早稲田先生をお招きし、南房総間質性肺疾患講演会を開催いたしました。
2025年11月28日(金)、福井大学 医学系部門別病態制御医学講座 呼吸器内科学分野 教授の早稲田 優子先生をお招きし、南房総間質性肺疾患講演会をハイブリッド形式で開催いたしました。当日は当科の伊藤博之部長が座長を務め、早稲田先生より「娘枝から学ぶびまん性肺疾患の世界」と題したご講演をいただきました。
講演では、肺の解剖構造や全身性硬化症(強皮症)に伴う間質性肺疾患、IgG4関連疾患といった疾患について、早稲田先生が多くの共同研究者の先生方と共に積み上げられてきた研究成果や、診療における注意点を示していただき、20~40歳代を中心とした幅広い年代層の福井大学での共同研究や相互交流についてもお誘いいただきました。
まずは気管支娘枝について、古典的な解剖学的知見1や福井大学名誉教授である伊藤春海先生の研究成果を踏まえて解説いただきました(本稿では伊藤先生の日本語総説2,3も参照しています)。
娘枝(側枝)は主軸気管支から分岐する小枝として位置づけられ、肺門領域の末梢肺と主軸気管支をつなぐ解剖学的構造物として理解されています。
伊藤先生の検討では、娘枝の径は親枝の約半分程度で、娘枝の太さがその支配領域の広がりと強く関連することが示されています。末梢に向かう径の変化や支配域のイメージを意識することが重要性を再認識しました。
また、太い気管支から出る娘枝ほど、より広い肺門部末梢〜縦隔側の肺実質をカバーし得るという視点は、気管支周囲の組織を採取するクライオ生検の病理標本を読み解くうえでも有用と感じました。
次に全身性硬化症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)について、最新のガイドラインを軸に、実臨床での治療戦略と今後の展望が解説されました。SScの抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl-70抗体)陽性例はILDとの関連が強く、抗セントロメア抗体陽性例は肺高血圧との関連が示唆される点が紹介されました。SSc-ILDの現実的な治療目標は進行抑制であり、『膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2025』の治療アルゴリズムを参考に、Limited diseaseとExtended diseaseにわけて方針を決める考え方が示されました。
また、近年位置づけが難しくなっているステロイド剤については、SScの最新ガイドライン4において、関節炎や筋炎などの炎症性の関節症状、筋症状が明らかにある場合は、使用することもある点、ERS/EULARのCTD-ILDについてのガイドライン5,6において、 高用量グルココルチコイドの使用回避が推奨されている点や、PSL 15 mg/日以上が腎クリーゼリスクとされる点や、SLS(I/II)におけるステロイド併用が10 mg以下と規定されていた点7,8などを踏まえ、個々の症例で慎重に判断する必要性が強調されました。
抗線維化薬については、SENSCIS9の結果やガイドラインなどを踏まえた投与の考え方が示されました。
今後の展望として、CAR-T療法はRTXとは異なる機序で、より強力かつ持続的なB細胞制御につながる可能性が示唆されており、今後の発展が期待されます。さらに、B細胞を標的とした治療としてBAFF阻害などの新規薬剤にも注目が集まっていました。
また、欧州における間質性肺炎領域の大家であるWijsenbeek先生との交流から、肺線維症診療における患者中心の包括的ケアを目指すプロジェクトにも参加され、その成果が論文化されたことを紹介いただきました10。
続いて、早稲田先生が診断基準の作成に深く関わられたIgG4関連呼吸器疾患について、解説いただきました。
IgG4関連疾患は、各臓器にIgG4陽性形質細胞の浸潤を来し、臓器の肥大を来す全身性疾患ですが、IgG4が陽性になる理由はあまりよくわかっておらず、肺に陰影があり血清IgG4が陽性である患者さんがすべてIgG4関連呼吸器疾患といえるわけではありません。
もともと、2011年にIgG4関連疾患包括診断基準が公表され、2015年に「IgG4関連呼吸器疾患」という枠組みが提唱され、包括診断基準だけでは整理しきれない呼吸器病変の鑑別が意識されるようになりましたが、2020年の包括診断基準11やACR/EULARのclassification criteria12,13ではさらに検討を要するものになっていました。
2019年の東京びまん性肺疾患研究会で、血清IgG4高値かつ肺組織でIgG4陽性形質細胞浸潤を認める間質性肺炎症例が集積されました。IgG4陽性間質性肺炎では、IgG4関連疾患に特徴的とされる閉塞性血管炎や花筵状線維化を欠き、ステロイドに一旦反応しても線維化進行を来し得るため、予後良好なIgG4関連疾患とは区別した管理が望ましいとされた点14が解説されました。
2023年の改訂IgG4関連呼吸器疾患診断基準において、表1のCの鑑別疾患を除外することの重要性を解説いただき、その中で、今回の講演では、①多中心性キャッスルマン病 ②IgG4陽性の分類不能型間質性肺炎 ③IgG4高値の剥離性間質性肺炎 ④血清IgG4、抗ARS抗体陽性で、肺病理組織所見において膠原病を示唆する特徴を持つ抗ARS抗体症候群+リンパ路病変といった、IgG4関連呼吸器疾患の鑑別疾患を具体的に提示いただきました。
なお、肺標本CTの研究から、IgG4関連呼吸器疾患においては、小葉間隔壁が病変になることが示され、気管支壁/気管支血管束の肥厚、小葉中心性粒状影、小葉間隔壁の肥厚、肺静脈、胸膜の異常といった特徴が示されました。
また、他臓器に確定したIgG4関連疾患があるもの、ならびに炎症性偽腫瘍を有するものについては、特徴を満たしていればIgG4関連呼吸器疾患を疑うという視点についてもお示しいただきました。
併せて、早稲田先生が報告されたLAT Y136F変異マウスでは、ヒトIgG4に該当するマウスIgG1の免疫染色陽性やTh2サイトカイン上昇など、IgG4関連呼吸器疾患に類似した所見が示されました15。さらに本モデルが進行性線維化を来し得る点は、今後のびまん性肺疾患研究において重要な手掛かりになり得ると感じました。
また、BALについては、重要性がSLB>TBLC>BALと考えられがちな現状について、ATSのILDにおけるBAL手法についての論文16にも触れつつ、早稲田先生が携わられたBALについての全国調査の結果17,18を紹介いただき、BALの位置づけとその重要性について改めて解説いただきました。
その中で、BAL検体を用いた現在進行中の基礎研究についてもご紹介いただき、間もなく臨床に役立つ貴重な知見が得られるのではないかと期待感を持ちました。
最後に、若手医師に向けて、長い医師人生の中で一度は大学院などで基礎研究に触れる機会を作り、共に呼吸器診療の発展を目指したいという熱いメッセージをいただきました。
質疑応答では、質疑応答では、IgG4関連呼吸器疾患の線維化の解釈や、膠原病肺における原疾患活動性と肺線維化の関係、IPAFの位置づけなどについて活発な議論が交わされました。
今回の講演を通じて、早稲田先生が携わられている研究の多さに驚くとともに世界中の研究者との交流の重要性を学びました。
大変ご多忙のなか鴨川までお越しくださった早稲田先生に、改めて深く御礼申し上げます。福井大学での充実した研究・教育環境のお話を伺い、今後、相互交流を通じて若手医師のキャリア形成や呼吸器診療の質の向上に少しでも貢献していきたいと感じました。
また、会場およびオンラインでご参加いただいた先生方にも心より感謝申し上げます。本講演会が、皆さまの日々の診療に少しでもお役立ていただければ幸いです。
執筆担当者:亀田総合病院呼吸器内科 舟木 佳弘
References
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