伊藤光先生が振動メッシュネブライザーを含む吸入療法について発表
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。今回は、医員の伊藤光先生が、吸入療法の歴史とデバイスの進歩、さらに高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)、非侵襲的陽圧換気(NIV)、人工呼吸器管理中の吸入療法について解説しました。
伊藤先生は、呼吸サポートチーム(RST)で人工呼吸器管理中の患者さんに関わる機会に加え、吸入トレプロスチニルやサルグマリン®(サルグラモスチム)などの導入を経験したことから、吸入療法に関心を持ったとのことです。
2023年には、呼吸管理中の成人重症患者に対する吸入療法の国際コンセンサスステートメントが発表されました。さらに、2026年には振動メッシュネブライザー(vibrating mesh nebulizer:VMN)に関する日本版コンセンサスステートメントが発表され、『COPD診断と治療のためのガイドライン2026』でも、呼吸管理中の吸入療法とメッシュネブライザーについて取り上げられています(Li, Ann Intensive Care 2023;横山, Jpn J Respir Care 2026;日本呼吸器学会, 2026)。
吸入療法は「薬液を霧にすれば届く」わけではない
吸入療法は、薬剤を気道や肺に直接届けることができる投与経路です。一方で、肺は本来、外から入ってきた粒子を体内に侵入させないための防御機構を備えています。
そのため、薬剤を下気道まで届けるには、適切な粒子径をつくるという物理的障壁、薬剤の構造や活性を保つという化学的障壁、肺胞マクロファージなどに異物として処理される免疫学的障壁を越える必要があります。さらに、患者さん自身が適切な吸入手技を継続するという行動上の障壁もあります(Newman, Ther Deliv 2017)。
今回のレクチャーで特に印象的だったのは、ネブライザーを作動させていることと、薬剤が患者さんの下気道に届いていることは同じではないという点でした。
吸入デバイスはどのように進歩してきたか
吸入デバイスは、1940年代のジェットネブライザー(JN)から始まり、1956年には携帯可能な加圧噴霧式定量吸入器(pMDI)が登場しました。その後、超音波ネブライザー(USN)、ドライパウダー吸入器(DPI)、ソフトミスト吸入器(SMI)へと発展し、近年では振動メッシュネブライザー(VMN)が使用されるようになっています。
VMNが普及する以前は、pMDI、DPI、JN、USNについて、適切に使用された場合の臨床効果に明確な優劣を示す根拠は乏しく、患者さんの吸気能力、吸入手技、治療環境や費用などを考慮してデバイスを選択することが推奨されていました(Dolovich, Chest 2005)。
しかし、HFNC、NIV、人工呼吸器といった呼吸管理デバイスを使用している患者さんでは、事情が異なります。エアロゾルは、呼吸回路、加温加湿器、人工鼻、接続部位、呼吸器のガス流量などの影響を受けるためです。
なぜ呼吸管理中にはVMNが注目されるのか
従来のJNは、圧縮空気や酸素を加えて薬液を霧化します。人工呼吸器回路内で使用すると、追加されたガス流量によって吸入酸素濃度や人工呼吸器のトリガーに影響する可能性があります。また、機器によっては装着時に回路を開放する必要があり、気道内圧の低下や回路汚染も問題となります。
一方、VMNは微細な孔を持つメッシュを振動させて薬液を霧化します。HFNC、NIV、人工呼吸器などの呼吸回路内に組み込んで使用することができ、追加のガス流量を必要とせず、閉鎖された呼吸回路のまま薬剤を補充できることや、JNより薬液残留が少ないことが特徴です。人工呼吸器管理中の薬剤到達効率についても、VMNがJNより優れる可能性が示されています(Dugernier, Crit Care 2017)。
国際コンセンサスステートメントでは、侵襲的人工呼吸器管理中の吸入デバイスとして、VMNまたはスペーサーを用いたpMDIが推奨され、JNは推奨されていません(Li, Ann Intensive Care 2023)。ただし、VMNを用いれば自動的に十分な治療効果が得られるわけではなく、回路内の装着位置や薬剤の特性を含めた適切な運用が必要です。
HFNCの上からネブライザーマスクをかぶせてもよいのか
HFNC使用中の吸入療法は、日常診療で迷いやすい場面です。
HFNCは、患者さんの吸気需要を満たす高流量ガスを鼻腔から供給しています。そのため、鼻カニュラの上からネブライザーマスクをかぶせても、回路外で発生したエアロゾルを十分に取り込むことは困難です。現在のコンセンサスでは、HFNCの上からネブライザーマスクを装着する方法は推奨されていません。HFNCを原則として中断せず、VMNを回路内、具体的には加温加湿器の機械側である「ドライサイド」に組み込む方法が推奨されています(Li, Ann Intensive Care 2023;横山, Jpn J Respir Care 2026)。
日本で実施された全国アンケート調査では、HFNC使用中の喘息またはCOPD患者に短時間作用性β2刺激薬を投与する方法として、37.8%がネブライザーマスク、35.4%がpMDI、14.3%がHFNC回路内へのネブライザー接続を選択し、8.1%は吸入を行わないと回答していました。
また、HFNC回路内で使用するネブライザーとしてVMNを選択した回答者は16.0%にとどまり、48.8%は使用するデバイスが分からないと回答していました。吸入療法に詳しいと考えられる関連学会の会員を対象とした調査であっても、インラインネブライザーの概念が十分に普及していないことが示されています(Kobe, Intern Med 2025)。
吸入療法中も加温加湿器は止めない
加温加湿された回路では、乾燥した回路よりもエアロゾルの到達量が低下するという実験結果があり、以前は吸入中に加温加湿器を停止する運用も検討されていました(Ari, Respir Care 2010)。
しかし、加温加湿器を停止してから回路が乾燥するまで待つことは現実的ではなく、吸入終了後に電源を入れ忘れる危険もあります。臨床的な有効性が改善する明確な根拠も乏しいため、現在の国際および日本版ステートメントでは、吸入療法のために加温加湿器を停止しないことが推奨されています。
そのほか、呼吸管理中の吸入療法では、人工鼻は薬剤の沈着によって閉塞する可能性があるため外します。吸入のためだけに人工呼吸器の設定を変更することも、原則として推奨されません。
また、人工呼吸器の呼気側にはフィルターを装着しますが、薬剤や水分の沈着によるフィルター閉塞、呼気抵抗の上昇、換気量低下やauto-PEEPに注意し、呼気波形を観察しながら定期的に交換する必要があります(横山, Jpn J Respir Care 2026)。
VMNであれば何でもよいわけではない
VMNは薬剤到達効率に優れる一方、従来のJNと同じ投与量でも、実際に患者さんへ届く薬剤量が増える可能性があります。β2刺激薬であれば頻脈や動悸などの副作用にも注意が必要です。
また、市販されている小型のメッシュ式ネブライザーは、製品ごとに噴霧性能や薬剤残留量が異なります。一般的なハンドネブライザーと、人工呼吸器やHFNC回路への組み込みを前提に設計されたVMNを、同じものとして扱うことはできません。
使用する薬剤がそのデバイスで噴霧可能か、回路のどの位置に接続するか、投与量をどのように評価するかについて、医師、看護師、臨床工学技士、薬剤師が共通の手順を持つことが重要です。
まとめ
吸入療法では、薬剤を処方するだけでなく、どのデバイスを用い、どの位置から、どのような呼吸管理条件で投与するかまで考える必要があります。
特にHFNC、NIV、人工呼吸器を使用している患者さんでは、従来どおりのマスクネブライザーでは十分な薬剤到達を期待できず、VMNなどを用いて呼吸回路内に組み込む投与方法に変更すべき場面があります。
今回のレクチャーを通じて、HFNCの上からネブライザーマスクをかぶせる方法は推奨されないこと、加温加湿器の電源は切らないこと、人工鼻や呼気フィルターを含めて回路全体を確認することを学びました。
VMNの普及により、自然呼吸、HFNC、NIV、人工呼吸器管理中という異なる状況でも、呼吸管理を中断せずに吸入療法を行える可能性が広がっています。一方で、デバイスの特性を理解せずに使用すると、期待した治療効果が得られないだけでなく、安全上の問題を生じることもあります。吸入療法は、薬剤とデバイス、呼吸管理を一体として考える治療であることを再認識する機会となりました。
執筆担当者:亀田総合病院呼吸器内科 舟木佳弘
参考文献
1.Newman SP. Drug delivery to the lungs: challenges and opportunities. Ther Deliv. 2017;8(8):647-661. doi:10.4155/tde-2017-0037.
2.Dolovich MB, Ahrens RC, Hess DR, et al. Device selection and outcomes of aerosol therapy: evidence-based guidelines: American College of Chest Physicians/American College of Asthma, Allergy, and Immunology. Chest. 2005;127(1):335-371. doi:10.1378/chest.127.1.335.
3.Dugernier J, Ehrmann S, Sottiaux T, et al. Aerosol delivery during invasive mechanical ventilation: a systematic review. Crit Care. 2017;21(1):264. doi:10.1186/s13054-017-1844-5.
4.Li J, Liu K, Lyu S, et al. Aerosol therapy in adult critically ill patients: a consensus statement regarding aerosol administration strategies during various modes of respiratory support. Ann Intensive Care. 2023;13(1):63. doi:10.1186/s13613-023-01147-4.
5.Kobe H, Okuda M, Yoshida T, Oga T, Ito K. Short-acting β2 agonist inhalation therapy for asthma or chronic obstructive pulmonary disease with a high-flow nasal cannula in Japan: an online questionnaire survey by the Japanese Respiratory Society, Japanese Society of Intensive Care Medicine, and Japanese Society of Respiratory Care Medicine. Intern Med. 2025;64(17):2549-2556. doi:10.2169/internalmedicine.4863-24.
6.Ari A, Atalay OT, Harwood R, Sheard MM, Aljamhan EA, Fink JB. Evaluation of aerosol generator devices at 3 locations in humidified and non-humidified circuits during adult mechanical ventilation. Respir Care. 2010;55(7):837-844.
7.横山俊樹, 志馬伸朗, 五十嵐義浩, et al. 急性期呼吸管理中の振動メッシュネブライザーについての日本版ステートメント. 呼吸療法. 2026;43(1):83-92.
8.日本呼吸療法医学会. 人工呼吸器安全使用のための指針 第2版. 人工呼吸. 2011;28(2):210-225.
9.日本呼吸器学会COPDガイドライン第7版作成委員会, 編. COPD診断と治療のためのガイドライン2026. 東京: 日本呼吸器学会; 2026.