亀田総合病院 呼吸器内科

山路先生が胸膜疾患について勉強会で発表!

勉強会レポート
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。今回は、胸膜疾患の研究に力を入れている当科専攻医の山路創一郎先生が、胸膜疾患の画像診断と胸膜生検について解説しました。

まずは今回のレクチャーの key paper として、胸膜疾患の画像所見をまとめたレビュー(Yamada A, RadioGraphics 2024)を紹介。画像評価では、分布(片側性/両側性、限局性/びまん性)と石灰化の有無を最初に整理する重要性が強調されました。加えて、胸膜疾患で頻出する以下の所見を確認しました。

・Split pleura sign(Kraus GJ, Radiology 2007/Yamada A, RadioGraphics 2024)
胸腔内の液体をはさんで臓側・壁側胸膜がともに肥厚して描出される所見。かつては膿胸に特異的とされたものの、現在は胸膜炎を伴う滲出性胸水のサインとして理解され、感染に限らず炎症性の胸膜肥厚を伴う病態でみられ得ます。
・Extrapleural sign(Yamada A, RadioGraphics 2024)
胸部X線で、胸壁外側に接する腫瘤が胸壁とのなす角が鈍角かつ外側縁が先細りして見える所見で、胸膜外(胸壁・肋間脂肪層など)由来を示唆します。
・Incomplete border sign
陰影の一部の辺縁が不明瞭となる所見で、これも肺外病変を示唆します。胸膜原発孤立性線維性腫瘍(SFTP)などでしばしば観察されます。
・Holly leaf sign
胸膜プラークの石灰化が不整な鋸歯状を呈し、ヒイラギの葉のように見える所見。アスベスト関連胸膜プラークで典型的にみられ、横隔膜ドーム部や肋骨に接する胸膜に好発します。

このほか、肺癌症例で葉間裂内に小結節が並ぶ場合は胸膜播種を示唆する点、縦隔胸膜の肥厚は転移性よりも胸膜中皮腫(MPM)で多い点、そして良性アスベスト関連疾患(胸膜プラーク、良性アスベスト胸水(BAPE)、びまん性胸膜肥厚(DPT)、円形無気肺)の位置づけについても整理しました。

胸膜中皮腫(MPM)の基礎知識
・約80%が職業性アスベスト曝露と関連。
・罹患のピークは2030年ごろと推定されており、将来的な医療需要の増加が見込まれます。
・初期は無症状が多く、進行に伴い症状が顕在化。
・遺伝学的背景として、BAP1 生殖細胞系列変異が発生に関連し、CDKN2A/2B、NF2などの腫瘍抑制遺伝子異常が悪化に関与します。

診断手技と治療の要点
・病理亜型(上皮様/肉腫様/二相型)が治療選択に直結。とくに肉腫様では外科治療を行わないことが弱く推奨されています(悪性胸膜中皮腫診療ガイドライン 2024年版)。
・生検切開創は可及的に少なく・小さくすることが推奨(Agarwal PP, Radiology 2006)。
・局所麻酔下胸腔鏡下生検は診断に有用ですが、亜型判定まで到達しにくいことがあり、可能なら全層生検が望ましい(Greillier L, Cancer 2007)。
・高周波ナイフ(IT knife)は、鉗子での生検が難しい肥厚性・線維化の強い病変で有用となる可能性(Sasada S, Surg Endosc 2009/笹田, 肺癌 2022)。
・クライオプローブによる胸膜生検は安全性が比較的高い一方、診断率は鉗子生検と同等との報告(Shafiq M, Chest 2020)。ただし挫滅の少ない良質検体が得られる利点があり、平坦で硬い肥厚病変では有用性が期待されます。

切除不能胸膜中皮腫の一次治療
・ニボルマブ+イピリムマブ併用療法
・プラチナ製剤+ペメトレキセド
・プラチナ製剤+ペメトレキセド+ペムブロリズマブ併用療法
いずれも現時点で一次治療の選択肢となり得ます。症例の背景と病理亜型、全身状態を踏まえて選択します。

また、当院で経験した特発性リンパ球性胸膜炎(Motomura Y, Intern Med 2024)の報告も併せて振り返りました。

最後に、局所麻酔下胸腔鏡で胸膜生検を多数経験している指導医からは、症例選別の重要性に加えて、良性肺疾患では非特異的炎症所見に遭遇することが多いため、胸膜の「正常」像を知っておくことが極めて重要とのコメントがありました。とくに若手医師に対して、早期肺癌などの手術時に観察される正常胸膜の所見をあらかじめ学んでおく意義が強調され、フロアで共有されました。

<参考文献>
・Yamada A, et al. Pictorial Review of Pleural Disease: Multimodality Imaging and Differential Diagnosis. Radiographics. 2024 Apr;44(4): e230079.
・Kraus GJ. The Split Pleura Sign. Radiology. 2007 Apr;243(1):297–8.
・Agarwal PP, et al. Pleural mesothelioma: sensitivity and incidence of needle track seeding after image-guided biopsy versus surgical biopsy. Radiology. 2006 Nov;241(2):589–94.
・Greillier L, et al. Accuracy of pleural biopsy using thoracoscopy for the diagnosis of histologic subtype in patients with malignant pleural mesothelioma.
・Shafiq M, et al. Pleural Cryobiopsy: A Systematic Review and Meta-Analysis. Chest. 2020;157(1):223–230.
・笹田真滋. 内科的胸腔鏡の進歩と胸膜生検法の工夫. 肺癌. 2022;62:277–285.
・Motomura Y, et al. Idiopathic Lymphocytic Pleuritis Responding to Corticosteroid Therapy. Intern Med. 2024;63(1):113–117.