亀田総合病院 呼吸器内科

加藤元康先生・宿谷威仁先生をお招きし、南房総呼吸器セミナーを開催いたしました

講演会報告

2026528日(木)、順天堂大学大学院医学研究科呼吸器内科学の加藤元康先生、宿谷威仁先生をお招きし、「南房総呼吸器セミナー~間質性肺疾患と肺癌治療の最新トレンド~」と題した講演会をハイブリッド形式で開催いたしました。加藤先生には現地で、宿谷先生にはオンラインでご講演いただきました。

 

当日は当科の中島主任部長がOpening Remarkを行った後、伊藤部長が座長を務め、加藤先生より「進行性線維化を意識した間質性肺疾患の診療」についてご講演いただきました。続いて、大槻部長が座長を務め、宿谷先生より「HER2陽性非小細胞肺癌治療の新たな治療オプション~Beamion Lung-1試験の結果から~」と題してご講演いただきました。

Opening Remarkでは、中島主任部長より、間質性肺疾患と肺癌治療における最近のトピックスについて概説がありました。特に、IPF/PPFに対する新規治療薬の登場、HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対する治療選択肢の変化など、近年大きく動いている領域について、本講演会の位置づけが共有されました。

 

1.ILDの現状:IPF以外のILDに目を向ける

前半の加藤先生のご講演では、まず間質性肺疾患(interstitial lung diseaseILD)の診療において、どのように診断し、どのように進行性の症例を見つけるかについてご講演いただきました。まず、ILDの分類を考える上で、2018年のNEJM総説を示され、米国のILD診療における推定分布として、IPF、慢性過敏性肺炎、CTD-ILD、サルコイドーシスがいずれも約20%と示されており(Lederer, NEJM 2018)、実際に加藤先生が最近まとめられた順天堂医院の診療実績でもIPF18%程度で膠原病肺やIPAFが多いことをご報告されました。

2025年のERS/ATS statementでは、これまでの特発性間質性肺炎の分類から二次性の間質性肺炎も含めたものへとの整理されており(Ryerson, ERJ 2025)、IPF以外のILDの診断の重要性が増していることを強調されました。

 

2.進行性線維化の考え方:DLCO低下の解釈に注意する

進行性線維化の評価については、まずIPFの多様な疾患経過について解説いただきました。2011年のATS/ERS/JRS/ALAT statementでは、IPFは一様に進行する疾患ではなく、比較的安定して経過する例、緩徐に進行する例、急速に進行する例、急性増悪をきたす例などが示されています(Raghu, AJRCCM 2011)。このような「疾患が進行するかどうか」を意識する考え方は、その後、IPF以外の線維性ILDにも拡張され、2022年のIPF/PPFガイドラインではPPFの定義として整理されました(Raghu, AJRCCM 2022)。従来のPF-ILD、特にINBUILD試験で用いられた基準(Flaherty, NEJM 2019)では24ヶ月以内の進行、PPF12ヶ月以内の進行という違いに加えて、PPFではDLCO低下が基準に入った点が異なりますが、肺高血圧症や右心不全など、線維化進行以外の病態を拾い上げている可能性にも注意が必要であるという点が印象に残りました。

 

3.呼吸困難と労作時低酸素をどう評価するか

呼吸困難の評価についても、具体的な問診の工夫をご紹介いただきました。患者さんご本人には、「足腰が弱くなっていないのに、以前できていたことができなくなっていないか」「人より歩くスピードが落ちていないか」「歩くときに動悸を感じないか」「苦しいために階段を避けるようになっていないか」といった聞き方をすることで、単に息切れがありますかと尋ねるよりも生活上の変化を把握しやすくなります。また、ご家族から、歩き方が小刻みになっていないか、外出頻度が減っていないかを確認することも重要であると示されました。

 

本邦では、20244月に特発性間質性肺炎の重症度分類が改訂され、6分間歩行試験における労作時低酸素血症の評価がより重要になりました。6分間歩行試験でSpO₂90%未満となる症例では予後が不良であることが報告されており、安静時の酸素化だけでは拾えない病態をどう評価するかが問題になります(Kondoh, Respirology 2017)。実地臨床では、6分間歩行試験を毎回実施することが難しい場面もありますが、1分間椅子立ち上がりテストや自宅でのパルスオキシメーターを用いた歩行後SpO₂の確認など、より簡便な方法を組み合わせる意義も紹介されました(Briand, Ther Adv Respir Dis 2018; Oishi, NPJ Prim Care Respir Med 2022)。

 

4.典型的なIPF患者はたくさんいるのか:炎症と線維化のグラデーション

続いて、IPF/PPFの考え方について、加藤先生は「典型的なIPF患者は実際にどれくらいいるのか」という視点から解説されました。線維性ILDでは、疾患特異的な挙動を示すearly phaseと、進行性の線維化が主体となるlate phaseを意識することが重要となります(Wijsenbeek, NEJM 2020)。線維化が進行した段階では、炎症が主体の病態と線維化が主体の病態が明確に分けられるわけではなく、多くの症例がそのグラデーションの中に位置づけられます。以前は、IPFかどうかが抗線維化薬の適応を考えるうえで大きな判断軸でしたが、現在は、線維化がどの程度進行しているのか、炎症がどの程度残っているのか、治療介入によって変化しうる成分があるのかを見極めることが求められます。

この点に関連して、順天堂医院で行われているmultidisciplinary discussionMDD)の実際もご紹介いただきました。病歴、画像、呼吸機能、血清マーカー、気管支肺胞洗浄液所見、病理所見などを総合し、炎症と線維化の程度を評価したうえで、免疫抑制療法、抗線維化薬、あるいはその組み合わせを検討していく過程は、ILD診療におけるMDDの重要性を改めて実感する内容でした。

 

5.Nerandomilastに期待される役割

新規抗線維化薬であるnerandomilast(ジャスケイド®)についても、最新の臨床試験データを踏まえてお話しいただきました。NerandomilastPDE4B阻害薬であり、cAMPを介した抗線維化作用に加え、免疫調整にも関与する可能性が示唆されています。FIBRONEER-IPF試験およびFIBRONEER-ILD試験では、IPFおよびPPFにおいて、52週時点のFVC低下をプラセボと比較して抑制することが示されました(Richeldi, NEJM 2025; Maher, NEJM 2025)。さらに、IPFおよびPPFの長期フォローアップにおいてもFVC低下抑制効果が持続することが報告されており、既存薬とは異なる作用機序をもつ治療選択肢として今後の位置づけが注目されます(Oldham, AJRCCM 2026; Wijsenbeek, ERJ 2026)。

特にPPFでは、FVC低下抑制に加えて、死亡や急性増悪などのイベントに関するデータも紹介されました。抗線維化作用に加えて免疫調整作用も関与している可能性があり、PPFにおける今後の位置づけが注目される内容でした。

 

 

6.HER2遺伝子変異陽性肺癌の治療開発

後半の宿谷先生のご講演では、HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺癌の治療について、基礎から最新の臨床試験まで幅広くお話しいただきました。

IV期非小細胞肺癌においては、治療方針を考えるうえでドライバー遺伝子変異・転座を正確に同定することが重要です。HER2異常には、HER2遺伝子変異、HER2遺伝子増幅、HER2蛋白過剰発現がありますが、肺癌において治療標的として特に重要なのはHER2遺伝子変異です。HER2遺伝子変異は非小細胞肺癌の23%程度に認められ、他臓器癌と比較して挿入・欠失変異の頻度が高いこと、HER2キナーゼドメインの構造変化によりシグナルが恒常的に活性化されることが解説されました(Shigematsu, Cancer Res 2005; Capuzzo, NEJM 2006)。

これまでHER2遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対しては、pan-HER阻害薬なども検討されてきましたが、十分な治療選択肢が確立されたとはいえない時期が続きました。その後、HER2を標的とした抗体薬物複合体(antibody-drug conjugateADC)であるtrastuzumab deruxtecanT-DXd)が登場し、DESTINY-Lung01試験、DESTINY-Lung02試験の結果をもとに、HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対する重要な治療選択肢となりました(Li, NEJM 2022; Goto, JCO 2023)。


7.T-DXdADC関連肺障害

一方で、T-DXdでは間質性肺疾患・肺臓炎が重要な有害事象として知られています。宿谷先生からは、ADCの構造、抗体、リンカー、ペイロード、血中での安定性、腫瘍外での薬剤放出など、ADC関連肺障害を考えるうえでの基礎的な視点もご紹介いただきました(Liao, Drug Des Devel Ther 2025)。近年はT-DXd関連肺障害の機序としてマクロファージに注目した研究も報告されており(Wei, Cancer Res 2025)、薬剤性肺障害を診療する呼吸器内科医にとっても興味深い内容でした。

 

8.Zongertinibの有効性と安全性

続いて、zongertinibについて解説いただきました。Zongertinibは、HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対する新規HER2チロシンキナーゼ阻害薬であり、Beamion LUNG-1試験の結果が報告されています(Heymach, NEJM 2025)。治療歴のあるHER2チロシンキナーゼドメイン変異陽性非扁平上皮非小細胞肺癌を対象としたコホートでは、120mg 11回投与により高い奏効率が示され、奏効の深さや無増悪生存期間の点でも有望な結果が示されました。脳転移を有する患者さんが一定数含まれていたことも、実臨床での治療選択を考えるうえで重要な情報でした。

安全性については、HERファミリー阻害薬として、下痢、AST上昇、ALT上昇、発疹、悪心などが主な有害事象として示されました。一方で、Grade 3以上の有害事象や治療中止に至る有害事象は比較的少ないことも報告されています。下痢は投与開始後早期、とくに最初の1か月以内に出現しやすく、発現時にはEGFR-TKIで経験する下痢と同様に、早期のロペラミド投与や支持療法を行うことが重要ですが、免疫チェックポイント阻害薬の使用歴がある症例では、irAE腸炎など別の病態も念頭に置く必要がある点についてもコメントされました。

肝機能障害についても、25週目頃の比較的早期に出現することがある一方、遅発性に認める場合もあるため、ASTALTだけでなくビリルビンを含めた評価により、休薬や中止の判断を行う必要があります。ドライバー遺伝子陽性肺癌では、免疫チェックポイント阻害薬投与後に分子標的治療薬を導入する場合、有害事象に注意が必要とされており、HER2遺伝子変異陽性肺癌においても治療順序をどう考えるかは今後の重要な論点です。

また、zongertinibHER2チロシンキナーゼドメイン変異だけでなく、non-TKD変異や、HER2を標的としたADC治療歴を有する患者さんに対するデータも示されつつあります。T-DXd後であっても一定の奏効が期待される可能性があることは、実臨床において重要です。一方で、症例数はまだ限られており、どの変異型でどの程度の効果が期待できるのか、治療ラインをどのように位置づけるのかについては、今後のデータの蓄積が必要であることも示されました。

 

9.HER2阻害薬の今後の展開

さらに、HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対する別のHER2阻害薬として、sevabertinibについてもご紹介いただきました。SOHO-01試験では、HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対する抗腫瘍効果が報告されており、HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺癌の治療開発が急速に進んでいることを実感しました(Le, NEJM 2025)。

 

まとめ

加藤先生のご講演では、純粋な線維化のみを示すIPFは少なく、実際には炎症と線維化が混在するILD症例がしばしば存在することを理解し、可能であればMDDを行い、炎症や線維化の程度・時系列(進行性の有無)を確認して診療を行う重要性を学びました。今後は、新規抗線維化薬を必要とする患者さんに適切に届けられるよう、実臨床での位置づけを考えていきたいと思います。

宿谷先生のご講演では、非小細胞肺癌におけるHER2異常として、HER2遺伝子変異、HER2遺伝子増幅、HER2蛋白過剰発現があること、その中でもHER2遺伝子変異が非小細胞肺癌の23%に認められることを整理していただきました。また、T-DXdzongertinibの違い、ADCHER2-TKIの位置づけ、今後の治療戦略について学びました。

多分野のエキスパートをそろえる順天堂大学呼吸器内科学医局の診療・研究の深さを感じる、大変貴重な機会となりました。

 

ご多忙のなか、鴨川までお越しいただきました加藤元康先生、オンラインでご講演いただきました宿谷威仁先生に、改めて深く御礼申し上げます。会場ならびにオンラインでご参加いただいた皆さまにも心より感謝申し上げます。

 

執筆担当者:亀田総合病院 呼吸器内科 舟木 佳弘

 

参考文献

1Lederer DJ, Martinez FJ. Idiopathic Pulmonary Fibrosis. N Engl J Med. 2018 May 10;378(19):1811-1823.

2Ryerson CJ, Adegunsoye A, Piciucchi S, et al. Update of the international multidisciplinary classification of the interstitial pneumonias: an ERS/ATS statement. Eur Respir J. 2025;66(6):2500158.

3Raghu G, Collard HR, Egan JJ, et al. An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Statement: Idiopathic Pulmonary Fibrosis: Evidence-based Guidelines for Diagnosis and Management. Am J Respir Crit Care Med. 2011 Mar 15;183(6):788-824.

4Raghu G, Remy-Jardin M, Richeldi L, et al. Idiopathic Pulmonary Fibrosis (an Update) and Progressive Pulmonary Fibrosis in Adults: An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline. Am J Respir Crit Care Med. 2022 May 1;205(9):e18-e47.

5Flaherty KR, Wells AU, Cottin V, et al. Nintedanib in Progressive Fibrosing Interstitial Lung Diseases. N Engl J Med. 2019 Oct 31;381(18):1718-1727.

6Kondoh Y, Taniguchi H, Kataoka K, et al. Disease severity staging system for idiopathic pulmonary fibrosis in Japan. Respirology. 2017 Nov;22(8):1609-1614.

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11Maher TM, Assassi S, Azuma A, et al.; FIBRONEER-ILD Trial Investigators. Nerandomilast in Patients with Progressive Pulmonary Fibrosis. N Engl J Med. 2025 Jun 12;392(22):2203-2214.

12Oldham JM, Azuma A, Kreuter M, et al.; FIBRONEER-IPF Trial Investigators. Nerandomilast in idiopathic pulmonary fibrosis: data from the whole follow-up period of the FIBRONEER-IPF trial. Am J Respir Crit Care Med. 2026 May 1;212(5):972-980.

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18Liao D, Zhang J, Yan T, et al. A Systematic Review of Mechanisms, Incidence, and Management of Trastuzumab Deruxtecan Induced ILD/Pneumonitis in Solid Tumors. Drug Des Devel Ther. 2025;19:1655-1668.

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21Le X, Kim TM, Loong HH, et al. Sevabertinib in Advanced HER2-Mutant Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2025 Nov 6;393(18):1819-1832.