佐藤先生が新規抗線維化薬について勉強会で発表!
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。今回は、当科専攻医の佐藤勇気先生が、特発性肺線維症(IPF)を中心とした新規抗線維化治療の最新動向について発表しました。
1) 「疾患名」から「Treatable traits」へ
佐藤先生はまず、肺線維症を“疾患名”に閉じて理解するのではなく、Treatable traitsで横断的に捉える視点の重要性を整理しました。
喫煙、抗原曝露、大気汚染といった環境要因や、遺伝的素因などを意識しつつ、原因疾患を問わず線維化抑制を目的とした抗線維化薬治療や肺移植を早い段階から検討すること。さらに、症状・合併症という“治療可能な要素”として、低酸素に対する酸素療法、咳嗽に対する鎮咳的アプローチ、Frailtyに対する呼吸リハビリ、肺高血圧症に対する吸入トレプロスチニルなどを組み合わせて最適化することがポイントとして挙げられました。
また、IPF/UIPの概念についても、“UIP=炎症がない病態”と単純化しないという近年の議論が紹介され、Treatable traitsの考え方とも合致しているように感じました。
2) Nerandomilast:PDE4B阻害という新しい抗線維化軸
まずは、新規経口抗線維化薬 nerandomilast(BI 1015550)について紹介されました。
PDE4阻害、とくにPDE4B優位の阻害を通じてcAMP経路を増強し、免疫調整と抗線維化作用を両輪で狙うという位置づけが、基礎研究におけるNerandomilastの免疫調整、抗線維化作用(Herrmann FE , Front Pharmacol2022/ Reininger D, Br J Pharmacol. 2024/ Am J Respir Cell Mol Biol. 2025)、皮膚領域などで蓄積されたroflumilastを含むPDE4阻害の薬理学的理解(Blauvelt A, Dermatol Ther (Heidelb). 2023)を用いて説明されました。
FIBRONEER-IPF
FIBRONEER-IPFでは、52週時点のFVC変化を主要評価項目として、9 mg BID/18 mg BIDの用量が検討されました。
佐藤先生が臨床家目線のポイントとして強調していたのは、
- 罹病期間が約3.5年と比較的長めの集団であったこと
- ピルフェニドンもニンテダニブも内服していない患者が約22%含まれていたこと
でした。
実臨床に近い“混ざり方”の試験で用量依存的なFVC低下抑制が示された意義は大きく、「抗線維化薬未導入層にも届きうる新規軸」としての期待を感じました。
併用に関しては、
- ニンテダニブ併用群で用量依存的な良さが保たれていた点
- ピルフェニドン併用では9 mgの効果が相対的に弱く、薬物動態の影響が示唆されるため18 mgが現実的な選択肢になりそう
という整理が、発表ならではの“現場に落ちる解釈”として印象に残りました。
副作用は下痢が中心で、とくにニンテダニブ併用時に目立つという注意喚起もありました。
FIBRONEER-ILD(PPF)
FIBRONEER-ILDでは、CY、TCZ、MMF、RTX、PSL≥15 mg/日といった免疫抑制・免疫調整治療が強く関与する症例が除外されている点がまず重要な前提として示されました。
患者背景として女性が多く、酸素療法が27.7%と、FIBRONEER-IPFより重症寄りの集団であること、また背景ピルフェニドン群がないという試験設計上の特徴も確認されました。
疾患内訳はHP、iNSIP、unclassifiableなどが概ね20%程度と均等に含まれ、PPFの現実的な疾患のばらつきを反映している印象です。
結果の読み取りとしては、
- ニンテダニブ非併用群でも併用群でもFVC低下抑制が認められたこと
- IPFほど明確な用量依存性は強調されない一方で、18 mgでAE/死亡の抑制が示唆される可能性
といった点が共有されました。
佐藤先生のまとめは、
「nerandomilastは抗線維化薬併用の有無を問わず選択肢になりうる」
「高用量は、IPFではFVC低下抑制の上乗せ、PPFでは予後への寄与が期待される」
という、実際に治療する際に役に立つものでした。
3) 吸入トレプロスチニル:PH-ILD(pulmonary hypertension associated with interstitial lung disease)への効果と、IPFにおける可能性
もう一つの柱が吸入トレプロスチニルです。
PH-ILDに対する INCREASE試験で、6MWDの改善が明確に示されたことはすでに臨床的常識になりつつありますが、佐藤先生はここにFVCの改善/低下抑制を示唆する解析が存在する点を丁寧に取り上げ、“血管治療を越えた可能性”を強調しました。
国内データとしての Sakaoらの報告では、
- 早期の血行動態改善(PVRI、mPAP)
- 6MWDの改善(特に24週時点)
- %FVCのわずかな改善、KL-6の低下
といった、時間軸を意識した臨床的な変化が紹介され、reverse remodelingの可能性という視点も提示されました。
PH-ILDという枠内でも、単なる対症ではなく“病態に届く治療”として捉え直す余地がありそうだと感じます。
さらに佐藤先生は、ERS 2025で報告されたTETON-2に触れ、
PHの有無を問わないIPFへの吸入トレプロスチニルという戦略が、今後の抗線維化治療の地図を変えるかもしれないと述べました。
抗線維化薬併用患者でより効果が見えやすい可能性、増悪イベントやQOL、DLCO低下への影響など、興味深いシグナルは多い一方で、現時点では論文化の確認を待つ段階というスタンスでの紹介が適切だと思います。
佐藤先生が最後に示していた、
「抗線維化薬未導入群におけるFVC低下抑制率は、歴史的な主要試験と並べても40〜50%程度のレンジに揃って見える」
という比較視点は、今後の治療選択を考えるうえで一つの直感的な整理として参考になりました。
まとめ
今回の勉強会は、Treatable traitsという普遍的な枠組みに、
nerandomilast(PDE4B阻害)と吸入トレプロスチニルという“新しい抗線維化の軸”を重ねることで、IPF/PPF診療の未来像を非常にわかりやすく描いてくれる内容でした。
抗線維化薬は併用・個別化の時代へ。
そして、疾患名に縛られず、患者さんごとのtraitを丁寧に見極めて介入を組み立てる。
佐藤先生の発表は、その二つの流れを同時にアップデートしてくれる良い機会だったと思います。
執筆担当者:亀田総合病院 呼吸器内科 舟木 佳弘
References
1. Marinescu DC, Ryerson CJ. Integrating morphology and treatable traits into the management of ILD. Lancet Respir Med. 2023;11(2):117-119
2. Selman M, Pardo A, Wells AU. Usual interstitial pneumonia as a stand-alone diagnostic entity: the case for a paradigm shift? Lancet Respir Med. 2023;11(2):188-196.
3. Herrmann FE, Hesslinger C, Wollin L, Nickolaus P. BI 1015550 is a PDE4B inhibitor and a clinical drug candidate for the oral treatment of idiopathic pulmonary fibrosis. Front Pharmacol. 2022;13:838449.
4. Reininger D, Fundel-Clemens K, Mayr CH, Wollin L, Laemmle B, Quast K, et al. PDE4B inhibition by nerandomilast: effects on lung fibrosis and transcriptome in fibrotic rats and on biomarkers in human lung epithelial cells. Br J Pharmacol. 2024;181(23):4766-4781.
5. Reininger D, Wolf F, Mayr CH, Wespel SL, Laufhaeger N, Geillinger-Kästle K, et al. Insights into the cellular and molecular mechanisms behind the antifibrotic effects of nerandomilast. Am J Respir Cell Mol Biol. 2025;73(5):700-712.
6. Blauvelt A, Langley RG, Gordon KB, Silverberg JI, Eyerich K, Sommer MOA, et al. Next generation PDE4 inhibitors that selectively target PDE4B/D subtypes: a narrative review. Dermatol Ther (Heidelb). 2023;13(12):3031-3042.
7. Richeldi L, et al. Nerandomilast in patients with idiopathic pulmonary fibrosis. N Engl J Med. 2025;392(22):2193-2202.
8. Maher TM, et al. Nerandomilast in patients with progressive pulmonary fibrosis. N Engl J Med. 2025;392(22):2203-2214.
9. Waxman A, Restrepo-Jaramillo R, Thenappan T, et al. Inhaled treprostinil in pulmonary hypertension due to interstitial lung disease. N Engl J Med. 2021;384(4):325-334.
10.Sakao S, et al. Efficacy, safety, and pharmacokinetics of inhaled treprostinil in Japanese patients with pulmonary hypertension associated with interstitial lung disease. Respir Investig. 2024;62(6):980-986.