伊藤光先生が人工呼吸器管理について発表
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。今回は、当院呼吸ケアサポートチーム(RST)で中心的な役割を果たしている当科医員の伊藤光先生が人工呼吸器管理について発表しました。
今回の発表では、人工呼吸器管理の目的を、①酸素化の改善、②換気の改善、③呼吸仕事量の軽減、④酸素需給バランスの是正、の4点にまとめていました。人工呼吸器というと、低酸素血症や換気不全への対応がまず思い浮かびますが、呼吸不全ではそれに加えて、全身の酸素供給量と酸素消費量のバランスが崩れていることも問題になります。酸素供給量(DO2)は心拍出量(CO)と動脈血酸素含有量(CaO2)によって規定され、一方、酸素消費量(VO2)には呼吸仕事も含まれます。呼吸仕事は通常、全身の酸素消費の5%未満ですが、呼吸不全の場面では最大30%程度まで増加しうるとされます。そのため人工呼吸器は、酸素化や換気を補うだけでなく、過大となった呼吸筋負荷を軽減して酸素消費量を抑え、酸素需給バランスを立て直す治療として捉えることができます(Slutsky AS, Chest 1993)。
挿管の適応と人工呼吸器離脱・抜管の適応を考えるうえで、今回の発表では MOVES という共通の見方が紹介されました。MOVES は、M:Maintain airway / Mental status、O:Oxygenation、V:Ventilation、E:Expectoration / Expected course、S:Shock の頭文字をとったもので、挿管時には「どの要素が破綻しているために挿管・人工呼吸管理が必要なのか」を整理し、離脱・抜管の場面では「その要素がどこまで改善しているか」を同じ枠組みで見直していく考え方です。
M は上気道を維持できるか、また気道防御に必要な意識状態が保たれているかをみる項目です。O は酸素化、V は換気、E は分泌物の喀出や今後の臨床経過、S はショックを指します。挿管の判断では、低酸素血症や換気不全だけでなく、意識障害による気道防御不全、排痰困難、循環不全、あるいは現時点では保たれていても今後の経過として悪化が見込まれる状況まで含めて総合的に考える必要があります。血液ガスや SpO2 だけで判断するのではなく、気道、呼吸、循環、分泌物、全身状態をあわせてみていく、という説明でした。
一方、抜管の適応を考える際にも、同じく MOVES を用いて各項目の回復を確認していきます。ただしこのとき、SBT(自発呼吸トライアル)で直接評価できるのは MOVES のうち O と V のみ です。つまり、SBT を問題なく通過したとしても、それだけで抜管可能と判断することはできず、M や E については別に確認しなければなりません。具体的には、原疾患が治癒または改善傾向にあり、分泌物の排泄が可能で、意識状態が安定していることが前提となります。そのうえで、酸素化については FiO2 50%以下、PEEP 8 cmH2O 以下で Sat 90%超 を満たすこと、血行動態が安定していること、十分な吸気努力があること、奇異性呼吸や著明な呼吸補助筋使用がないこと、さらに発熱、重度の電解質異常、酸塩基平衡異常、体液過剰など全身状態を大きく崩す要因がないことを確認したうえで、SBT に進む流れでした。
このパートでは、挿管時には MOVES のどこが破綻しているかを確認し、離脱時にはそのどこが改善したかをみていくこと、そのうち SBT が担うのは O と V の評価に限られ、M や E、さらに全身状態を含めた最終判断はベッドサイドで行う必要があることをあらためて確認しました。
長期人工呼吸管理と気管切開の話題も取り上げられました。気管切開を考える際には、人工呼吸器離脱プロトコルの中で、SAT(自発覚醒トライアル)でつまずいているのか、SBT(自発呼吸トライアル)でつまずいているのか、あるいは上気道の問題なのか というように、離脱が遷延している理由を見極めることが重要であり、おおよそ 2〜3 週間以内に方向性を考えていく、という説明でした。気管切開の利点としては、挿管チューブに比べた気道抵抗の低下、解剖学的死腔の減少(特に拘束性換気障害の例で重要)、分泌物吸引のしやすさ、鎮静軽減、リハビリや発声・嚥下訓練の拡大などが挙げられます。一方で、早期には出血や感染、事故抜去などの手技関連合併症、後期には声門下狭窄などの問題もあり、単純に「長くなったから気管切開」と考えるべきではないことも確認しました(Boles JM, Eur Respir J 2007; Peñuelas O, Am J Respir Crit Care Med 2011)。
後半は陽圧換気(人工呼吸器)と陰圧換気(自発呼吸)の違いの確認から始まりました。自発呼吸では、横隔膜や肋間筋などの働きによって胸腔内圧が陰圧となり、肺が受動的に広がります。一方、人工呼吸器では陽圧を気道に加えることで肺を広げます。このとき意識しておくべきなのが、胸郭コンプライアンス(胸郭を押し広げる) と 肺コンプライアンス(肺を押し広げる) で、人工呼吸器の設定や波形を考える際には、気道抵抗だけでなく、こうした肺メカニクスも踏まえてみていく必要がある、という説明でした。
続いて、人工呼吸器の基本モードとして ACV、SIMV、PSV が取り上げられました。設定項目は多く見えますが、まず 酸素化(oxygenation)に関わる設定 と 換気(ventilation)に関わる設定 に分けて考えると理解しやすい、という流れでした。酸素化に関わる設定としては FiO2 と PEEP が中心で、FiO2 は高すぎると吸収性無気肺や酸素毒性の問題があるため、FiO2≧60% を漫然と続けないことが大切です。一方、PEEP は虚脱した肺胞を開放し、換気血流比不均衡を是正するための設定として位置づけられていました。
この換気血流比不均衡(V/Qミスマッチ) の説明は、今回のレクチャーの中でもとくに重要な部分でした。実際の肺は単一のV/Q比で成り立っているわけではなく、さまざまなV/Q比が混在しています。Low V/Q は相対的に換気が低下した状態で、水、血液、膿などで肺胞が埋め尽くされる病態(肺炎、肺水腫、肺胞出血 など)がこれにあたり、極端になると無気肺や肺内シャントに至ります。逆に High V/Q は相対的に血流が低下した状態で、肺血栓塞栓症 がもっともわかりやすい病態ですが、肺胞の過膨張 もこれに含まれます。極端になれば、そこはガス交換に寄与しない肺胞領域、すなわち生理学的死腔となります。
PEEP は、肺胞に埋め尽くされたものが減り、虚脱した肺胞が開放されるのであれば有用です。しかし、たとえば膿や血液で埋まった肺胞に対して、常に期待したような効果が得られるとは限りません。有効でない過剰なPEEP では、虚脱が十分に開放しないまま、正常肺領域の過膨張ばかりが強くなります。肺血管抵抗との関係をみると、虚脱した領域よりも過膨張した領域の方が肺血管抵抗は高くなります。その結果、有効でない high PEEP では、血流は肺血管抵抗の低い虚脱領域へさらに集中し、シャントが増えるだけでなく、生理学的死腔も増える ことになります。PEEP は高ければよいというものではなく、虚脱が開放し、なおかつ過膨張を招いていない状態が理想であることを押さえておく必要があります。
続いて、換気(Ventilation)に関わる設定項目として、トリガー、ターゲット、サイクル の3つが取り上げられました。トリガーは「何によって吸気を開始するか」、ターゲットは「どう吸気を維持するか」、サイクルは「何で吸気から呼気へ転じるか」という考え方です。トリガーとしては患者の吸気努力に反応する圧トリガー(Psens)やフロートリガー(Vsens)、あるいは自発呼吸がない場合の呼吸数設定があります。ターゲットとしてはフローや吸気圧(Pi/PS)、サイクルとしては換気量、吸気時間(Ti)、吸気フローの減弱率(Esens)などがあり、目標一回換気量は 6-8 mL/kg(IBW) を目安に考えていく、という説明でした。初期設定や調整の考え方にも触れられ、モードの理解を実際の設定にどうつなげるか、という点まで踏み込んだ内容でした。
基本モードとしては ACV、SIMV、PSV が紹介されましたが、中心となるのは ACV と PSV でした。ACV(Assist/Control Ventilation) は、自発呼吸があってもなくても、すべての呼吸を人工呼吸器でサポートするモードです。患者の吸気努力に反応して作動する場合は assist(補助換気)、自発呼吸がない場合には設定した呼吸数で control(調節換気) として働きます。AC-PC ではターゲットが吸気圧(Pi)、サイクルが吸気時間(Ti)で、AC-VC ではターゲットがフロー、サイクルが換気量となります。これに対して PSV(Pressure Support Ventilation) は、すべて患者の自発呼吸を前提として、設定した圧を補助するモードであり、ターゲットは圧(PS)、サイクルは吸気フローの減弱率(Esens)で規定されます。Esens は通常 25%が基準ですが、閉塞性疾患では高め、拘束性疾患では低め に設定する、という点も具体的に紹介されました。
PSV については、無呼吸設定を必ず確認すること が強調されていました。PSV は患者の自発呼吸が前提のモードであるため、無呼吸になった場合にはバックアップ換気が作動します。このとき、強制換気モード、トリガー、吸気圧、吸気時間、呼吸数、FiO2 がどの設定になっているかを事前に確認しておかないと、患者にとって不適切で不快な換気になり得ます。たとえば、これまで PCV(Pi5/Ti0.9) で管理されていた患者が、PSV トライ中の夜間に一過性の無呼吸となった途端、バックアップ設定として Pi15/Ti0.7 のような換気が入れば、過剰換気を強いられることになります。さらに CO2 が低下すると換気ドライブが落ち、無呼吸が助長されることもあるため、PSV では「今の補助圧」だけでなく、無呼吸時に何が起こるか まで見ておく必要があります。
肺メカニクスが悪化したときにどう気づくか、についても具体的に言及されていました。VCV ではピーク圧の上昇で気づきやすく、場合によってはアラーム上限に達して換気量低下も起こり得る のに対し、PCV では一回換気量低下で気づきやすい ことが示されました。PCV ではフロー波形の面積が小さくなるという見え方になります。そこで次に考えるべきなのは、それが気道抵抗の問題なのか、コンプライアンスの問題なのか という点です。
この判断には、吸気ポーズが可能であれば気道抵抗やコンプライアンスを評価できますが、常にそれができるわけではありません。そのため、実際にはグラフィックで判断することが必要になる場面が少なくない、という話でした。気道抵抗が上昇した場合には、呼気フローが基線に戻るまでの時間が延びる、すなわち呼気延長 が目立ちます。これに加えて、PCV では換気量低下、VCV ではピーク圧上昇 として現れます。一方、コンプライアンス低下 では、PCV で吸気プラトー延長、呼気時間短縮、換気量低下 がみられ、VCV では呼気時間短縮とピーク圧上昇 が前面に出ます。波形をみる際には、単に異常があるかどうかではなく、抵抗の問題なのか、コンプライアンスの問題なのか を考えながら追っていくことが大切です。
その流れで、PCV における Ti(吸気時間)の適正化 と VCV におけるフローの適正化 も取り上げられました。PCV ではフロー波形を観察し、吸気から呼気に速やかに転じるのが理想 とされます。フローがゼロになっているのにまだ吸気が続いていれば、無駄な吸気時間をつくっていることになります。逆に Ti が短すぎると、患者はまだ吸いたいのに送気が終わってしまい、premature termination の原因になります。Ti が長すぎる場合には delayed termination となり、患者が呼気に移りたいのに送気が続く不自然な呼吸になります。頻呼吸の患者では、こうした Ti の不適切さが呼気時間不足や auto-PEEP につながることもあります。
一方、VCV ではフロー設定が適切かどうか を波形から判断していきます。正常波形に対し、吸気波形がへこむような サギング波形 がみられる場合、患者はもっと速く吸いたいのに流量が足りていない、いわゆる flow starvation の状態です。この場合には、たとえば 50 L/min であれば 60 L/min に上げてみて、波形が改善するかをみる という考え方が紹介されました。
また、ボリューム波形(一番下)を見落とさないこと も強調されていました。ここはリークの検出につながる部分であり、換気が合わないときには「どこからリークしているのか」を早めに見極めて対応する必要があります。換気が突然うまく入らなくなったときには、DOPE で確認するという基本も示されました。すなわち、D:Displacement(チューブ位置異常・抜管)、O:Obstruction(喀痰や屈曲による閉塞)、P:Pneumothorax(気胸)、E:Equipment failure(回路や人工呼吸器本体のトラブル) の順に考えていく、というものです。緊急時ほど設定画面だけを見てしまいがちですが、まずは患者さんと回路をみる、という基本を思い出させる内容でした。
吸気努力の評価としては、身体診察に加えて P0.1 と NIF(Negative Inspiratory Force) が紹介されました。呼吸補助筋の使用、肩が上がるような呼吸、喘ぐような呼吸、過剰な一回換気量などは、まずベッドサイドで気づくべき所見です。P0.1 は気道閉塞圧として呼吸ドライブをみる指標で、-5 以下のときは離脱失敗を予測する という説明でした。NIF は最大吸気陰圧で、吸気筋力をみる指標として紹介されました。
後半では、非同調の検出と分類 についても詳しく扱われました。非同調は患者の不快感を増し、呼吸仕事量を増大させるだけでなく、人工呼吸器装着期間の延長にもつながりうるため、能動的にグラフィックを評価していく必要があります。分類としては、設定項目に対応して トリガー、ターゲット、サイクル による非同調があり、さらに人工呼吸器自体による非同調もあります。こうした非同調は、RST を経験するとほとんど一通り目にする、という話もあり、まさにベッドサイドで学ぶ領域なのだと感じました。
トリガーによる非同調としては、ミストリガー や オートトリガー が取り上げられました。ターゲットによる非同調では、フローに関する非同調が中心で、圧による非同調はないため、PCV は VCV より同調がよい という説明でした。一方、サイクルによる非同調では、患者がまだ吸いたいのに吸気が終わってしまう premature cycling や、呼気に移りたいのに吸気が続く delayed cycling が問題になります。こうした非同調を見つけるには、患者の呼吸様式を実際に診ながら、グラフィックと照らし合わせていく姿勢が欠かせません。
さらに、人工呼吸器自体による非同調として リバーストリガー も紹介されました。これは深鎮静や呼吸抑制の状態で、人工呼吸器による送気そのものが刺激となって呼吸筋反応を引き起こす現象で、見た目はダブルトリガーに似ています。波形だけでは判断が難しいこともあり、患者さんの呼吸様式を実際に観察する大切さがここでも強調されていました。
最後に、気管切開チューブの管理 についても解説がありました。気管切開チューブの基本構造としては、カフ、側孔(窓)、単管・複管、カフ上吸引 の4点が整理され、それぞれの役割と使い分けが紹介されました。人工呼吸器離脱が換気または酸素化の点で遷延している場合でも、意識レベルが清明で、分泌物が少ない、あるいは咳嗽で排泄可能であり、嚥下機能と上気道が保たれていれば、気管切開チューブ抜去を検討していく流れになります。チューブの種類や構造を理解したうえで、離脱のどの段階にあるのかを見極めることの大切さがあらためて確認されました。
人工呼吸器管理は、設定項目が多く、ともすると苦手意識を持ちやすい領域です。しかし今回の勉強会では、挿管適応から抜管・気管切開までの流れ、酸素化と換気の考え方、モードごとの見方、波形評価、非同調の捉え方まで一連のものとして説明されており、人工呼吸器をより身近なものとして理解できる内容になっていました。当院のRSTでは専攻医が中島主任部長、伊藤光先生を中心とした指導医の指導を受けながら担当医としてRSTに関わり、科内でも情報共有をしています。
当科では今後も人工呼吸器管理の質の向上に取り組んでいきます。
執筆担当者:亀田総合病院 呼吸器内科 舟木 佳弘
参考文献
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