伊藤明広先生をお招きし、「Kameda 肺NTM症 Conference」を開催いたしました
2026年3月13日(金)、倉敷中央病院の伊藤明広先生をお招きし、「Kameda 肺NTM症 Conference」をハイブリッド形式で開催いたしました。当日は中島主任部長が総合座長を務め、当科医員の河合医師より当院におけるNTM診療の取り組みを紹介した後、伊藤先生より「新時代の肺MAC症診療を考える~私がなぜNTM症を専門とし専門外来を立ち上げたのか?~」と題したご講演をいただきました。
前半では、河合医師より、当院における肺NTM症診療の現状と工夫が紹介されました。非結核性抗酸菌は土壌や水環境に広く存在し、生体内ではマクロファージに対する耐性をもち、多くの抗結核薬に自然耐性を示すため、日常診療でも対応に難渋しやすい感染症です。菌種ごとの背景にも違いがあり、Mycobacterium avium は水系環境、M. intracellulare は土壌との関連が指摘されていることも示されました(Wallace RJ Jr, J Clin Microbiol 2013)。
診断については、本邦の診断基準では症状の有無を必須としていないこと、さらに治療開始の遅れを避けるために、抗GPL-core IgA抗体や胃液検体を用いた暫定的診断基準が2024年改訂で盛り込まれたことが紹介されました(結核・非結核性抗酸菌症学会, Kekkaku 2024)。一方で国際ガイドラインでは、喀痰採取の間隔や症状の位置づけなどに違いがあり(Daley CL, Clin Infect Dis 2020)、国内外で診断の考え方に差があることも確認されました。
どの症例を待てるのか、どの症例では治療開始を急ぐべきか、という点も重要な話題でした。河合医師からは、症状が軽微または無症状で、塗抹陰性、軽症の結節・気管支拡張型で進行がなく、比較的進行リスクの低い菌種であれば、経過観察が許容される場面があることが示されました。また、予後予測の目安としてBACES scoreが紹介され、重症度や経過をみるうえで参考になることが共有されました(Kim HJ, Am J Respir Crit Care Med 2021)。本邦では無症状や軽症の段階で診断される症例も少なくないことが報告されており(Hagiwara E, Respir Investig 2019)、待機可能な症例をどう見極めるかは、実臨床で避けて通れない課題だと感じました。
治療については、2023年改訂の「成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解」を踏まえ、基本はマクロライド+エタンブトール+リファンピシンの3剤治療であること、重症例ではアミノグリコシド併用を検討することが示されました(日本結核・非結核性抗酸菌症学会, Kekkaku 2023)。当院ではアジスロマイシンを採用しており、エタンブトールはマクロライド耐性化を防ぐうえで重要な位置づけにあるため、可能な限り維持する方針であることも共有されました。連日投与と間欠投与については、非空洞性結節・気管支拡張型MAC症におけるiREC試験の話題にも触れられ、統計学的有意差はなかったものの、症例に応じて間欠投与を選択肢として考える余地があることが紹介されました(Nakagawa T, Ann Am Thorac Soc 2025)。
続いて、ALIS吸入に関する当院の体制を紹介しました。当院では呼吸器感染症チーム医師によるALIS導入専門外来を設け、外来担当医による薬剤紹介や動画視聴の後に専門外来で導入可否を検討し、2泊3日の入院で導入、その後はもとの外来担当医による診療へ移行する流れとしています。導入外来では、内服治療に追加する吸入治療であることや高額療養費制度の説明も含め、患者さんが治療を継続できるよう支援しています。さらに、入院中には理学療法士介入のもと排痰リハビリテーションも行っており、ALISを十分に届けるには気道クリアランス療法が欠かせないことが強調されました。薬剤を使うだけでなく、喀痰をいかに出すかまで含めて治療を組み立てる必要があることがよくわかる発表でした。
後半の伊藤先生のご講演では、肺MAC症診療の現状と課題、そして専門外来の役割について、臨床経験を交えながらお話しいただきました。肺MAC症の患者数は増加傾向にあり、診断・治療の重要性は年々高まっています。その一方で、日本の肺MAC症診療では標準治療が十分に実施されていないことが以前から指摘されており(Morimoto K, Respir Med 2019)、伊藤先生はこの現状を踏まえてNTM症を専門とし、専門外来を立ち上げた経緯を語られました。講演の中で繰り返し強調されていたのは、治療のタイミングを逃さないこと、標準治療を確実に行うこと、十分な期間治療を続けること、必要に応じて外科的治療も検討すること、そして難治例ではALISを使いこなすことの重要性でした。
治療開始のタイミングについては、とくに印象に残る内容でした。国際ガイドラインでは、経過観察よりも治療開始を提案し、とくに塗抹陽性例や空洞形成例では治療を強く勧めています(Daley CL, Clin Infect Dis 2020)。一方、本邦でも塗抹陽性例と有空洞例は積極的治療の対象とされますが、伊藤先生はそれ以外の症例でも、気管支拡張の進行、体重減少、炎症反応、BACES scoreなどを踏まえながら、「今が待てる時期なのか」を見極める必要があると話されました。本邦では無症状や軽症の段階で見つかる症例も少なくない一方で(Hagiwara E, Respir Investig 2019)、治療効果の面からみると空洞形成を伴う症例は不利であり、難治化する前に介入を考える視点の大切さがよくわかりました。
マクロライド耐性化の問題も、肺MAC症診療の根幹として繰り返し取り上げられました。CAM単剤やCAM+RFPのような不十分な治療では耐性化リスクが高く、エタンブトールを含めた標準治療を守ることが重要であることは、日本人データからも示されています(Morimoto K, Ann Am Thorac Soc 2016)。標準治療が十分に普及していない現状を踏まえると、単に「治療するかどうか」ではなく、「どう治療するか」が問われていることを改めて感じました。
難治例に対するALISの位置づけも、大きなテーマの一つでした。CONVERT試験では、ガイドラインに基づく治療を6か月以上行っても培養陽性が続く症例に対して、ALIS追加群で6か月時点の培養陰性化率が高かったことが示されています(Griffith DE, Am J Respir Crit Care Med 2018)。伊藤先生は、ALISを「最後の切り札」として温存するのではなく、症例によってはより早い段階で導入を考えてよいのではないかと述べられました。最近の報告では、ALISの効果は非空洞性結節・気管支拡張型でより期待しやすい可能性も示されており(Kurahara Y, Open Forum Infect Dis 2025)、さらに6か月以内の培養陰性化がその後の12か月時点の陰性化と強く関連することも示されています(Moon SM, Eur Respir J 2019)。副作用として嗄声や咽頭痛には注意が必要ですが、うがいやトローチ、吸入時間の調整などで継続可能なことも、実臨床に即したお話でした。
専門外来のお話も大変興味深いものでした。倉敷中央病院では午後の初診専門外来を設け、地域の医療機関に向けた情報発信や勉強会、市民公開講座などを継続してこられたとのことです。紹介元はかかりつけ医が中心である一方、患者さん自身がインターネットで調べて受診につながる例もあるとのことで、肺NTM症に対する社会的関心の高まりもうかがえました。患者さんが知りたいこととしては、今後の経過や予後、日常生活で気をつけることなどが多く、専門外来は薬剤選択の場であるだけでなく、不安や疑問に丁寧に向き合う場でもあることが伝わってきました。
今回の講演を通じて、肺MAC症診療では、診断基準を知っているだけでは不十分で、いつ治療を始めるか、どう標準治療を守るか、難治例にどう追加治療を組み立てるか、そして必要に応じて専門外来や外科的治療につなげるかまで含めて考える必要があることを改めて学びました。当院でも、今回共有いただいた知見を今後の診療に生かしていきたいと思います。
ご多忙のなか鴨川までお越しいただいた伊藤明広先生に、改めて深く御礼申し上げます。
また、会場ならびにオンラインでご参加いただいた皆さまにも心より感謝申し上げます。本講演会が、日々の肺NTM症診療を見直すきっかけとなれば幸いです。
執筆担当者:亀田総合病院 呼吸器内科 舟木 佳弘
参考文献
1.Wallace RJ Jr, Falkinham JO 3rd, Brown-Elliott BA, et al. Absence of Mycobacterium intracellulare and presence of Mycobacterium chimaera in household water and biofilm samples of patients in the United States with Mycobacterium avium complex respiratory disease. J Clin Microbiol. 2013;51(6):1747-1752.
2.Kim HJ, Kim CK, Bae IK, et al. BACES Score for Predicting Mortality in Nontuberculous Mycobacterial Pulmonary Disease. Am J Respir Crit Care Med. 2021;203(2):230-236.
3.日本結核・非結核性抗酸菌症学会 非結核性抗酸菌症対策委員会. 成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解―2023年改訂―. 結核. 2023;98:1-11.
4.Nakagawa T, Fujita K, Kubo T, et al. Intermittent versus Daily Therapy for Noncavitary Mycobacterium avium Complex Pulmonary Disease: An Open-Label Randomized Trial. Ann Am Thorac Soc. 2025.
5.日本結核・非結核性抗酸菌症学会 非結核性抗酸菌症対策委員会, 日本呼吸器学会 感染症・結核学術部会. 肺非結核性抗酸菌症診断に関する指針―2024年改訂―. 結核. 2024;99:267-270.
6.Daley CL, Iaccarino JM, Lange C, et al. Treatment of Nontuberculous Mycobacterial Pulmonary Disease: An Official ATS/ERS/ESCMID/IDSA Clinical Practice Guideline. Clin Infect Dis. 2020;71(4):e1-e36.
7.Hagiwara E, Katano T, Isomoto K, et al. Clinical characteristics and early outcomes of patients newly diagnosed with pulmonary Mycobacterium avium complex disease. Respir Investig. 2019;57(1):54-59.
8.Morimoto K, Izumi K, Ato M, Hasegawa N, Mitarai S. Actual practice of standard treatment for pulmonary nontuberculous mycobacteriosis in Japan. Respir Med. 2019;158:67-69.
9.Morimoto K, Namkoong H, Hasegawa N, et al. Macrolide-Resistant Mycobacterium avium Complex Lung Disease: Analysis of 102 Consecutive Cases. Ann Am Thorac Soc. 2016;13(11):1904-1911.
10.Griffith DE, Eagle G, Thomson R, et al. Amikacin Liposome Inhalation Suspension for Treatment-Refractory Lung Disease Caused by Mycobacterium avium Complex (CONVERT). Am J Respir Crit Care Med. 2018;198(12):1559-1569.
11.Kurahara Y, Suzuki Y, Namkoong H, et al. Effects of Amikacin Liposome Inhalation Suspension and Amikacin Resistance by Disease Subtype in Refractory Mycobacterium avium Complex Pulmonary Disease. Open Forum Infect Dis. 2025;12(3).
12.Moon SM, Park HY, Jeon K, et al. Unresolved issues in treatment outcome definitions for Mycobacterium avium complex pulmonary disease. Eur Respir J. 2019;53(5):1801636.