河合先生が気管支拡張症について発表
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。今回は、結核予防会 複十字病院で半年間の研修を終えて当科に戻ってきた、医員の河合先生が、最新の国際ガイドラインを軸に、気管支拡張症について整理してくれました。
1) まず「重症度」をそろえる:修正Reiff scoreで画像評価を標準化
気管支拡張症は、同じ“気管支拡張症(BE)”でも病態・予後・治療反応がばらつきます。議論の起点として、HRCTの広がり(extent)を共通言語化することが重要で、修正Reiff scoreを提示しました(cylindrical 1点 / varicose 3点 / cystic 6点)。
これは、その後の原因検索(どこまで追うか)や、増悪リスク層別化(どこから強い治療に踏み込むか)に直結します。
2) NTMと気管支拡張症の併存:大前提
気管支拡張症 ↔ 非結核性抗酸菌(NTM)の関係も重要であり、メタ解析では、気管支拡張症にNTM肺疾患が合併する頻度が10%程度あることが示されており、“見落とさないこと”が重要になります。
近年は台湾からの大規模データも報告され、気管支拡張症コホートでNTMが一定割合検出されること、微生物学的フェノタイプで臨床像が変わることが整理されています(地域差はあり)。
また、NTMの肺病変(NTM-PD)の予後予測として、BACESスコアや肺野面積(Lung field area: LFA)などについても紹介しました。
3) 原因検索は「拾えるものを拾い切る」:副鼻腔CTも含めて全身で考える
国際ガイドラインは、気管支拡張症を“treatable traits”で捉え直す流れを明確にしており、原因・併存症の同定が治療の起点になります。
河合先生からは特に、「副鼻腔CTも含めてセットで評価する」ことの重要性も強調されました。
遺伝・希少疾患は“若年+副鼻腔炎”で一段上げる
若年発症で幼少期からの副鼻腔炎を伴う症例では、原発性線毛機能不全症候群(PCD)などに加えて、近年報告されたWFDC2(HE4)関連の遺伝性気管支拡張症も鑑別に挙げられる、とコメントしていました。
4)胸部CT画像分布パターンからみた原因
河合先生の私見とエキスパートオピニオンとして、CT画像分布パターンと原因について整理しました。
・片側限局:感染後、先天性肺疾患の再確認
・両側下葉優位:GERD/誤嚥、免疫不全、RA/SjDなど(中枢の太い気道が目立つ場合は喘息/COPDも意識)
・中葉・舌区優位:NTM、idiopathic など(“まずNTMを外す”)
・上葉優位+結核既往:post-TB
・上葉優位+結核既往なし:CF、ABPM、先天異常(例:William-Campbell症候群)など
5) 治療の土台は「排痰(airway clearance)」:排痰リハビリの質を上げる仕組みづくり
最新のEuropean Respiratory Societyガイドラインでも、気管支拡張症診療は気道クリアランスを中心に組み立てることが明確です。
質疑でも、「ACT(排痰リハ)はPTの技量に依存しやすい」という現場感のある論点が出ました。ここに対して、複十字病院の資料(排痰のパンフ・動画)を“標準手順”として共有し、入院増悪時に指導を必ず組み込むプログラム化を当科でも検討していく、という方向性が確認されました。
6) 抗菌薬:増悪対応/緑膿菌の除菌/長期マクロライドを“使い分ける”
増悪(exacerbation)の定義と基本
ERSのガイドラインは、増悪を症状変化の組み合わせとして整理し、抗菌薬は一般に14日間が一つの標準として扱われます(重症度や起因菌で調整)。
PICO:緑膿菌の“除菌(eradication)”は「条件付き推奨」
新規に緑膿菌が検出された場合の除菌は、現時点ではエビデンスが限定的で“条件付き推奨”の位置づけとなっています。
河合先生は「まず2週間の全身抗菌薬→喀痰培養でフォローし、陰性化すればいったん終了」とまとめていました(実際には重症度や再検出、吸入抗菌薬の可否などで施設差が出る領域です)。
PICO:長期マクロライドは“効く”が、導入前にNTM評価が必須
頻回増悪例などでは長期マクロライドが推奨されます。
一方で、NTMが疑われる症例に単剤マクロライドを先行させることは、NTM診療の観点から問題になり得ます(耐性化リスクを含むため、導入前にNTM評価を済ませる)。
PICO:非マクロライドの長期経口抗菌薬は「ルーチン推奨なし」
長期の非マクロライド経口抗菌薬は、現状では積極推奨されない整理です。
7) ICSは原則使わない:ただし“合併症が主役”なら話は別
European Respiratory Societyガイドラインでは、気管支拡張症単独に対するICSは推奨しない立場を明確にしています(喘息/COPDなど、ICS適応となる合併症がある場合は別)。
8) 新規治療:DPP-1阻害薬(brensocatib)の現在地
好中球炎症のカスケード(好中球セリンプロテアーゼ活性化、NETsなど)に介入する薬剤として、DPP-1阻害薬が話題になりました。病態と薬剤開発の流れは、European Respiratory Journalのstate-of-the-artでも整理されています。
臨床的にはbrensocatibの第III相結果がNew England Journal of Medicineで報告され、増悪抑制を含む有効性が示されています(国内導入は今後の課題)。
9) 質疑応答
・排痰リハの質のばらつき:増悪で入院した際に介入をルーチンプログラム化するなどを検討していく。
・NTMをどこまで除外するか:喀痰が出ない症例で気管支鏡まで“常に必須”とはしなくてもよいのではないか。実臨床では抗MAC抗体陰性、喀痰培養陰性あるいは抗MAC抗体陽性でも複数回喀痰培養陰性なら、NTMを除外してもよいのではないか。
といった議論を行いました。
今回の勉強会では、
- 画像重症度を評価し(修正Reiff)、
- NTMの存在を前提として微生物学的フェノタイプを押さえ、
- 原因検索(副鼻腔まで)を丁寧に行い、
- 排痰を土台として、緑膿菌除菌・長期マクロライド等を、適応を見極めて使い分ける
といった項目について学ぶことができました。
当科では専門外来や複十字病院との連携を軸として、気管支拡張症診療の質の向上に努めています。
河合先生の研修について調整いただいた結核予防会 複十字病院 関係の皆様に厚く御礼申し上げます。
執筆担当者:亀田総合病院呼吸器内科 舟木佳弘
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