亀田総合病院 呼吸器内科

伊藤先生が「遺伝子と間質性肺炎」について発表

勉強会レポート

 

当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について、抄読会形式のレクチャーを行っています。
今回は当科部長の伊藤博之先生が「遺伝子と間質性肺炎」をテーマに、家族性肺線維症(familial pulmonary fibrosis: FPF)を中心に、遺伝学的背景と診療上の示唆を整理されました。

 

 

 

1. FPFの位置づけ:疾患名ではなくフェノタイプとしての理解

 

冒頭では、SFTPCの塩基配列異常により家系内に肺線維症を呈した報告(Ono, ERJ 2011)を取り上げ、単一遺伝子変異が関与する間質性肺炎を具体例から概説されました。続いて、ERS statementBorie, ERJ 2023)に基づき、FPFは固定的な診断名というより、線維性ILDの中に「家族内集積を示すフェノタイプが存在する」という整理が重要である点が強調されました。
この視点は、家族歴の評価や近親者への影響(リスクの認識、説明の必要性の判断)を臨床に組み込むうえで意義が大きい、という位置づけでした。

 

2. 遺伝学的背景の整理:SRGsTRGs、遺伝子多型

 

本発表では、線維性ILDに関連する遺伝学的要因を、(1)サーファクタント関連遺伝子(SRGs)、(2)テロメア関連遺伝子(TRGs)、(3)遺伝子多型(common variants / polymorphisms)の3群に整理し、それぞれの臨床像・画像所見・マネジメント上の注意点が提示されました。

 

2-1. サーファクタント関連遺伝子(Surfactant-related genes: SRGs

 

サーファクタント恒常性と肺疾患の関連については WhitsettAnnu Rev Med 2010)を基盤として概説されました。SFTPCFPFの一部で報告され、常染色体優性遺伝をとり得る一方、頻度としては高くないことが示されました。画像所見としては、CTunclassifiableを含む多様なパターンを呈し得る点が重要であり、上葉の隔壁肥厚やサイズの異なる嚢胞形成を伴う所見など、典型的UIP像のみでは捉えにくい臨床像があることが整理されました。
またサーファクタント蛋白の機能について、SP-A/SP-Dは肺防御に、SP-B/SP-Cは界面活性機能に関与することが確認されました。SFTPBについては新生児領域での報告が中心で、重篤例では成人期まで到達しにくいことから、成人での報告が限られる点も共有されました。

 

2-2. テロメア関連遺伝子(Telomere-related genes: TRGs)とShort telomere syndrome

 

テロメアは染色体末端を保護する反復配列であり、その維持にはテロメラーゼ複合体などが関与します。TERTTERCRTEL1PARNDKC1TINF2など複数の遺伝子が知られており、線維性ILDとの関連が示されています。
画像パターンとしてはUIPが多数を占める一方、上肺優位の線維化、気管支血管周囲優位の線維化、PPFEパターンなど、非典型的な分布・形態をとる症例が一定数存在する点が提示されました。
加えて、Short telomere syndrome の概念が重要であり、肺外所見として若年性白髪、再生不良性貧血などの造血障害、原因不明の肝酵素上昇、門脈圧亢進などが手がかりとなり得ることが整理されました。線維性ILDの評価において、肺外徴候を含めた全身的な観察が診断推論の精度を高める、という示唆です。

 

2-3. 遺伝子多型(Common variants / polymorphisms

 

遺伝子多型は集団内で比較的高頻度に存在する遺伝子差で、疾患感受性(なりやすさ)や病態、予後に関与し得ます。代表としてMUC5Bプロモーター多型(rs35705950)が挙げられ、IPFに限らずUIP patternを呈するILDRA-ILDでの関連が報告されている点が共有されました。その他、TOLLIPFAM13ADSPなども話題となりました。
ここでの要点は、SFTPC等の単一遺伝子変異と異なり、遺伝子多型は「決定因子」ではなく「素因」として理解することです。AdegunsoyeChest 2019)で提示される枠組みを踏まえつつ、同一の曝露(例:鳥関連抗原)であっても線維化へ進展するかどうかは個体側要因の影響を受け得る、という観点が示されました。

 

3. マネジメント上の含意:抗線維化薬、肺移植、免疫抑制のリスク

 

治療については、病態と重症度に応じてガイドライン等を参照し、必要例では抗線維化薬を検討すること、単一遺伝子変異が疑われる症例や進行例では肺移植も含めた将来計画が重要となり得ることが整理されました。
特にshort telomere syndromeが疑われる症例では、免疫抑制療法に伴う有害事象リスクが増加し得る点が注意喚起され、治療選択や移植周辺管理の観点からも、早期にリスク評価を行う必要性が示されました。

 

4. 遺伝子検査の考え方:推奨の幅と臨床での適用

 

遺伝子検査の適応については、現時点で一律の推奨が確立しているわけではなく、推奨のを理解したうえで臨床に落とし込む必要がある、という整理でした。
ERS statement
Borie, ERJ 2023)は遺伝学の専門家の観点から比較的厳格な枠組みを提示している一方、AdegunsoyeChest 2019)は臨床に役立つかどうかの観点から、致命的な遺伝学的背景(特にshort telomere syndromeやサーファクタント関連遺伝子)を拾い上げる考え方を提示しており、両者の視点の違いを踏まえた運用が重要とまとめられました。
また家系内発症では、世代が進むにつれて発症年齢が早まる現象が観察されることがある点も補足され、家族歴の聴取を精緻化する視点として共有されました。

 

5. 質疑:成人期の病勢顕在化、早期治療の位置づけ

 

質疑では、成人期になってから病勢が顕在化する機序として、遺伝学的素因(特に多型)に環境曝露や新規疾患が重なりトリガーとなる可能性が議論されました。一方、早期治療の確立は小児例も含めて限定的であり、遺伝子治療は研究段階である点が共有されました。

 

まとめ

 

本発表は、遺伝学を「特殊検査」や「診断名の追加」としてではなく、家族歴・肺外所見・治療選択・リスク管理を整理し直し、診療上の判断を組み立てる視点として提示した点に特徴がありました。線維性ILDの診療において、遺伝学的背景を念頭に置く意義を再確認する機会となりました。

 

 執筆担当者:呼吸器内科 舟木佳弘

 

参考文献

1.Ono S, Tanaka T, Ishida M, et al. Surfactant protein C G100S mutation causes familial pulmonary fibrosis in Japanese kindred. Eur Respir J. 2011;38(4):861–869.

2.Borie R, Kannengiesser C, Antoniou K, et al. European Respiratory Society statement on familial pulmonary fibrosis. Eur Respir J. 2023;61(3).

3.Whitsett JA, Wert SE, Weaver TE. Alveolar surfactant homeostasis and the pathogenesis of pulmonary disease. Annu Rev Med. 2010;61:105–119.

4.Adegunsoye A, Vij R, Noth I. Integrating Genomics Into Management of Fibrotic Interstitial Lung Disease. Chest. 2019;155(5):1026–1040.