坂本先生が肺アスペルギルス症について発表
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。今回は、肺アスペルギルス症の臨床研究に取り組んでいる当科専攻医の坂本光士郎先生が、肺アスペルギルス症をテーマに発表しました。
肺アスペルギルス症は日常診療でも遭遇する機会のある疾患ですが、病型が幅広く、診断や治療の考え方も一様ではありません。今回の発表では、病態の整理から診断、治療、予後までを見渡しながら、この疾患をどう捉えるかが丁寧にまとめられていました。
まず病態については、Aspergillus 属が環境中に広く存在する真菌であり、なかでも Aspergillus fumigatus が臨床上とくに重要であることが改めて確認されました(Arastehfar, Stud Mycol, 2021)。肺アスペルギルス症は一つの病態ではなく、慢性肺アスペルギルス症(CPA)、アスペルギローマ、アスペルギルス結節など、背景肺や宿主側因子によって多彩な形をとります(Denning, Eur Respir J, 2016)。今回の発表でも、アスペルギローマに加えてアスペルギルス結節にも触れられており、「いきなり結節として出てくることもある」という点は臨床的にも印象に残るところでした(Dong, Ther Adv Infect Dis, 2024)。
診断のパートで強調されていたのは、空洞病変をみたときにCPAをきちんと疑うこと、そしてその際に Aspergillus IgG抗体が重要である という点でした。CPAの診断では、画像所見だけでなく、慢性の経過、微生物学的所見、免疫学的所見を組み合わせて考える必要があり、血清学的検査はその中で重要な位置を占めます(Denning, Eur Respir J, 2016)。今回の発表でも、「抗体は重要」「β-D-グルカンやガラクトマンナン抗原はこの病態では必ずしも頼りきれない」という実地的な整理がなされていました。
治療については、アゾール系抗真菌薬が中心になります(Denning, Eur Respir J, 2016)。一方で、長期治療を要する症例も多く、そのこと自体が副作用や薬物相互作用、治療継続の難しさにつながります。さらに近年は、A. fumigatus のアゾール耐性が大きな問題になっており、患者側での長期アゾール曝露による耐性化に加えて、環境中でのアゾール系農薬使用を背景とした耐性獲得も議論されています(Arastehfar, Stud Mycol, 2021)。今回の発表でも、アゾール耐性は知識として重要である一方、実臨床ではそもそも培養で菌を拾えないことが少なくなく、耐性をどう見つけるか自体が難しいという現場の問題が共有されていました。
予後のパートでは、2025年 Lancet Infectious Diseases の systematic review / individual patient data meta-analysis が取り上げられました(Sengupta, Lancet Infect Dis, 2025)。CPAは慢性疾患ではあるものの、決して穏やかな経過ばかりをたどる病気ではなく、予後不良であることが改めて示されています。今回の発表でも、「CPAは慢性疾患だが予後不良である」 という点が重要なメッセージとして整理されていました。
発表後のディスカッションでは、予後論文を読む際にもPICO/PECOを意識して整理することの重要性が話題になりました。論文の結論だけでなく、対象患者や評価項目を丁寧に確認する姿勢の大切さを改めて感じました。
肺アスペルギルス症は、空洞病変の背景に静かに進行し、診断にも治療にもひと工夫を要する疾患です。病型の整理、抗体検査の位置づけ、アゾール耐性という新たな課題、そして慢性疾患でありながら軽視できない予後。今回の坂本先生の発表は、そうした複雑さを一つずつ整理しながら、病態から文献の読み方までを見直すよい機会になりました。
執筆担当者:亀田総合病院呼吸器内科 舟木佳弘
参考文献
1.Denning DW, Cadranel J, Beigelman-Aubry C, et al. Chronic pulmonary aspergillosis: rationale and clinical guidelines for diagnosis and management. Eur Respir J. 2016;47(1):45-68.
2.Dong S, Wang F, Jin H, et al. Five cases of pulmonary Aspergillus nodules diagnosed at surgery and by pathology in immunocompetent patients, with a literature review. Ther Adv Infect Dis. 2024;11:26330040241252446.
3.Arastehfar A, Carvalho A, Houbraken J, et al. Aspergillus fumigatus and aspergillosis: From basics to clinics. Stud Mycol. 2021;100:100115.
4.Sengupta A, Ray A, Upadhyay AD, et al. Mortality in chronic pulmonary aspergillosis: a systematic review and individual patient data meta-analysis. Lancet Infect Dis. 2025;25(3):312-324.