亀田総合病院 呼吸器内科

宮本篤先生をお招きし、講演会を開催いたしました

講演会報告

2026423日(木)、虎の門病院 呼吸器センター内科 医長・間質性肺疾患包括治療センター センター長の宮本 篤先生をお招きし、「肺がん治療における薬剤性肺障害を再考する」と題した講演会をハイブリッド形式で開催いたしました。当日は当科の伊藤部長、中島主任部長が座長を務め、舟木より免疫チェックポイント阻害薬関連肺障害と間質性陰影の関連についてお話しした後、宮本先生より「間質性肺炎合併肺がんの治療戦略~何を考えないといけないのか~」と題してご講演いただきました。

 

前半では、舟木より、背景因子を調整した解析においても、治療前CTで間質性陰影(interstitial lung abnormalityILA)を有する肺がん症例では、ILAを有さない症例と比較して免疫チェックポイント阻害薬関連肺障害(CIP)の発症率が高いこと、また当院における免疫チェックポイント阻害薬レジメン別のCIP発症状況について紹介しました。

 

後半の宮本先生のご講演では、2025年に新設された虎の門病院間質性肺疾患包括治療センターの取り組みを導入に、間質性肺炎合併肺がんの疫学、薬物療法、免疫チェックポイント阻害薬の位置づけ、ILA/ILDの評価、抗線維化薬の可能性まで、最新の文献を交えて幅広くお話しいただきました。同センターでは、難病としての間質性肺疾患診療、間質性肺炎合併肺がん診療、がん治療に伴う薬剤性肺障害を含めた肺合併症診療を柱として、多診療科・多職種が連携しながら患者さんを支える体制を構築されています。

 

間質性肺炎合併肺がんの疫学については、肺線維症合併肺がんに関する世界的な研究動向をまとめたレビューを紹介され、日本からも多くの研究が発信されていることに触れられました(Li, Front Immunol 2025)。また、特発性肺線維症(IPF)患者における肺がん発症リスク、線維化巣や気腫性変化の周辺に肺がんが発生しやすいこと、CPFEにおける正常肺領域の重要性などを、複数の報告をもとに解説いただきました(Miyamoto, Respir Investig 2019; Kato, ERJ Open Res 2018)。近年は、ILAと気腫が併存する症例では肺がんリスクが加わる可能性も報告されており、肺がん診療においてILA/ILDをどのように捉えるかは、より重要なテーマになっています(Kim, Ann Am Thorac Soc 2026)。

 

薬物療法については、間質性肺炎を合併する肺がんでは、肺がんそのものの予後だけでなく、治療に伴う急性増悪や薬剤性肺障害を同時に考える必要があることが強調されました。IPF治療ガイドライン2023では、「合併肺癌」が独立した項目として設けられ、外科治療、術後急性増悪の予防投薬、細胞傷害性抗がん薬、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬がCQとして取り上げられています(日本呼吸器学会, 2023)。また、間質性肺炎合併肺癌に関するステートメント2025では、薬物療法、放射線治療、外科治療に加え、急性増悪、CPFEILAと肺癌など、間質性肺炎合併肺がん診療に関わる幅広い論点が扱われています(日本呼吸器学会, 2025)。宮本先生は、これらの資料が、エビデンスが限られる領域で実臨床の判断を支える重要な位置づけにあることをお話しくださいました。

 

細胞傷害性抗がん薬については、宮本先生ご自身も関わられた多施設研究を紹介され、化学療法はbest supportive careと比較して全生存期間を延長しうる一方で、急性増悪リスクを高めることを解説されました(Miyamoto, Respir Investig 2023)。さらに、急性増悪を起こした症例では予後が不良となることを、びまん班の研究成果をもとにまとめられていました(Miyamoto, Sci Rep 2024)。治療効果を期待できる患者さんに治療機会を提供することと、急性増悪リスクを正しく見積もることの両立が、間質性肺炎合併肺がん診療の難しさであると感じました。

 

免疫チェックポイント阻害薬については、従来の細胞傷害性抗がん薬の時代とは異なる見方が必要であることが強調されました。慢性間質性肺炎を有する肺がん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の多施設研究では、肺臓炎リスクは高いものの、治療効果が期待できる症例もあることが報告されています(Isobe, ERJ Open Res 2024)。また、既存ILDを有するNSCLC症例においても、ILD非合併例と比べてOSPFSが大きく劣らない可能性を報告した論文を紹介されました(Tasaka, Lung Cancer 2021)。さらに、本邦の大規模データベース研究では、ILD合併NSCLCにおいて、ICI群は細胞傷害性抗がん薬群よりも全生存期間が良好であったことが報告されています(Karayama, Thorax 2026)。宮本先生は、肺障害リスクを踏まえながらも、ICIは間質性肺炎合併肺がん患者に長期生存をもたらしうる重要な治療選択肢であることを強調されました。

 

一方で、どこからをILA/ILDと捉え、どの程度のリスクとして扱うかは、今後も重要な論点です。2025年のATS Clinical Statementでは、ILAILDを区別するうえで、症状、呼吸機能、画像、病理を総合して評価する枠組みが提示されています(Podolanczuk, AJRCCM 2025)。宮本先生は、ILAが肺がん診療やCIPリスク評価のなかでどのような意味を持つのか、今後さらに検討が必要であると述べられました。ICI関連肺障害リスクに関しては、蜂巣肺の有無、自己抗体、肺活量などを含めた患者選択の考え方に加え、既存のすりガラス陰影やGGA scoreTTF-1発現、SP-DDLCOなど、さまざまな指標が検討されていることも紹介されました(Fujimoto, Lung Cancer 2017; Nishiyama, Int J Clin Oncol 2020; Ito, ERJ Open Res 2025; Sumi, Thorac Cancer 2024)。単一の指標だけで判断するのではなく、臨床経過、画像パターン、治療選択肢、患者さんの希望を含めて考える必要があることが印象的でした。

 

抗線維化薬についても、多くの話題がありました。J-SONIC試験では、IPF合併進行NSCLCに対するカルボプラチン+nab-パクリタキセル療法にニンテダニブを併用する意義が検討されましたが、主要評価項目は達成されなかった一方で、IPF合併肺がんに対する前向き試験として重要な位置づけにあることをご紹介いただきました(Otsubo, ERJ 2022)。また、小細胞肺がんとIPFの合併例に対するNEXT-SHIP試験にも触れられ、限られた治療選択肢のなかで、前向き研究を積み重ねていく重要性をお話しいただきました(Ikeda, Ann Am Thorac Soc 2024)。さらに、抗線維化薬がIPF患者の肺がん発症リスクを低下させる可能性について、国内外の後ろ向き研究や大規模データベース研究が紹介されました(Naoi, Thorax 2022; Yoon, ERJ 2025)。現時点では観察研究としての限界を踏まえる必要がありますが、抗線維化薬が肺線維症の進行抑制だけでなく、肺がん発症や肺がん診療にも関わりうるという視点は、今後の研究課題として非常に興味深いものでした。

 

質疑応答では、CPFEをどのように扱うか、肺がん診療医へのアプローチをどう考えるか、ICIを投与する際のインフォームド・コンセント、喫煙関連ILDの位置づけ、線維化巣の奥に生じた肺がんに対する診断・治療方針など、多くの論点が議論されました。宮本先生からは、CPFEでは肺がんを意識してCTフォロー間隔を考えること、ICIについては恩恵を受ける可能性と重篤な肺障害の可能性を丁寧に説明したうえで、患者さんと一緒に治療方針を決めることが重要であるとお答えいただきました。また、線維化巣の奥に生じた肺がんでは、気管支鏡診断の難しさや手術適応、年齢、PSを含めて総合的に判断する必要があることにも触れられました。

 

間質性肺炎合併肺がん診療は、肺がん治療の進歩から取り残されてきた側面がある一方で、近年は日本からも多くの臨床研究が発信されています。治療による利益と肺障害リスクをどのように天秤にかけるか、どの患者さんにどの治療を届けるべきか、呼吸器内科医と肺がん診療医が同じテーブルで議論する必要があります。今回のご講演は、まさにその接点を深く考える機会となりました。

 

ご多忙のなか鴨川までお越しいただいた宮本篤先生に、改めて深く御礼申し上げます。宮本先生は、当科の中島主任部長が代表世話人を務めるCREATE(臨床呼吸器教育研究会)などを通じても日頃より親しく交流させていただいており、今回も温かい雰囲気のなかで、専門性の高い内容をじっくり学ぶ貴重な時間となりました。会場ならびにオンラインでご参加いただいた皆さまにも心より感謝申し上げます。

 

執筆担当者:亀田総合病院 呼吸器内科 舟木 佳弘

 

参考文献

1.Li B, et al. Pulmonary fibrosis complicated by lung cancer: a bibliometric analysis. Front Immunol. 2025.

2.Miyamoto A, et al. Reduced area of the normal lung on high-resolution computed tomography predicts poor survival in patients with lung cancer and combined pulmonary fibrosis and emphysema. Respir Investig. 2019.

3.Kato E, et al. Incidence and predictive factors of lung cancer in patients with idiopathic pulmonary fibrosis. ERJ Open Res. 2018.

4.Kim H, et al. Additive lung cancer risk in combined interstitial lung abnormalities and emphysema: Korean national lung cancer screening program. Ann Am Thorac Soc. 2026;23:621-628.

5.Gonnelli F, et al. Pulmonary fibrosis and lung cancer: an analysis of the Clinical Practice Research Datalink linked to the National Cancer Registration Dataset. Thorax. 2024;79:982-985.

6.日本呼吸器学会, 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究」班 監修. 特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版). 東京: 南江堂; 2023.

7.日本呼吸器学会 腫瘍学術部会・びまん性肺疾患学術部会 編集. 間質性肺炎合併肺癌に関するステートメント2025(改訂第2版). 東京: 南江堂; 2025.

8.Miyamoto A, et al. Chemotherapy versus best supportive care in advanced lung cancer and idiopathic interstitial pneumonias: a retrospective multi-centre cohort study. Respir Investig. 2023.

9.Miyamoto A, et al. Acute exacerbation predicting poor outcomes in idiopathic interstitial pneumonia and advanced lung cancer patients undergoing cytotoxic chemotherapy. Sci Rep. 2024;14:10162.

10.Isobe K, et al. Immune checkpoint inhibitors in patients with lung cancer having chronic interstitial pneumonia. ERJ Open Res. 2024;10:00981-2023.

11.Tasaka Y, et al. Non-inferior clinical outcomes of immune checkpoint inhibitors in non-small-cell lung cancer patients with interstitial lung disease. Lung Cancer. 2021;155:120-126.

12.Karayama M, et al. Survival benefit of immune checkpoint inhibitors for non-small cell lung cancer patients with interstitial lung diseases: a nationwide population-based study. Thorax. 2026;81:328-335.

13.Podolanczuk AJ, et al. Approach to the evaluation and management of interstitial lung abnormalities: an official American Thoracic Society clinical statement. Am J Respir Crit Care Med. 2025;211:1132-1152.

14.Fujimoto D, et al. A pilot trial of nivolumab treatment for advanced non-small cell lung cancer patients with mild idiopathic interstitial pneumonia. Lung Cancer. 2017;111:1-5.

15.Nishiyama N, et al. The utility of ground-glass attenuation score for anticancer treatment-related acute exacerbation of interstitial lung disease. Int J Clin Oncol. 2020.

16.Ito M, et al. A strong association between TTF-1 expression and interstitial lung disease in predicting the efficacy of PD-1 inhibitor for nonsquamous NSCLC patients. ERJ Open Res. 2025;11:00628-2024.

17.Sumi T, et al. Risk factors for severe immune-related pneumonitis after nivolumab plus ipilimumab therapy for non-small cell lung cancer. Thorac Cancer. 2024;15:1572-1581.

18.Otsubo K, et al. Nintedanib plus chemotherapy for nonsmall cell lung cancer with idiopathic pulmonary fibrosis: a randomised phase 3 trial. Eur Respir J. 2022;60:2200380.

19.Ikeda S, et al. Nintedanib plus chemotherapy for small cell lung cancer with comorbid idiopathic pulmonary fibrosis. Ann Am Thorac Soc. 2024.

20.Naoi H, et al. Impact of antifibrotic therapy on lung cancer development in idiopathic pulmonary fibrosis. Thorax. 2022;77:727-730.

21.Yoon HY, et al. Pirfenidone and risk of lung cancer development in idiopathic pulmonary fibrosis: a nationwide population-based study. Eur Respir J. 2025;65:2401484.