永田先生をお招きし、非侵襲的呼吸療法Web Seminar in南房総を開催いたしました。
2025年11月11日(火)、神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器内科医長の永田一真先生をお招きし、非侵襲的呼吸療法Web Seminar in南房総 をハイブリッド形式で開催いたしました。当日は中島主任部長が座長を務め、永田先生より「急性・慢性呼吸不全に対する非侵襲的呼吸管理:個別化を目指した設定アプローチ」と題したご講演をいただきました。
まず、若手医師を主な対象として、症例ベースで「呼吸療法の目的」と「管理目標」を明確にすることの重要性についてご解説いただきました。
症例1:急性増悪COPDに対するNPPV設定
急性期COPDの症例を通じて、NPPVガイドラインやGOLD Report 2025を踏まえた評価・設定の考え方を整理してくださいました。
呼吸性アシドーシス、呼吸筋疲労、呼吸仕事量の増加を示唆する所見を押さえたうえで、
・目的:短期予後の改善、気管挿管の回避
・管理目標:pHの正常化、呼吸仕事量の軽減
を設定することが強調されました。
NPPVの設定では、まずIPAPとEPAPを決めることから始め、Am J Respir Crit Care Med 2001;163(1):283-291を引用しながら、
-
・圧サポート(IPAP)は呼吸仕事量や換気量に影響
-
・EPAPはair trappingや肺弾性収縮力に関わる
と整理されました。Hoover徴候などの身体所見や、流量波形が「丸くなる」グラフィックモニター所見を用いた呼吸仕事量の評価についても、具体的にご紹介いただきました。
Luo Zら JAMA 2024の高強度NPPVの試験結果(高強度NPPV群で挿管率が低いこと)にも触れつつ、「そのまま臨床に外挿するのは難しいが、“低圧で良い”という雰囲気に流されないことが大切」とコメントされていました。
さらに、COPD患者の「速く吸いたい・長く吐きたい」という呼吸パターンを踏まえたライズタイム、I/E比、吸気・呼気トリガー設定のコツをご説明いただきました。
-
・閉塞性換気障害:ライズタイム 0.05~0.1秒、呼気トリガー感度は高く
-
・拘束性換気障害:ライズタイム 0.1~0.2秒、呼気トリガー感度は低く
吸気時間(Time)は基本的にいじらず、ミストリガーが多ければ吸気トリガー感度を高く、オートトリガーが多ければ感度を低くする、といったテクニカルなポイントも示されました。鎮静薬が使いにくいCOPD急性増悪の場面では、胸に手を当てて呼吸様式を確認しながらグラフィックを見る「呼吸同調」の工夫が、エビデンス化は難しいものの極めて重要であると強調されました。
症例2:側弯症に伴う慢性II型呼吸不全増悪
次に、側弯症による慢性II型呼吸不全の増悪症例を通じて、拘束性換気障害に対するアプローチをご紹介いただきました。
-
・目的:短期予後の改善、挿管の回避
-
・管理目標:pHの正常化、呼吸仕事量の軽減
という点は症例1と共通しつつ、IPAP 8 cmH₂O、EPAP 4 cmH₂O程度の低めの設定から開始し、呼吸仕事量を見ながら徐々に圧を上げていく流れが示されました。
拘束性換気障害では「ゆっくり長く吸いたい」呼吸パターンであることから、
-
・I/E比を高めに設定
-
・ライズタイム 0.1~0.2秒
-
・呼気トリガー感度は低め
とする工夫が重要です。それでも1回換気量が増えず呼吸回数が多い場合には、NPPVをPCVモードに切り替え、「吸気時間を担保する」設定とすることで換気量確保を目指すアプローチが示されました。
症例3:肺炎・ARDS(後に薬剤性肺障害と判明)におけるNPPVとHFNC
薬剤性肺障害を背景とした肺炎・ARDSの急性I型呼吸不全症例では、
-
・目的:短期予後の改善、挿管の回避
-
・管理目標:酸素化の改善、呼吸仕事量(呼吸筋疲労・P-SILI)の軽減
と、II型呼吸不全とは管理目標が異なることが示されました。
ここではHFNCとNPPVの使い分けが大きなテーマとなり、NEJM 2015 Frat JP(FLORALI試験)による「HFNC>酸素療法≥NPPV」の結果や、ARDSにおける低容量換気(TV 4~8 mL/kg)の考え方が紹介されました。NPPVではTVが高くなりがちで、一回換気量の増大が予後に悪影響を与える可能性(VILIおよびP-SILI)についても触れられました。
一方で、永田先生ご自身が筆頭著者として報告されたJaNP-Hi trial(Nagata K et al., Respirology 2024)では、工夫をこらしたCPAP設定(終日使用、S/Tモードは許容しつつも換気量を6~8 mL/kgに制御)により、HFNCと比較して挿管基準に達するまでの時間で優位性が示されたことが紹介され、「工夫されたCPAPはHFNCに勝つ」というメッセージが印象的でした。
実臨床では、リザーバーマスク→HFNC→フルフェイスNPPV→ヘルメット型NPPVと段階的に切り替えつつ、PEEPを上げてステロイド治療へつなげた症例の流れも共有いただきました。
慢性II型呼吸不全に対する在宅NPPVの役割
講演の後半では、慢性期に焦点を移し、慢性II型呼吸不全に対する在宅NPPVのエビデンスと設定について整理されました。
-
・目的:長期予後の改善、QOLの改善、増悪回数の減少
-
・管理目標:PaCO₂の低下と呼吸仕事量の軽減(pHは保たれているため、急性期とは目標が異なる)
COPDに対するNPPVについては、Kohnlein T Lancet Respir Med 2014(1年死亡率改善)、Murphy P JAMA 2017(再入院または死亡までの期間延長)などの結果をふまえ、「IPAP/EPAPを十分高く設定し、PaCO₂を20%以上あるいは48.1 mmHg以下まで下げる」高強度NPPVの考え方をご説明いただきました。IPAP 8/EPAP 4のような低圧設定で高いPaCO₂を漫然と許容する姿勢は見直すべきとのメッセージでした。
急性期と基本的な設定の考え方は同様ですが、在宅NPPVではより細かなチューニングが可能であり、
-
・吸気トリガーを高くして呼吸仕事量を減らす
-
・呼気トリガー、ライズタイムも高めに設定し、夜間の呼吸同調を改善
といった工夫が重要になります。さらに、睡眠中の使用が前提となるため経皮CO₂モニターを用いた夜間低換気の評価(REM期の低換気など)や、VAPSによる換気量維持・圧自動調整の有用性についても紹介されました。
HFNCの位置づけと新たなデバイス
HFNCに関しては、急性I型呼吸不全に対するRENOVATE試験(JAMA 2025)など、NPPVに対する非劣性を検証したRCTが概説されました。また、急性II型呼吸不全におけるPaCO₂低下に関する試験(Crit Care 2020)や、COPD増悪に対するNPPVとHFNCの比較試験(Crit Care 2024:非劣性は示されず)にも触れ、現在のエビデンスの整理がなされました。
左右非対称鼻カニュラ(Duet)を用いたHFNCの工夫(Crit Care 2023、BMC Pulm Med 2024)や、J Appl Physiol 1985にまでさかのぼる基礎的な報告も紹介され、今後の発展が期待される分野であることが示されました現在も、呼吸療法に関連した多施設共同研究を複数検討・準備中であることが紹介され、今後の知見の蓄積が期待されます。
今回の講演を通じて、呼吸療法はどの呼吸器疾患領域であっても重要であり、皆学ぶべき内容と感じました。ご多忙のなか鴨川までお越しくださった永田先生に、改めて深く御礼申し上げます。ぜひまた来年もご講演を賜れれば幸いです。
また、会場およびオンラインでご参加いただいた先生方にも心より感謝申し上げます。本講演会が、皆さまの日々の診療に少しでもお役立ていただければ幸いです。