永井先生が喘息におけるICS/LABAの用量設定について発表
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。 今回は、当科部長代理の永井先生が、喘息治療の中核である ICS/LABAの「用量設定(低用量〜高用量)」 をテーマに発表しました。
本邦の喘息ガイドラインにおいて中用量以上のICS/LABAが推奨されていますが(Respir Investig 2025)、「いつまで高用量を続けるか」「LAMA併用と増量の使い分けは?」など、実臨床では迷う場面も多々あります。今回は最新の論文とガイドライン(GINA 2025)、そして永井先生の臨床的視点を交えて整理しました。
1. 背景:Corticosteroid Stewardship(ステロイド適正使用)の重要性
喘息ガイドラインでは段階的治療(Stepwise approach)が推奨されていますが、近年、ICSの長期・高用量投与に伴う全身性副作用(感染症、代謝系、骨粗鬆症など)への懸念が改めて注目されています。 漫然と高用量を維持するのではなく、「必要十分量」を見極めて減量を検討する姿勢(Corticosteroid Stewardship) が呼吸器内科医に求められています。
2. エビデンス①:ICS/LABA増量のメリットはどこにあるか?
まず、ICS/LABA維持療法における用量反応関係について、最新のシステマティックレビュー・メタ解析(Chest. 2025)の結果が共有されました。
【検証されたClinical Question】 ICS/LABAの「高用量」は「中用量」と比較して、どのような臨床的メリットがあるか?
-
対象: 12のRCT(計6,373例)
-
結果(High vs Medium):
-
重症増悪(全身性ステロイドを要する増悪): 高用量群でオッズ比 約20%の有意なリスク低下を認めた。
-
症状(ACT/ACQ)や呼吸機能(FEV1): 統計的あるいは臨床的に有意義な「上乗せ効果」は認められなかった。
【解釈】 中用量から高用量へ増量することで得られる最大のメリットは「重症増悪の抑制」にあります。一方で、日々の自覚症状やスパイロメトリーの値をさらに改善させる力は、高用量にしても限定的です。
3. エビデンス②:高用量維持のリスク(安全性)
次に、ICS用量と有害事象の関連について、英国の大規模データベース(CPRD)を用いたコホート研究(Am J Respir Crit Care Med. 2025)が紹介されました。
-
概要: 成人喘息患者を対象に、ICS用量(低・中・高)と重篤な有害事象の関連を12ヶ月間追跡。
-
結果: 中用量以上の群で、心血管イベント、不整脈、肺炎などのリスク上昇が認められました。
-
例:肺炎のハザード比は中用量で2.25倍、高用量で4.09倍(低用量比)。
-
注意点: 観察研究であるため因果関係の断定はできませんが、高用量ICSが全身性ステロイドと同様のリスクプロファイルを持ちうることを示唆しています。
4. ガイドライン(GINA 2025)との整合性と治療戦略
発表では、これらの知見を現在のガイドライン(GINA)とどう統合するかについても整理されました。
-
LAMA追加 vs ICS増量 コントロール不十分な場合の治療強化策として、以下の使い分けが意識されます。
-
LAMAの追加: 呼吸機能(FEV1)の改善には寄与するが、症状改善効果は大きくない。
-
ICSの増量: 今回のデータ通り、重篤な増悪リスクを低減させるが、症状改善の上乗せは期待しにくい。 → 増悪リスク(FeNO高値、好酸球増多など)や副作用リスクを天秤にかけた薬剤選択が必要です。
-
Step-downの目安 GINAでは、良好なコントロールが 2〜3ヶ月 維持された時点で減量を検討し、ICS用量を25〜50%減量するプロセスが推奨されています。「漫然と続けない」という原則は、最新エビデンスからも強く支持されます。
5. 永井先生のClinical View
エビデンスとガイドラインを踏まえ、永井先生より実臨床における感覚として以下のコメントがありました。
-
「高用量ICS ≒ 低用量経口ステロイド」の意識を持つ 高用量ICSを使用している際は、低用量のプレドニンを内服しているのと同程度の警戒感を持つべきです。
-
高用量ICSは短めに 治療導入時や増悪時は高用量で確実に炎症を抑え込みますが、コントロール良好なら数ヶ月単位で引っ張らず、早め(例えば1ヶ月程度)にStep-downを試みるのが良いのではないか、との提案がありました。
-
高齢者への配慮 特に75歳以上の高齢者では、高用量ICSによる肺炎リスクが無視できません。この層では、高用量維持のリスク・ベネフィットバランスをより慎重に評価する必要があります。
まとめ
ICS/LABAの用量調節において、「高用量は増悪抑制には効くが、症状改善の上乗せ効果は乏しい」という事実は、治療戦略を立てる上で重要な視点です。
-
増悪リスクが高い患者には高用量が選択肢となる。
-
症状安定期には、副作用リスクを考慮し、積極的に中用量以下へのStep-downを検討する。
当科では引き続き、最新の知見に基づき、個々の患者さんに最適な「必要最小限かつ十分な」治療を提供できるよう努めてまいります。
執筆担当者:呼吸器内科 舟木佳弘
参考文献
1. Noble JH, et al. The Dose-Response of Inhaled Corticosteroids in Combination ICS/LABA Maintenance Therapy for Asthma: A Systematic Review and Meta-Analysis. Chest. 2025; 168(6): 1304-1316.
2. Bloom CI, et al. Association of Dose of Inhaled Corticosteroids and Frequency of Adverse Events. Am J Respir Crit Care Med. 2025; 211(1): 54-63.
3. Global Initiative for Asthma (GINA). GINA Summary Guide 2025.
4. Tamaoki J, et al. Practical Guidelines for Asthma Management (PGAM): Digest edition. Respir Investig. 2025; 63(3): 405-421.