永井先生が重症喘息におけるデペモキマブへの切り替えについて発表
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。今回は、部長代理の永井先生が、重症喘息に対する新しい抗IL-5抗体製剤であるデペモキマブと、メポリズマブ/ベンラリズマブからの切り替えを検討したNIMBLE試験について解説しました。
重症喘息治療における新たな選択肢
デペモキマブは、IL-5を標的とする長時間作用型の抗体製剤です。気管支喘息に対しては、成人および12歳以上の小児に、1回100mgを26週間ごとに皮下注射します。
重症喘息の生物学的製剤は、長期にわたって継続することが多く、通院や自己注射の負担が問題になることがあります。その中で、半年に1回の投与で治療を継続できるという点は、患者さんにとって大きな利点になりうる特徴です。
2型炎症をどこで抑えるか
重症喘息では、2型炎症をどの経路で制御するかが重要です。IL-5は好酸球の成熟や生存に関わる主要なサイトカインであり、メポリズマブやデペモキマブはIL-5を標的とします。一方、ベンラリズマブはIL-5受容体αを標的とし、好酸球を強く抑制する薬剤です。
また、IL-4/IL-13経路はIgE産生、粘液産生、気道過敏性などに関与し、抗IL-4Rα抗体の治療標的になります。さらに、IgEを介する経路も、アレルギー性喘息では重要な治療軸です。
つまり、生物学的製剤の選択では、「どの薬剤が強いか」だけではなく、その患者さんの病態にどの炎症経路が強く関わっているかを考える必要があります。
SWIFT-1/SWIFT-2とNIMBLEは分けて考える
デペモキマブの有効性は、NEJMに報告されたSWIFT-1/SWIFT-2試験で示されました。これらは、好酸球性の表現型を有する重症喘息患者を対象に、デペモキマブを標準治療に追加することの有効性を検討した試験です。
一方、今回の抄読会で中心に扱ったNIMBLE試験は、デペモキマブを新規に追加する試験ではなく、すでにメポリズマブまたはベンラリズマブで臨床的利益を得ている患者さんを、デペモキマブへ切り替えてもよいかを検討した試験です。
この違いは、実臨床での使い方を考えるうえで非常に重要です。
NIMBLE試験を読む前提:半年に1回投与の価値と難しさ
デペモキマブの最大の特徴は、26週間に1回の投与で治療を継続できる点です。これは、通院や自己注射の負担を減らせる可能性があり、長期治療を要する重症喘息では大きな価値があります。
一方で、永井先生からは、半年に1回の投与であるからこそ、治療効果が不十分な患者さんや発作を繰り返す患者さんでは、使いどころを慎重に考える必要があるのではないか、という視点が示されました。投与間隔が長いことは利便性である一方、コントロールが不安定な患者さんでは、効果判定や次の治療判断をどのタイミングで行うかが難しくなる可能性があります。
そのため、実臨床でまず想定されるのは、現在メポリズマブやベンラリズマブで極めて安定している患者さんにおいて、治療効果を維持しながら治療負担を軽減できるか、という場面です。永井先生も、デペモキマブの使いどころとして、既存治療で十分に安定している患者さんの切り替えが一つの候補になるのではないかと考えていたところに、まさにこの点を検討するNIMBLE試験が報告された、という流れで今回の論文を紹介しました。
NIMBLE試験の概要
NIMBLE試験は、メポリズマブまたはベンラリズマブで治療中の重症喘息患者さんを対象に、デペモキマブへ切り替えた場合の有効性と安全性を、これまでの治療を継続した場合と比較して評価した、52週間の無作為化、二重盲検、並行群間比較、多施設共同第III相非劣性試験です。
対象は、12歳以上で、メポリズマブ100mgを4週ごと、またはベンラリズマブ30mgを8週ごとに12か月以上使用し、臨床的利益を得ていた重症喘息患者です。COPD、EGPA、レスリズマブ使用例などは除外されていました。
主要評価項目は、52週間における臨床的に重要な喘息増悪の年間発生率でした。副次評価項目として、前治療薬別の増悪率、SGRQ、ACQ-5、FEV1の変化、安全性などが評価されました。
対象患者の背景
対象患者の平均年齢は58歳前後で、白人が約8割、アジア人が2割弱でした。喘息罹病期間は20年を超えており、長期にわたり重症喘息として治療されてきた集団といえます。
血中好酸球数は中央値で30/μL程度と低値でしたが、これは対象患者の多くがすでにメポリズマブまたはベンラリズマブで治療されていたためと考えられます。新規導入試験とは異なり、NIMBLE試験は「すでに抗IL-5/IL-5R抗体で治療されている患者さん」の切り替えを検討している点が特徴です。
主要評価項目:統計学的な非劣性基準は満たさず
主要評価項目である52週間の喘息増悪の年間発生率は、デペモキマブ切り替え群で0.57、メポリズマブ/ベンラリズマブ継続群で0.49でした。rate ratioは1.16で、95%信頼区間は0.98–1.38でした。
事前に設定された非劣性マージンは1.28であり、95%信頼区間の上限がこれを超えたため、統計学的には非劣性基準を満たしませんでした。
ただし、この結果は、デペモキマブの有効性を否定するものではありません。両群とも全体として増悪率は低く、多くの患者さんでは切り替え後も大きな増悪なく経過しました。また、SGRQ、ACQ-5、FEV1は52週間を通じて概ね維持されていました。
前治療薬別にみると、メポリズマブとベンラリズマブで印象が異なる
NIMBLE試験で実臨床上特に重要なのは、前治療薬別の結果です。
メポリズマブからデペモキマブへ切り替えた患者さんでは、年間増悪率は切り替え群と継続群でほぼ同等でした。一方、ベンラリズマブからデペモキマブへ切り替えた患者さんでは、継続群と比較して増悪率がやや高い傾向が示されました。
この結果から、メポリズマブで安定している患者さんをデペモキマブに切り替える場合と、ベンラリズマブで安定している患者さんをデペモキマブに切り替える場合は、同じようには考えない方がよい可能性があります。
ベンラリズマブはIL-5受容体αを標的とする薬剤であり、IL-5そのものを標的とするメポリズマブやデペモキマブとは作用点が異なります。この作用機序の違いが、切り替え後の臨床経過に影響する可能性も考えられます。
この結果をどう実臨床に活かすか
NIMBLE試験は、デペモキマブを一律に切り替え薬として位置づけるための試験ではありません。すでに抗IL-5/IL-5受容体抗体で安定している患者さんにおいて、治療効果を保ちながら、通院や自己注射の負担を減らせるかを検討した試験といえます。
半年に1回投与という特徴は、重症喘息治療における大きな利点です。通院回数や自己注射の負担を減らせることに加え、患者さんによっては年間の経済的負担が軽くなる可能性もあります。一方で、増悪を繰り返している患者さんや、現在の治療でコントロールが不安定な患者さんでは、投与間隔の長さが必ずしも利点だけになるとは限りません。
永井先生の私見としては、デペモキマブは、無効例や発作を繰り返す患者さんに積極的に切り替えていく薬剤というよりも、メポリズマブやベンラリズマブで極めて安定している患者さんにおいて、治療負担を軽減する目的で検討する薬剤、という位置づけでした。今回のNIMBLE試験は、その臨床上の問いに対して、一定の手がかりを与える試験です。
特に、メポリズマブで長期間安定しており、年間増悪が少なく、経口ステロイドを使用していない、または少量で安定している患者さんでは、デペモキマブへの切り替えを検討しやすい可能性があります。一方で、ベンラリズマブで安定している患者さんでは、これまでの増悪歴やコントロール状況を踏まえ、切り替え後の経過をより丁寧に確認する必要があります。
まとめ
デペモキマブは、26週間に1回投与という特徴を持つ、新しい抗IL-5抗体製剤です。重症喘息治療において、治療効果だけでなく、通院や自己注射の負担を減らせる可能性がある点は大きな意義があります。
NIMBLE試験では、メポリズマブまたはベンラリズマブで安定している患者さんを対象に、デペモキマブへの切り替えが検討されました。主要評価項目では統計学的な非劣性基準を満たしませんでしたが、全体として増悪率は低く、症状、QOL、肺機能は概ね維持されていました。
当科では、デペモキマブを重症喘息治療における新たな選択肢として期待しつつ、患者さんごとの病態、増悪歴、現在の安定性、前治療薬、治療負担、希望を踏まえて、切り替えの適応を慎重に考えていきたいと思います。
執筆担当者:亀田総合病院呼吸器内科 舟木佳弘
参考文献
1.Jackson DJ, et al. Twice-Yearly Depemokimab in Severe Asthma with an Eosinophilic Phenotype. N Engl J Med. 2024.
2.Chupp G, et al. Switching to twice-yearly depemokimab from mepolizumab/benralizumab in severe asthma: a multicenter, randomized, double-blind, Phase 3A Clinical Trial. Am J Respir Crit Care Med. 2026.