用であり、もう一方は経口の分子標的薬単剤です。有効性だけではなく、投与方法、有害事象、患者さんの背景や希望、さらに病勢進行後にどの治療を残せるのかという治療シークエンスも含めて、今後どのように使い分けるかが重要になります。
WU-KONG28試験では90%以上がsunvozertinibへクロスオーバー
WU-KONG28試験を解釈するうえでもう一つ重要なのが、化学療法群からsunvozertinibへのクロスオーバーです。
本試験では、化学療法群で病勢進行が確認された場合、sunvozertinibへ移行することがあらかじめ許容されていました。実際に、病勢進行した化学療法群112例のうち101例(90.2%)がsunvozertinibを投与されています。
今回の解析時点ではOSデータはまだ未成熟で、イベント成熟度は38.9%でした。これほど高率にクロスオーバーが行われると、最初からsunvozertinibを使用することがOSをどの程度改善するかについては、単純な群間比較では評価しにくくなります。
逆に言えば、この試験が直接示しているのは「sunvozertinibを1次治療から使用すると、まず化学療法を行う場合に比べてPFSや奏効率を改善する」という点です。
今後は、amivantamab+化学療法とsunvozertinibのどちらを1次治療に選択するのかに加えて、1次治療後の治療シークエンスも重要な課題になります。
例えば、一般的なEGFR遺伝子変異陽性NSCLCでは、osimertinib後にamivantamab+化学療法を使用したMARIPOSA-2試験でPFS中央値6.3か月という成績が報告されています。しかしこれはEGFR exon19 deletionまたはL858Rを対象とした試験であり、sunvozertinib治療後のEGFR exon20ins陽性NSCLCにそのまま当てはめることはできません。
WU-KONG28試験によって新しい1次治療の選択肢が示された一方で、「その次に何を使うか」まで含めた最適な治療シークエンスについては、今後さらに検討が必要です。
RET融合遺伝子陽性NSCLCにも術後分子標的治療が広がる:LIBRETTO-432試験
続いて紹介されたのが、RET融合遺伝子陽性NSCLCに対する根治治療後のselpercatinibを検討したLIBRETTO-432試験です。
肺癌では、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するosimertinibのADAURA試験、ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対するalectinibのALINA試験など、ドライバー遺伝子を標的とする治療が進行・再発肺癌から周術期治療へと広がってきました。ADAURA試験では術後osimertinibによるDFSおよびOSの改善が、ALINA試験では術後alectinibによるDFSの改善が示されています。
LIBRETTO-432試験は、根治的局所療法を終了したStage IB–IIIAのRET融合遺伝子陽性NSCLC 151例を対象に、selpercatinibとプラセボを比較した第III相試験です。selpercatinibは最長3年間投与されました。
なお、対象となる根治的局所療法には手術だけでなく根治的放射線治療も含まれています。そのため、厳密には「術後」の患者だけを対象とした試験ではありませんが、肺癌における周術期・根治治療後の分子標的治療という流れの中に位置づけられる試験です。
主要評価項目はStage II–IIIA集団におけるEFS(event-free survival)でした。
Stage II–IIIA集団では、EFS中央値はselpercatinib群では未到達、プラセボ群では31.8か月で、イベント発生リスクは83%低下しました(HR 0.172、95%CI 0.058–0.509)。2年EFS率は91.5%対61.1%でした。
Stage IB–IIIAの全集団でもEFSはselpercatinib群で良好で、HR 0.165でした(Wu, N Engl J Med 2026)。
安全性については、これまでの進行RET融合遺伝子陽性NSCLCに対するselpercatinibの報告と概ね同様で、ALT、AST上昇が代表的な有害事象でした。Grade 3以上のALT、AST上昇も認められており、長期間の治療では適切な有害事象管理が必要です。
EGFR、ALKに続き、RETでも根治治療後の分子標的治療へ
今回のLIBRETTO-432試験は、肺癌における分子標的治療の対象が、進行・再発肺癌だけではなく、根治を目指す段階へさらに広がっていることを示す結果です。
EGFRに対するADAURA、ALKに対するALINAに続き、RET融合遺伝子陽性NSCLCでも根治治療後の分子標的治療によって再発リスクを大きく低下させることが示されました。
一方で、LIBRETTO-432試験のOSはまだ未成熟です。治療をいつまで継続するべきか、治療終了後の再発がどうなるか、長期間の治療に伴う有害事象や患者負担をどのように考えるかなど、今後確認すべき点も残されています。
また、RET融合遺伝子は比較的まれなドライバー遺伝子です。進行肺癌だけでなく根治治療が可能な段階でも適切な分子診断を行い、治療につながるドライバー遺伝子を見逃さないことの重要性が、さらに高まっていると考えられます。ASCOからも、LIBRETTO-432の結果は病期を問わない包括的なバイオマーカー検査の重要性を支持するものとして紹介されています。
まとめ
今回の発表では、池田先生が国立がん研究センター東病院での3か月間の院外研修を振り返るとともに、ASCO 2026で報告された肺癌領域の2つの第III相試験について解説しました。
WU-KONG28試験では、EGFR exon20ins陽性進行NSCLCの1次治療において、sunvozertinibが化学療法と比較してPFSと奏効率を改善しました。これまでamivantamab+化学療法を中心に考えられてきた1次治療に、経口EGFR-TKIという新たな選択肢が加わる可能性を示した結果です。
一方、90%を超えるクロスオーバーが行われていることや、amivantamab+化学療法との直接比較ではないことを踏まえると、PFS中央値だけを比較するのではなく、治療シークエンスや有害事象を含めて結果を考える必要があります。
LIBRETTO-432試験では、RET融合遺伝子陽性NSCLCに対する根治治療後のselpercatinibがEFSを大きく改善しました。EGFR、ALKに続き、RETでも分子標的治療が周術期・根治治療後へと広がりつつあります。
今回のレクチャーは、最新の臨床試験の結果を知るだけでなく、その結果が現在のガイドラインや既存治療の中でどこに位置づけられ、次の治療を含めて実際の診療をどのように変えるのかを考える機会となりました。
執筆担当者:亀田総合病院呼吸器内科 舟木佳弘
参考文献
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