鈴木秀海先生をお招きし、「周術期肺癌治療セミナー」を開催いたしました
2026年4月6日(月)、千葉大学大学院医学研究院 呼吸器病態外科学の鈴木秀海先生をお招きし、「周術期肺癌治療セミナー」をハイブリッド形式で開催いたしました。当日は当科大槻部長が座長を務め、鈴木先生より「根治を目指す非小細胞肺癌周術期治療の新たな潮流~症例経験から考察する~」と題したご講演をいただきました。
今回のご講演では、まず切除可能非小細胞肺癌であっても、術後再発がなお大きな課題であることが示されました。切除後5年無再発生存率は、I期で81%、II期で50%、III期で34%と、病期が進むにつれて大きく低下することが報告されており、切除可能例であっても再発を強く意識した治療戦略が求められます(Rajaram, Chest 2024)。また、リンパ節転移を有する症例では再発リスクや予後への影響が大きく、N1症例も含めて周術期治療をどう組み立てるかが重要な課題であることが示されました(Varlotto, Int J Radiat Oncol Biol Phys 2015)。
そのうえで鈴木先生は、周術期治療の歴史を、UFTの時代からシスプラチン併用化学療法、さらに免疫チェックポイント阻害薬を組み込んだ術前・術前後治療へと至る流れでお話しいただきました。千葉大学では、周術期治療における化学療法に呼吸器外科が果たす役割が大きく、今回のご講演でも、そうした実践のなかで得られた感覚とエビデンスを一つながりのものとしてお話しいただいた印象でした。
実臨床における周術期治療の位置づけについては、術前治療と術後治療をどう選択するかという視点からも話が及びました。周術期治療は単に治療を追加するという話ではなく、再発リスク、治療完遂性、手術との接続まで含めて考える必要があることが伝わってきました。術前か術後かという単純な二項対立ではなく、その患者にとってどの時点で治療介入を行うことが最も合理的かを考えることの重要性が印象に残りました。
近年の主要試験としては、CheckMate 816、KEYNOTE-671、AEGEAN、CheckMate 77Tにも触れられました。これらはいずれも切除可能非小細胞肺癌に対する免疫療法併用の新しい周術期戦略を支える試験ですが、対象病期、ドライバー遺伝子の扱い、術前単独か術前後か、主要評価項目が何かといった点はそれぞれ異なります。そのため、各試験の結果を単純に横並びで比較するのではなく、試験デザインの違いを踏まえて読み解く必要があることが伝わってきました。
CheckMate 816については、術前nivolumab+化学療法により、pCR 24.0%、mPR 36.9%と、病理学的奏効の改善が示されたことが紹介されました(Forde, N Engl J Med 2022)。術前化学免疫療法が有力な治療選択肢となりうることを示した試験として、現在の周術期治療を考えるうえで欠かせないデータであることが伝わってきました。
一方で、周術期治療の具体的な選択肢として、Pembrolizumabを用いたKEYNOTE-671も重要な試験として紹介されました。術前にcisplatin-based chemotherapy+pembrolizumabを4コース行い、手術後にpembrolizumabを継続する周術期戦略であり、event-free survivalに加えてoverall survivalも主要評価項目に含まれる点が特徴です(Wakelee, N Engl J Med 2023)。病理学的奏効のみならず、その先の長期予後をどう評価するかという視点は、今回のご講演の大きな柱の一つであったように思います。さらに、これらの主要試験については、その後の海外学会で報告された長期フォローアップや追加解析にも触れられ、周術期治療の評価が病理学的奏効だけでなく、長期予後や患者報告アウトカムを含めて広がっていることが伝わってきました。
特に印象に残ったのは、pCRに至らなかった症例をどう捉えるかという論点です。病理学的著効例の成績がよいことは理解しやすい一方で、実臨床ではそのような症例ばかりではありません。pCR未達成例のなかにも、術後治療を含めた周術期戦略の恩恵を受ける集団がいるのではないかという考え方は、周術期治療を「術前治療の延長」ではなく、「根治を目指す一連の戦略」として捉えるうえで重要な視点として印象に残りました。
AEGEANやCheckMate 77Tについても、周術期治療の考え方を支える試験として紹介されました。AEGEANではdurvalumabを用いた周術期戦略がevent-free survivalとpCRの改善を示し(Heymach, N Engl J Med 2023)、CheckMate 77Tでも術前後を通じたnivolumab投与の有効性が報告されています(Cascone, N Engl J Med 2024)。個々の試験の違いはあるものの、複数の第III相試験を通じて、周術期治療という枠組みそのものが大きく進展してきたことがよく伝わる内容でした。
手術に関する議論のなかでは、術前治療後の全摘術にも話題が及びました。INT0139(Albain, Lancet 2009)以来、全摘を要する症例では慎重な判断が必要という印象を持っていましたが、近年の周術期治療の試験やその後の報告では、実際に全摘が行われている症例もあり、少なくとも一律に禁忌として考えるのではなく、個々の症例で根治性と安全性の両面から適応を見極めていくべき問題であることが印象に残りました。周術期治療を考えるうえで、薬物療法の成績だけでなく、最終的にどのような手術につなげるのかという外科的視点が欠かせないことを改めて学びました。
また、国内で進行中のJCOG2317試験にも触れられ、海外試験の結果を踏まえつつ、本邦の診療実態に即したデータが今後どのように示されていくのかという点にも関心が向けられました。
今回のご講演を通じて、周術期肺癌治療は、単に術前に免疫療法を加えるかどうかという話ではなく、再発リスク、病理学的効果、手術完遂性、術式選択、さらには長期予後までを一つながりで考える総合戦略であることを改めて学びました。ガイドラインやエビデンスが急速に更新される時代だからこそ、それぞれの試験を正しく理解し、多職種での議論のなかで目の前の患者さんに最適な治療を選んでいくことの大切さを強く感じる機会となりました。
ご多忙のなか、学生時代以来のご縁をもつ当院にお越しいただき、ご講演くださいました鈴木秀海先生に、あらためて心より御礼申し上げます。
また、会場ならびにオンラインでご参加いただいた皆さまにも、深く感謝申し上げます。
本講演会が、周術期肺癌診療の日々の実践に少しでもお役に立てば幸いです。
執筆担当者:亀田総合病院 呼吸器内科 舟木 佳弘
参考文献
1. Rajaram R, Huang Q, Li RZ, Chandran U, Zhang Y, Amos TB, et al. Recurrence-Free Survival in Patients With Surgically Resected Non-Small Cell Lung Cancer: A Systematic Literature Review and Meta-Analysis. Chest. 2024;165(5):1260-1270.
2. Varlotto JM, Yao AN, DeCamp MM, Ramakrishna S, Recht A, Flickinger J, et al. Nodal stage of surgically resected non-small cell lung cancer and its effect on recurrence patterns and overall survival. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015;91(4):765-773.
3. Forde PM, Spicer J, Lu S, Provencio M, Mitsudomi T, Awad MM, et al. Neoadjuvant Nivolumab plus Chemotherapy in Resectable Lung Cancer. N Engl J Med. 2022;386(21):1973-1985.
4. Wakelee H, Liberman M, Kato T, Tsuboi M, Lee SH, Gao S, et al. Perioperative Pembrolizumab for Early-Stage Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2023;389(6):491-503.
5. Heymach JV, Harpole D, Mitsudomi T, Taube JM, Galffy G, Hochmair M, et al. Perioperative Durvalumab for Resectable Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2023;389(18):1672-1684.
6. Cascone T, Awad MM, Spicer JD, He J, Lu S, Sepesi B, et al. Perioperative Nivolumab in Resectable Lung Cancer. N Engl J Med. 2024;390(19):1756-1769.