山本先生が呼吸器内視鏡診療における鎮静について発表
勉強会レポート
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。
今回は、当科医長の山本成則先生が、2025年6月に消化器内視鏡診療時の鎮静薬として追加承認を得たレミマゾラムの呼吸器内視鏡診療領域での現状について、「レミマゾラムはミダゾラムに勝てるか?」というタイトルで発表いただきました。
当科では、ペチジン(鎮痛)、ミダゾラム(鎮静)、リドカイン(局所麻酔)による外来気管支鏡を基本とし、経気管支凍結生検(クライオ生検)については入院の上、フェンタニル、プロポフォールを用い、その他、必要に応じて麻酔科管理による全身麻酔下での気管支鏡を行っています。
一般的に、ミダゾラムは安全かつ有効性が高く、安価である一方、半減期は1.82~2.68時間で拮抗薬フルマゼニルの半減期(約50分)より長い点から、時に覚醒遅延があるとされており、新たな鎮静薬への期待が寄せられてきました。今回はレミマゾラムの基本情報と、2報の論文(Chest 2019, Medicine 2024)をもとに今後の展望を解説いただきました。
1) レミマゾラムの基本情報
・製品名:アネレム(“Anesthesia”+“Remimazolam”)
・ベンゾジアゼピン系・短時間作用性/半減期 約39~53分
・規格と薬価:20 mg(1,540円)、50 mg(2,218円)
・剤形:バイアル(粉末で要溶解)
・禁忌:①過敏症 ②閉塞隅角緑内障 ③重症筋無力症 ④ショック
・適応:当初は全身麻酔の導入および維持。2025年6月に「消化器内視鏡診療時の鎮静」が追加承認(第III相試験に基づく)。※呼吸器内視鏡診療は適応外。
(※ミダゾラム:半減期1.82~2.68時間。薬価は10 mgで約100円。アンプルで溶解不要)
2) 呼吸器内視鏡における中等度鎮静:Pastisら(Chest, 2019/多施設RCT)
デザイン
・前向き・二重盲検・無作為化、多施設(米国30施設)。呼吸器科医監督下で麻酔科同席なし。
・主要アウトカム:検査成功(検査完了+レスキュー不要+規定回数内の追加投与)。
・MOAA/S(Modified Observer’s Assessment of Alertness/Sedation)=3(大声もしくは繰り返し名前を呼ぶと反応)で検査開始。
・全群フェンタニル併用。レミマゾラムは5 mg→必要時2.5 mg追加(15分内 最大5回まで)、ミダゾラムは年齢・全身状態に応じて1~1.75 mg→必要時0.5~1.0 mg追加。
結果と結論
・年齢中央値は全群63~64歳。検査時間の中央値は約10~13分で群間差は小。
・成功率:レミマゾラム 80.6%、プラセボ 4.8%、ミダゾラム 32.9%。
・開始までの時間と完全覚醒までの時間はいずれもレミマゾラムが有意に短い。安全性は3群で概ね同等。
解釈(山本先生)
・年齢中央値はやや若めだが幅があり臨床応用可能。レミマゾラムは“切れ”がよい一方、追加投与を比較的こまめに要する点(15分ごとに最大5回)は運用上の手間として意識が必要。
3) 高齢者に対する呼吸器内視鏡(深鎮静):Wuら(Medicine, 2024/単施設RCT)
デザイン
・対象:65~80歳。深鎮静(Ramsay 4)を目標として、単回ボーラスで比較。
・HFNC 45 L/分を使用。
・レミマゾラム 0.135 mg/kg vs ミダゾラム 0.045 mg/kg。アルフェンタニル 18 μg/kgを1分後にボーラス併用。RSS=4(眉間への軽い刺激または強い聴覚刺激にすぐ反応)に到達しなければプロポフォールでレスキュー。
・主要評価:単回投与でRSS=4達成の割合。副次評価:循環動態、低酸素血症(SpO₂<90%が10秒超)、咳VAS、誘導時間、回復時間(拮抗薬投与~RSS≦2)、術後6時間フォロー(過度な傾眠など)。
結果と結論
・レミマゾラムの目標到達率は有意に高く、術後6時間以内の過度な傾眠は少なめ。安全性は概ね同等。
解釈(山本先生)
・超高齢者(80歳以上)を十分に含むとは言い切れず一般化には注意。ただし傾眠遷延の少なさはレミマゾラムの利点として確認された。
※深鎮静・HFNC・高用量オピオイド併用という特殊条件であり、中等度鎮静を推奨する国内安全指針とは前提が異なる点に留意。
以上から、Take home messageとして、消化器内視鏡領域でベンゾジアゼピン系として初の承認薬となり、呼吸器内視鏡でも海外でエビデンスが蓄積しつつあること、ミダゾラムとの比較試験で検査・有害事象は非劣性、鎮静到達および回復時間では優位であった点が強調されました。
デメリットとして、追加投与回数の増加と溶解プロセス、薬価の課題が挙げられ、今後の臨床研究に期待が寄せられました。
フロアからは、消化器内視鏡と呼吸器内視鏡での目標深度・体制の差、および日本呼吸器内視鏡学会の安全指針における位置づけについて議論がありました。昨年報告されたペチジンに関する国内報告(梶原ら,気管支学 2024)における有効性も共有され、レミマゾラムの安全性・有効性を確認しつつ、ミダゾラム用量の最適化による覚醒遅延低減の可能性、薬価を踏まえた運用上の課題が指摘されました。
山本先生は、2025年6月に当院へ赴任されました。これまでの臨床経験を生かして幅広く診療を行いつつ、ライフワークとして、若手と共に気管支鏡検査に関する臨床研究を精力的に行っています。
参考文献
・Pastis NJ, Yarmus LB, Schippers F, et al. Safety and efficacy of remimazolam compared with placebo and midazolam for moderate sedation during bronchoscopy. Chest. 2019;155(1):137–146.
・Wu Q, Chen G, Chen Y, et al. Bolus administration of remimazolam was superior to midazolam for deep sedation in elderly patients undergoing diagnostic bronchoscopy: a randomized controlled trial. Medicine (Baltimore). 2024;103(12):e37215.
・梶原雄太,ほか.気管支鏡検査時のペチジン塩酸塩の投与量とそれに関する因子. 気管支学.2024;46:264–270.Japanese.
・日本呼吸器内視鏡学会.呼吸器内視鏡診療における鎮静に関する安全指針. 2024.
今回は、当科医長の山本成則先生が、2025年6月に消化器内視鏡診療時の鎮静薬として追加承認を得たレミマゾラムの呼吸器内視鏡診療領域での現状について、「レミマゾラムはミダゾラムに勝てるか?」というタイトルで発表いただきました。
当科では、ペチジン(鎮痛)、ミダゾラム(鎮静)、リドカイン(局所麻酔)による外来気管支鏡を基本とし、経気管支凍結生検(クライオ生検)については入院の上、フェンタニル、プロポフォールを用い、その他、必要に応じて麻酔科管理による全身麻酔下での気管支鏡を行っています。
一般的に、ミダゾラムは安全かつ有効性が高く、安価である一方、半減期は1.82~2.68時間で拮抗薬フルマゼニルの半減期(約50分)より長い点から、時に覚醒遅延があるとされており、新たな鎮静薬への期待が寄せられてきました。今回はレミマゾラムの基本情報と、2報の論文(Chest 2019, Medicine 2024)をもとに今後の展望を解説いただきました。
1) レミマゾラムの基本情報
・製品名:アネレム(“Anesthesia”+“Remimazolam”)
・ベンゾジアゼピン系・短時間作用性/半減期 約39~53分
・規格と薬価:20 mg(1,540円)、50 mg(2,218円)
・剤形:バイアル(粉末で要溶解)
・禁忌:①過敏症 ②閉塞隅角緑内障 ③重症筋無力症 ④ショック
・適応:当初は全身麻酔の導入および維持。2025年6月に「消化器内視鏡診療時の鎮静」が追加承認(第III相試験に基づく)。※呼吸器内視鏡診療は適応外。
(※ミダゾラム:半減期1.82~2.68時間。薬価は10 mgで約100円。アンプルで溶解不要)
2) 呼吸器内視鏡における中等度鎮静:Pastisら(Chest, 2019/多施設RCT)
デザイン
・前向き・二重盲検・無作為化、多施設(米国30施設)。呼吸器科医監督下で麻酔科同席なし。
・主要アウトカム:検査成功(検査完了+レスキュー不要+規定回数内の追加投与)。
・MOAA/S(Modified Observer’s Assessment of Alertness/Sedation)=3(大声もしくは繰り返し名前を呼ぶと反応)で検査開始。
・全群フェンタニル併用。レミマゾラムは5 mg→必要時2.5 mg追加(15分内 最大5回まで)、ミダゾラムは年齢・全身状態に応じて1~1.75 mg→必要時0.5~1.0 mg追加。
結果と結論
・年齢中央値は全群63~64歳。検査時間の中央値は約10~13分で群間差は小。
・成功率:レミマゾラム 80.6%、プラセボ 4.8%、ミダゾラム 32.9%。
・開始までの時間と完全覚醒までの時間はいずれもレミマゾラムが有意に短い。安全性は3群で概ね同等。
解釈(山本先生)
・年齢中央値はやや若めだが幅があり臨床応用可能。レミマゾラムは“切れ”がよい一方、追加投与を比較的こまめに要する点(15分ごとに最大5回)は運用上の手間として意識が必要。
3) 高齢者に対する呼吸器内視鏡(深鎮静):Wuら(Medicine, 2024/単施設RCT)
デザイン
・対象:65~80歳。深鎮静(Ramsay 4)を目標として、単回ボーラスで比較。
・HFNC 45 L/分を使用。
・レミマゾラム 0.135 mg/kg vs ミダゾラム 0.045 mg/kg。アルフェンタニル 18 μg/kgを1分後にボーラス併用。RSS=4(眉間への軽い刺激または強い聴覚刺激にすぐ反応)に到達しなければプロポフォールでレスキュー。
・主要評価:単回投与でRSS=4達成の割合。副次評価:循環動態、低酸素血症(SpO₂<90%が10秒超)、咳VAS、誘導時間、回復時間(拮抗薬投与~RSS≦2)、術後6時間フォロー(過度な傾眠など)。
結果と結論
・レミマゾラムの目標到達率は有意に高く、術後6時間以内の過度な傾眠は少なめ。安全性は概ね同等。
解釈(山本先生)
・超高齢者(80歳以上)を十分に含むとは言い切れず一般化には注意。ただし傾眠遷延の少なさはレミマゾラムの利点として確認された。
※深鎮静・HFNC・高用量オピオイド併用という特殊条件であり、中等度鎮静を推奨する国内安全指針とは前提が異なる点に留意。
以上から、Take home messageとして、消化器内視鏡領域でベンゾジアゼピン系として初の承認薬となり、呼吸器内視鏡でも海外でエビデンスが蓄積しつつあること、ミダゾラムとの比較試験で検査・有害事象は非劣性、鎮静到達および回復時間では優位であった点が強調されました。
デメリットとして、追加投与回数の増加と溶解プロセス、薬価の課題が挙げられ、今後の臨床研究に期待が寄せられました。
フロアからは、消化器内視鏡と呼吸器内視鏡での目標深度・体制の差、および日本呼吸器内視鏡学会の安全指針における位置づけについて議論がありました。昨年報告されたペチジンに関する国内報告(梶原ら,気管支学 2024)における有効性も共有され、レミマゾラムの安全性・有効性を確認しつつ、ミダゾラム用量の最適化による覚醒遅延低減の可能性、薬価を踏まえた運用上の課題が指摘されました。
山本先生は、2025年6月に当院へ赴任されました。これまでの臨床経験を生かして幅広く診療を行いつつ、ライフワークとして、若手と共に気管支鏡検査に関する臨床研究を精力的に行っています。
参考文献
・Pastis NJ, Yarmus LB, Schippers F, et al. Safety and efficacy of remimazolam compared with placebo and midazolam for moderate sedation during bronchoscopy. Chest. 2019;155(1):137–146.
・Wu Q, Chen G, Chen Y, et al. Bolus administration of remimazolam was superior to midazolam for deep sedation in elderly patients undergoing diagnostic bronchoscopy: a randomized controlled trial. Medicine (Baltimore). 2024;103(12):e37215.
・梶原雄太,ほか.気管支鏡検査時のペチジン塩酸塩の投与量とそれに関する因子. 気管支学.2024;46:264–270.Japanese.
・日本呼吸器内視鏡学会.呼吸器内視鏡診療における鎮静に関する安全指針. 2024.