坂本先生がCOPDに対するメポリズマブの治療効果について発表
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。今回は、専攻医の坂本先生が、好酸球性炎症を伴うCOPDに対するメポリズマブの治療効果について報告されたMATINEE試験(Sciurba FC, et al. N Engl J Med 2025)について解説しました。
COPDにも生物学的製剤を考える時代へ
COPD治療は、長らく気管支拡張薬を中心に発展してきました。LAMA、LABA、ICSをどのように組み合わせるか、呼吸リハビリテーションや禁煙支援をどう継続するかが診療の中心でした。
一方で、近年はCOPDの中にも好酸球性炎症や2型炎症が関与する一群があることが注目されています。特に、十分な吸入治療を行っていても増悪を繰り返す患者さんでは、血中好酸球数を含めた炎症の評価が治療選択に関わるようになってきました。
2026年版のCOPD診療においても、COPDを一つの疾患として一括りにするのではなく、増悪を繰り返す患者さん、呼吸困難が主体の患者さん、慢性気管支炎症状が目立つ患者さんなど、臨床像に応じて治療を考える流れが強くなっています。
他の生物学的製剤はCOPDに有効か
COPDに対する生物学的製剤としては、デュピルマブが先行して注目されてきました。好酸球数が高く、慢性気管支炎症状を伴い、吸入三剤治療を行っても増悪を繰り返すCOPD患者さんにおいて、増悪抑制や肺機能改善が示されています。
今回取り上げたメポリズマブは、IL-5を標的とする抗体製剤です。IL-5は好酸球の成熟や生存に関わるサイトカインであり、重症喘息ではすでに広く使用されています。米国では、好酸球性表現型を有するCOPD患者さんに対する追加維持療法として承認されており、COPDにおける治療選択肢が広がりつつあります。
メポリズマブは以前からCOPDで検討されていた
COPDに対するメポリズマブの検討は、今回のMATINEE試験が初めてではありません。2017年にはMETREX試験とMETREO試験がNEJMに報告され、血中好酸球数が高いCOPD患者さんで増悪を減らす可能性が示されました。
一方で、2つの試験結果は完全には一致せず、この時点では「有望なシグナルはあるが、さらに確認が必要」という位置づけでした。今回のMATINEE試験は、その流れを踏まえて、好酸球性COPDに対するメポリズマブの上乗せ効果を改めて検証した試験といえます。
MATINEE試験の目的
MATINEE試験の目的は、好酸球性炎症を伴い、十分な吸入治療を受けていても増悪を繰り返すCOPD患者さんに対して、メポリズマブを上乗せすることで増悪を減らせるかを検討することでした。
COPDでは、症状の強さと増悪リスクが必ずしも一致しません。日常の息切れが強い患者さんもいれば、普段の症状はそれほど目立たないものの、年に何度も増悪を繰り返す患者さんもいます。MATINEE試験は、後者、すなわち「増悪を繰り返す好酸球性COPD」に焦点を当てた試験です。
試験デザイン
MATINEE試験は、好酸球性炎症を伴うCOPD患者さんを対象に、最適化された吸入三剤治療にメポリズマブ100mgを4週ごとに皮下投与で上乗せした場合の有効性と安全性を、プラセボと比較して評価した、第III相、無作為化、二重盲検、並行群間比較試験です。
試験は2019年10月から2023年8月まで実施され、COVID-19流行の影響で一時中断を挟んだため、観察期間は52週から104週に及びました。
組み入れ基準では、末梢血好酸球数がスクリーニング時に300/μL以上であること、過去12か月にも好酸球数上昇の記録があること、吸入治療を行っていても増悪を認めていることなどが求められました。一方、喘息の既往がある患者さんは除外されており、喘息合併例ではなく、COPDとしての好酸球性炎症を評価する試験として設計されています。
主要評価項目:増悪は21%減少
主要評価項目は、中等度または重度のCOPD増悪の年間発生率でした。
結果として、メポリズマブ群ではプラセボ群と比較して、中等度または重度増悪の年間発生率が21%低下しました。Rate ratioは0.79で、統計学的にも有意な差が示されました。
これは、COPDに対するメポリズマブの効果を考えるうえで重要な結果です。特に、対象が吸入三剤治療を受けていても増悪を繰り返す患者さんであったことを考えると、従来治療の上に追加できる新しい選択肢としての可能性を示した試験といえます。
症状やQOLでは大きな差は出ていない
一方で、CAT、SGRQ、E-RSなどの患者報告アウトカムでは、メポリズマブ群とプラセボ群の間に明確な差は示されませんでした。
この点は、実臨床での説明において重要です。メポリズマブは、COPD患者さんの息切れや日常症状をすぐに改善する薬剤というよりも、好酸球性炎症を背景に増悪を繰り返す患者さんで、増悪リスクを下げることを期待する薬剤として理解する必要があります。
肺機能についても、大きな改善を期待するというより、増悪抑制を通じて長期的な安定化を目指す治療と考えるのが自然です。今回の試験では、肺機能のわずかな差を検出するための検出力には限界があった可能性もあります。
好酸球数を測る意義
MATINEE試験からの大きなメッセージは、COPD診療において血中好酸球数を確認する意義がさらに高まったということです。
COPD患者さんを診たとき、気流閉塞の程度、喫煙歴、画像所見、慢性気管支炎症状、呼吸困難の程度、増悪歴を確認することは当然重要です。そこに加えて、末梢血好酸球数を測定することで、吸入ステロイド薬の適応や、生物学的製剤の対象となりうる患者さんを考える手がかりになります。
坂本先生からも、今回のTake home messageとして、「COPDを診たら好酸球数を測る」という点が強調されました。これは、明日からの診療にそのまま反映しやすい重要な視点です。
デュピルマブとメポリズマブをどう考えるか
今後の論点の一つは、COPDにおけるデュピルマブとメポリズマブの位置づけです。
現時点では直接比較試験があるわけではないため、どちらが優れていると単純に結論づけることはできません。両薬剤とも、既存の吸入治療を行っていても増悪を繰り返し、血中好酸球数が高いCOPD患者さんに対して、増悪抑制を期待する薬剤として検討されています。
一方で、標的とする炎症経路は異なります。デュピルマブはIL-4/IL-13経路を、メポリズマブはIL-5経路を標的とする薬剤です。また、デュピルマブでは増悪抑制に加えて肺機能改善も示されており、メポリズマブでは今回のMATINEE試験で増悪抑制効果が示された一方、CATなどの日常症状やQOL指標では明確な差は示されませんでした。
FeNOについては、喫煙により低下しうることもあり、COPDでは喘息ほど単純に解釈できません。それでも、2型炎症を考えるうえで参考になる可能性があり、血中好酸球数、慢性気管支炎症状、増悪歴、喘息様の要素、併存する2型炎症性疾患などとあわせて評価していく必要があります。
ATS 2026に参加・発表した坂本先生からの視点
今回の発表では、ATS 2026に参加・発表した坂本先生から、現地で議論されていたCOPD診療の考え方についても紹介がありました。
印象的だったのは、喘息とCOPDを完全に別々の疾患として扱うだけでなく、気流閉塞をきたす疾患群として、より連続的に捉える視点です。喘息はGINA、COPDはGOLDという枠組みで整理されてきましたが、実臨床では、喘息らしい炎症を持つ患者さん、COPDらしい構造変化が主体の患者さん、呼吸困難が主な問題となる患者さん、増悪を繰り返す患者さんが混在しています。
そのため、まず気流閉塞のプロファイルを整理し、その患者さんの主な問題が呼吸困難なのか、増悪を繰り返すことなのかを見極めることが重要になります。呼吸困難が主体であればLAMA/LABAを中心とした気管支拡張や呼吸リハビリテーションが治療の中心となり、増悪を繰り返すことが主体であれば、ICSの適応や血中好酸球数、今後は生物学的製剤の位置づけを考えることになります。
坂本先生からは、ATSでの経験を通じて、英語で発表し、海外の議論に直接触れることで、普段の診療を少し違う角度から見直すきっかけになったという感想も共有されました。今回のMATINEE試験も、そうしたCOPD診療の変化を考えるうえで、興味深い論文といえます。
まとめ
MATINEE試験では、好酸球性炎症を伴い、吸入治療を行っていても増悪を繰り返すCOPD患者さんに対して、メポリズマブを上乗せすることで中等度または重度増悪の年間発生率が低下しました。
一方で、CATなどの日常症状やQOL指標では明確な差は示されておらず、メポリズマブはCOPDの息切れを直接改善する薬剤というより、好酸球高値で増悪を繰り返す患者さんの増悪抑制を期待する薬剤として理解するのが自然です。
今回の抄読会では、COPD診療でも、気流閉塞の程度だけでなく、増悪歴、日常症状、慢性気管支炎症状、血中好酸球数などを組み合わせて患者さんの病態を考えることの重要性が共有されました。坂本先生がATS 2026で得た視点も加わり、COPD診療の今後の変化を考えるよい機会となりました。
執筆担当者:亀田総合病院呼吸器内科 舟木佳弘
参考文献
1.Sciurba FC, Criner GJ, Christenson SA, et al. Mepolizumab to Prevent Exacerbations of COPD with an Eosinophilic Phenotype. N Engl J Med. 2025;392:1710-1720.
2.Pavord ID, Chanez P, Criner GJ, et al. Mepolizumab for Eosinophilic Chronic Obstructive Pulmonary Disease. N Engl J Med. 2017;377:1613-1629.
3.Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease. Global Strategy for Prevention, Diagnosis and Management of COPD: 2026 Report.
4.日本呼吸器学会COPDガイドライン第7版作成委員会. COPD診断と治療のためのガイドライン2026〔第7版〕.