進藤先生をお招きし、「呼吸器感染症セミナーin房総2026」を開催いたしました。
2026年2月4日(水)、名古屋大学医学部附属病院の進藤有一郎先生をお招きし、「呼吸器感染症セミナーin房総2026」をハイブリッド形式で開催いたしました。前半は当科医員の河合太樹医師が当院における市中肺炎診療の取り組みを解説し、後半は進藤先生より「呼吸器感染症の最適な治療と今後の展開を考える~抗微生物薬以外の治療も含めて~」と題したご講演をいただきました。座長は前半を伊藤部長、後半を中島主任部長が務めました。
基調講演:亀田総合病院における市中肺炎診療の取り組み(河合医師)
河合医師からは、日常診療で「肺炎」と判断した症例の中に、“肺炎ではない(あるいは肺炎に見える)重要疾患”が一定数含まれうることが、最初に強調されました。とりわけ、結核と肺癌は見落としが診療経過を大きく左右し得るため、初期評価の段階から鑑別に挙げ、画像・経過・検査結果を踏まえて疑いを保つ重要性が共有されました。
続いて、市中肺炎(CAP)の起因微生物を念頭に置いた初期対応として、肺炎球菌・インフルエンザ菌・モラクセラなど頻度の高い菌に加え、レジオネラ、マイコプラズマなど“見逃すと困る”病原体を含めた整理が提示されました。病歴聴取、喀痰グラム染色、尿中抗原、核酸増幅検査などを組み合わせて、安易なエンピリック治療に偏らないことも述べられました。
疫学の話題としては、当院も含む複数地域・複数施設でのアクティブサーベイランスであるAPSG-J2(プレプリント)が紹介されました。CAP/ARIで入院した成人3,047例のうち、マルチプレックスPCRを実施した1,502例では、RSV 2.8%/インフルエンザ 3.3%が検出され、高齢者では入院負荷が年次で変動し得ることが示されています。地域の実データを踏まえ、「ウイルス検査を“いつ・誰に・どこまで”行うか」は、抗菌薬適正使用にも直結する臨床課題であることが再確認されました。
重症度評価については、CURB-65、A-DROP、PSIなど既存スコアを“使い分ける”ことの重要性が共有されました。
抗菌薬選択のパートでは、特に緑膿菌については、CAPに占める割合は高くなく、報告によって4–5%程度とされること、リスク因子が乏しい症例でのルーチンの抗緑膿菌カバーは不要と強調されました。
加えて、βラクタム+マクロライド併用についても、中島主任部長の日本のコホート研究において、βラクタム+マクロライド併用はβラクタム単独と比べ、30日死亡、抗菌薬投与期間、入院期間のいずれも明確な改善を示さなかったことが紹介されました(死亡率は両群とも約5%程度)。
補助療法としての全身性ステロイドについては、重症CAPにおけるヒドロコルチゾンの有効性を示した試験(CAPE COD)において、早期投与により28日死亡が低下(6.2% vs 11.9%)した一方で、適応(重症度、タイミング、禁忌の確認)と有害事象(血糖上昇など)を踏まえ、全症例が適応になるわけではないことを共有されました。
最後に、肺炎を「急性疾患」で終わらせず、退院後のADL低下や再入院リスクまで見据えて介入する視点、ならびに予防としての肺炎球菌ワクチン(PCV20の定期接種化の動きも含めた最新状況)にも触れられ、当院診療の“次の改善点”が整理されました。
特別講演:呼吸器感染症の最適な治療と今後の展開を考える
~抗微生物薬以外の治療も含めて~(進藤先生)
進藤先生のご講演は、抗菌薬の最適化に加え、近年注目される宿主側(免疫)の状態に踏み込んだ内容でした。特に「免疫細胞疲弊」「敗血症後免疫抑制」といった概念を、呼吸器感染症診療の文脈に接続して解説いただいた点が印象的でした。
はじめに、急性気道感染症(ARI)の初期対応は、①上気道感染/下気道感染の切り分け、②重症度(SpO₂低下など)に応じた画像検査、③“治療可能で見逃せない感染症”と“感染力が強い感染症”を早期に拾う、という流れで整理されました。
続いて、市中肺炎診療の主要論点として、原因微生物診断、治療場所の決定、初期抗菌治療、補助療法、初期治療不応例への対応、予防という枠組みが提示され、「どれも時代とともに答えが変わる」ことが強調されました。
その具体例として、近年の診療環境の変化(COVID-19以後の検査・流行状況の変化)を踏まえてATSの市中肺炎ガイドラインの改訂ポイントについての整理がなされ、
① 肺エコーの位置づけ:X線の代替手段としての超音波での肺炎診断は許容される(診断の遅れは予後不良に直結するという文脈)
② ウイルス陽性時の抗菌薬治療:外来で併存疾患がない場合、初手で抗菌薬は投与しないが併存疾患がある場合は初期から抗菌薬投与を検討する(喘息以外の慢性呼吸器疾患、肝疾患など)
③ 抗菌薬投与期間:重症例は5日以上、ブドウ球菌、緑膿菌、レジオネラ感染症、細胞内寄生菌の場合は軽症でも長めに投与、そうでない場合は、5日以下も検討
④ 重症例への全身性ステロイド薬投与:ステロイド使用がより推奨される状態として発症早期であること、24時間以内、ICU入室、呼吸不全(P/F<300)、CRP、IL-6高値(インフルエンザ、アスペルギルス合併症例は禁忌であり、投与症例は限定する必要がある)
といったトピックスについてまとめていただきました。
また、治療場所の決定については、外来/入院の判断については、PSI、CURB-65、ADROP、一般病棟/ICUの判断については、2007年および2019年のIDSA/ATS CAP severity criteriaが参考になることについても解説いただきました。
耐性菌を想定した初期抗菌薬選択では、NHCAPのような“カテゴリ”で一律に広域化するのではなく、耐性菌リスク因子を積み上げて(複数ある場合に)広域化を検討するという考え方が共有されました。
※進藤先生のグループが発表した系統的レビュー/メタ解析(Eur Respir Rev 2025)では、DRP(drug-resistant pathogens)のリスク因子として11項目が整理されています。このうち効果量が大きいのは既知のDRP感染/保菌歴(OR 5.58)であり、その他の因子は有意でも効果量は相対的に小さいことが示されています。そのためDRP歴がない症例では、直近の抗菌薬使用・直近入院・施設入所・ADL低下・慢性肺疾患/COPDなどのリスク因子が複数重なる場合に、広域抗菌薬(必要に応じて抗緑膿菌薬や抗MRSA薬を含み得る)を検討する、という考え方(current consensus)が記載されています。
また、進藤先生ご自身の研究(Lancet Infect Dis 2015)も交え、「適切な初期抗菌薬を選んでも、転帰が悪い患者群が存在する」という事実が提示されました。日本の多施設コホートでは、適切治療群においても、低アルブミン、非歩行、アシデミア、頻呼吸、BUN高値といった因子が30日死亡と関連し、リスク因子が2つ以上で死亡率が上昇することが示されています。抗菌薬だけでは埋められない“宿主側の問題”をどう扱うかが、次世代の課題であることを共有されました。
この流れから、敗血症後免疫抑制(sepsis-induced immunosuppression)と免疫チェックポイント分子の発現、さらにはIL-7などの免疫賦活的アプローチといった、抗微生物薬以外の治療戦略が紹介されました。呼吸器感染症領域でも、過剰炎症を抑える治療と、免疫機能を回復・賦活する治療を使い分ける発想が重要になる、というメッセージは、今後の研究と臨床をつなぐ示唆に富む内容でした。
さらに、慢性呼吸器感染症(NTMなど)についても、治療抵抗性=免疫機能低下と単純には言えない点、罹病期間の長い症例でT細胞機能の質的変化が示唆される点など、最新研究が紹介されました。急性・慢性を問わず、「抗微生物薬+個別化医療(患者背景・免疫状態を含む)」という方向性を、キーワードとして提示されました。
質疑では、免疫チェックポイント阻害薬治療との関係や、特にNTMにおいてのT細胞疲弊が進む前の介入可能性(早期治療の意義)など、臨床家の関心が高い論点が取り上げられ、今後のデータ蓄積が期待される領域であることが改めて確認されました。
おわりに
ご多忙のなか鴨川までお越しいただいた進藤有一郎先生に、改めて深く御礼申し上げます。
また、会場ならびにオンラインでご参加いただいた皆さまにも心より感謝申し上げます。本講演会が、日々の診療の質向上に少しでもお役立ていただければ幸いです。
執筆担当者:亀田総合病院 呼吸器内科 舟木 佳弘
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