鈴川真穂先生をお招きし、「呼吸器疾患オンラインセミナー」を開催いたしました
2026年4月9日(木)、佐野虎ノ門クリニック・国立病院機構東京病院の鈴川真穂先生をお招きし、「呼吸器疾患オンラインセミナー」をハイブリッド形式で開催いたしました。当日は中島主任部長が総合座長を務め、Keynote Speechとして当科部長代理の永井医師より当院における喘息診療の取り組みを紹介した後、Special Lectureとして鈴川先生より「上皮サイトカインの役割~本邦のコホート研究から考える重症喘息治療~」と題したご講演をいただきました。
前半では、永井医師より、当院における重症喘息診療の取り組みと、生物学的製剤導入後の診療体制について紹介がありました。
重症喘息治療では、Type 2炎症を軸に病態を評価しながら、好酸球数、FeNO、IgE、アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎、肥満、増悪歴などを組み合わせて、個々の患者さんに合った治療を考えることが重要です。近年は、生物学的製剤により喘息増悪の抑制、経口ステロイドの減量、症状や呼吸機能の改善が期待できるようになっており、重症喘息診療は「発作を抑える」段階から、「臨床的寛解を目指す」段階へと変化しつつあります(Gyawali, Eur Respir Rev 2025)。
永井医師からは、Type 2炎症の機序と、重症喘息におけるバイオマーカー評価の重要性についても解説がありました。Type 2炎症は、IL-4、IL-5、IL-13などのサイトカインを介して、好酸球性炎症、IgE産生、気道過敏性、粘液産生などに関与し、喘息増悪のリスクとも関連します。重症喘息では、こうした病態を見極めたうえで治療を選択することが求められます。
一方で、実臨床の重症喘息では、アレルギー性炎症、好酸球性炎症、FeNO高値などのType 2炎症バイオマーカーが重複する症例も少なくありません。IgE、血中好酸球数、FeNOはいずれもType 2炎症を反映する指標ですが、それぞれが完全に同じ病態を示すわけではなく、重なり合いながらも異なる側面を捉えています。そのため、単一の検査値だけで治療を決めるのではなく、増悪歴、併存疾患、呼吸機能、上気道症状、肥満、患者背景を含めて、個々の患者さんに応じた治療を考える必要があります。
たとえば、著明な好酸球増多を伴う症例では、好酸球性炎症を強く意識して抗IL-5抗体・抗IL-5受容体抗体を検討する一方、複数のType 2炎症バイオマーカーが陽性となる症例や、感染、寒暖差、ハウスダストなどの外的要因が増悪に関与する症例では、上皮サイトカインを含めたより上流の病態にも目を向ける必要があります。永井医師からは、当院で進めている生物学的製剤使用例の前向きレジストリー研究についても紹介があり、実臨床において病態評価に基づく個別化医療を目指す取り組みが共有されました。
また、当院で始まった薬剤師外来についても紹介がありました。吸入手技の確認、アドヒアランスの評価、副作用や費用面の相談など、重症喘息診療では医師だけでなく、多職種で患者さんを支える体制が欠かせません。生物学的製剤を導入するかどうかだけでなく、導入後に治療効果をどのように評価し、どのように継続支援していくかという点まで含めて、当院の取り組みが紹介されました。
後半の鈴川先生のご講演では、気道上皮細胞と上皮サイトカインに着目しながら、重症喘息の病態と治療をどのように考えるかについてお話しいただきました。
鈴川先生はまず、喘息病態概念の変遷について解説されました。喘息は長く気道平滑筋の収縮を中心とした疾患として捉えられてきましたが、その後、慢性気道炎症の重要性が明らかとなり、さらに1990年代後半以降は、気道上皮細胞が外界からの刺激を受け取り、炎症反応を誘導する“起点”として注目されるようになりました。TSLP、IL-33、IL-25などの上皮サイトカインは、アレルゲン、ウイルス感染、大気汚染、気候変動などの刺激を受けた気道上皮から産生され、Type 2炎症を含む多様な炎症反応に関与します。
実際には喘息における炎症は、Type 2炎症と非Type 2炎症に単純に分けられるわけではないことも再確認しました。Type 2炎症は喘息の多くを占める重要な病態ですが、その中にもアレルギー性、好酸球性、上気道疾患を合併するものなど、複数のフェノタイプが存在します。一方で、好中球性炎症や気道構造変化を伴う病態もあり、重症喘息ではこれらが重なり合っていることも少なくありません。気道上皮細胞は下気道だけでなく上気道にも存在するため、喘息と鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を一連の気道疾患として捉える視点も重要です。
続いて、本邦における重症喘息の実態について、NHOネットワークを中心とした多施設共同研究の成果をご紹介いただきました。NHOM Asthma Studyでは、成人喘息患者1,925例を登録し、そのうちGINA Step 4/5に相当する中等症から重症喘息患者を中心に、日本人喘息患者の臨床的特徴とフェノタイプが検討されました。その結果、日本の中等症から重症喘息は5つのクラスターに分類され、遅発発症・高齢・低アトピー型、遅発発症・高齢・好酸球性・低肺機能型、若年発症・長罹病期間・アトピー型・コントロール不良型、若年発症・若年・女性優位・アトピー型、女性優位でT1/T2 mixed patternを示す最重症型など、臨床像の異なる集団が存在することが報告されています(Suzukawa, Allergol Int 2023)。
このようなクラスター分類は、単に患者さんを分類するためのものという意味合いではなく、どのような患者さんが増悪しやすいのか、どのような患者さんで臨床的寛解を達成しにくいのか、どの炎症経路を標的にすべきかを考えるうえで、実臨床に直結する情報になります。鈴川先生のご講演からは、日本人喘息患者を対象とした多施設共同コホート研究を継続し、フェノタイプとバイオマーカーを結びつけながら治療につなげていく重要性を感じました。
さらに、TNH-Azma研究を基盤とした血清TSLPに関する解析についてもご紹介いただきました。血清TSLP高値は、成人喘息の臨床像、特に遅発発症・長罹病期間・好酸球性喘息のフェノタイプと関連することが報告されています(Suzukawa, Allergy 2026)。TSLPは気道上皮から産生されるサイトカインであり、Type 2炎症だけでなく、環境刺激や気道感染、気候変動などが関与する増悪を考えるうえでも重要な分子です。
鈴川先生は、生物学的製剤に期待する効果として、症状の改善と増悪抑制、Type 2炎症バイオマーカーの改善、気候変動・天候・気道感染などによる増悪の抑制、呼吸機能の改善を挙げ、治療効果を多面的に評価する重要性を強調されました。重症喘息治療では、単に増悪回数を減らすだけでなく、咳嗽、喘鳴、鼻症状などの日常的な症状、バイオマーカー、呼吸機能、上気道疾患を含めて、治療効果を総合的に確認していくことが重要です。
鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎については、WAYPOINT試験の結果も紹介されました。同試験では、抗TSLP抗体により鼻茸スコア、鼻閉、嗅覚障害などの改善が示されており、上気道と下気道を一体として捉える重要性を改めて感じる内容でした(Lipworth, N Engl J Med 2025)。胸部画像で喘息に特異的な所見が目立たない場合でも、鼻症状、嗅覚障害、慢性副鼻腔炎の有無を丁寧に確認することで、治療選択や治療効果をより多面的に捉えられる可能性があります。
また、気道過敏性の機序についても解説がありました。気道過敏性は、気道平滑筋の収縮だけで説明できるものではなく、マスト細胞、好酸球、上皮細胞から産生されるメディエーター、気道炎症、気道リモデリングなどが複合的に関与します。抗TSLP抗体を用いた研究では、マンニトールに対する気道過敏性の改善も報告されており、上皮サイトカインを標的とする治療が、炎症細胞の制御にとどまらず、気道過敏性や気道構造にまで影響しうる可能性が示されています(Diver, Lancet Respir Med 2021; Sverrild, Eur Respir J 2022)。
患者さんへの説明についても、増悪そのものが身体的負担となるだけでなく、救急受診、入院、治療追加、仕事や日常生活への影響など、経済的・社会的負担にもつながることを共有する重要性が強調されました。喘息発作がどのような状況で起こるのかを患者さんと具体的に確認し、感染、寒暖差、天候、ハウスダスト、鼻症状などの誘因と、それに対応する病態・治療を結びつけて説明することで、患者さんの理解が深まり、治療継続にもつながると感じました。
質疑応答では、肥満喘息についても議論がありました。鈴川先生らのTNH-Azma研究を基盤とした血清TSLP解析では、TSLP高値群でBMIが高い傾向がみられ、BMIは血清TSLP高値と関連する因子の一つとして報告されています(Suzukawa, Allergy 2026)。肥満喘息は、単に体重増加による呼吸機能への影響だけではなく、Type 2炎症、非Type 2炎症、全身性炎症が重なり合う病態として考える必要があります。肥満、喫煙歴、睡眠時無呼吸症候群などの背景も含めて評価することが、重症喘息の病態理解につながると感じました。
今回の講演会を通じて、重症喘息診療では、単に好酸球数やFeNOといった単独のバイオマーカーを見るだけではなく、気道上皮、上皮サイトカイン、上気道疾患、肥満、環境要因、増悪歴を含めて病態を立体的に捉える必要があることを学びました。特に、鈴川先生がNHOネットワークを中心に多施設共同コホート研究を継続し、日本人喘息患者のフェノタイプ、クラスター分類、バイオマーカーを明らかにしてこられたことは、本邦の重症喘息診療における大きな成果であり、個々の患者さんの病態から治療を考えるうえで重要な基盤になると感じました。
ご多忙のなか、当院にお越しいただき、ご講演くださいました鈴川真穂先生に、あらためて心より御礼申し上げます。
また、会場ならびにオンラインでご参加いただいた皆さまにも、深く感謝申し上げます。
本講演会が、喘息診療の日々の実践に少しでもお役に立てば幸いです。
執筆担当者:亀田総合病院 呼吸器内科 舟木 佳弘
参考文献
1.Gyawali B, Georas SN, Khurana S. Biologics in severe asthma: a state-of-the-art review. Eur Respir Rev. 2025;34:240088.
2.Suzukawa M, Ohta K, Fukutomi Y, et al. Classifications of moderate to severe asthma phenotypes in Japan and analysis of serum biomarkers: A Nationwide Cohort Study in Japan (NHOM Asthma Study). Allergol Int. 2023;72(1):63-74.
3.Suzukawa M, Ohta K, Tashimo H, et al. High serum thymic stromal lymphopoietin is characteristic of late-onset, long-duration, eosinophilic asthma. Allergy. 2026;81(2):402-412.
4.Lipworth BJ, Han JK, Desrosiers M, et al. Tezepelumab in adults with severe chronic rhinosinusitis with nasal polyps. N Engl J Med. 2025;392(12):1178-1188.
5.Menzies-Gow A, Corren J, Bourdin A, et al. Tezepelumab in adults and adolescents with severe, uncontrolled asthma. N Engl J Med. 2021;384(19):1800-1809.
6.Diver S, Khalfaoui L, Emson C, Wenzel SE, et al. Effect of tezepelumab on airway inflammatory cells, remodelling, and hyperresponsiveness in patients with moderate-to-severe uncontrolled asthma: the CASCADE trial. Lancet Respir Med. 2021;9(11):1299-1312.
7.Sverrild A, Hansen S, Hvidtfeldt M, et al. The effect of tezepelumab on airway hyperresponsiveness to mannitol in asthma. Eur Respir J. 2022;59:2101296.
8.Lugogo NL, Akuthota P, Sumino K, Mathur SK, Burnette AF, Lindsley AW, et al. Effectiveness and safety of tezepelumab in a diverse population of US patients with severe asthma: initial results of the PASSAGE study. Adv Ther. 2025;42(7):3334-3353.