亀田総合病院 呼吸器内科

田辺先生をお招きし、呼吸器疾患オンラインセミナーを開催しました。

講演会報告
2025年9月26日(金)、京都大学医学部附属病院 呼吸器内科/リハビリテーション科 病院講師の田辺直也先生をお招きし、呼吸器疾患オンラインセミナーをハイブリッド形式にて開催いたしました。当日は当科部長代理の永井先生より当院における重症喘息治療に対するテゼスパイアの使用経験について紹介した後、田辺先生より「画像からみる重症喘息」と題したご講演をいただきました。

Keynote speech:当院における重症喘息治療に対するテゼスパイアの使用経験(永井先生)

背景
• 日本の成人喘息有病率は6–10%(JGL2024)。このうち4–10%が難治性/重症喘息(JGL2024)。
• 本邦のclinical remissionは「ACT良好・増悪なし・定期OCSなし」で定義(PGAM2024)。
• 重症喘息の中核であるType 2(T2)炎症は全体の約80%。指標は末梢血好酸球(Eos)・IgE・FeNO。

治療戦略の整理(PGAM 2024 準拠)
1. T2炎症あり:病型とバイオマーカーに応じて生物学的製剤を選択。
2. T2炎症なし/不明瞭:従来はマクロライド少量長期が中心 → Tezepelumab(TSLP阻害)の併用/切替を検討可能に。
TSLP/Tezepelumab の位置づけ
•TSLPは上皮由来サイトカインでT2経路の“上流”に位置(下流にIL-5/13/4、B細胞活性化)。
• 重複フェノタイプ(Eos高値+IgE高値+FeNO高値など)が存在し、上流阻害は広範な抑制が期待される(JACI In Pract. 2021)。
• NAVIGATOR試験で増悪抑制と安全性が示され、バイオマーカー横断の有効性が臨床的利点。
当院の取組み:生物学的製剤レジストリ(前向き)
• 当院では前向きレジストリ研究を開始し、リアルワールドデータで様々なクリニカルクエスチョンに関連した研究を行っている。

Take home message
1. 早期の生物学的製剤導入で臨床的寛解を狙う戦略が現実的。
2. 複数バイオマーカー陽性(末梢血好酸球数/FeNO/IgE)の症例ではTezepelumabが有力候補。

ACT・ACQ-6・FEV1・Eos・FeNOを指標として、Tezepelumabを初回導入し、いずれも一貫して改善が見られ、臨床的寛解を達成した患者さん、背景として、IgE高値・Eos高値・FeNO高値があり、Tezepelumabへの切り替えにより、増悪回数の減少と症状・機能の改善を認め、臨床的寛解を達成した患者さんについても紹介されました。 フロアからは、前向きレジストリ研究における外的因子の関与とテゼペルマブの効果について質問があり、前向き研究の中間所見として、肥満・喫煙者の方でも効果があったと報告いただきました。

Special Lecture:画像からみる重症喘息(田辺直也先生)

重症喘息における画像解析の重要性について、自施設での研究結果と世界における情勢を含めて、講演いただき、Tezepelumabの有用性についても解説いただきました。

1) CTでみる気道・骨格筋の病態
• 中枢気道:qCTの壁面積率(WA%)は生検の上皮肥厚と対応(Berair R, ERJ 2017)。成人喘息(SARP-3)ではWA%/air-trapping%が将来の増悪率とFEV1低下に独立関連(Krings JG, JACI 2021)。
• 末梢気道:従来のCT(512×512ピクセル)では内径2mm未満の定量が困難。超高精細CT(U-HRCT:1024×1024ピクセル、0.25mm)で描出性が向上し、粒状影≒閉塞末梢気道の識別が可能に。FeNO高値群では6次気管支レベルの気道におけるWA%上昇と粘液栓頻度増加(Hayashi Y, Tanabe N, Allergol Int 2024)。
• 治療反応の示唆:ICS使用下でもFeNO高値が続く症例では末梢壁肥厚残存を疑う(Hayashi Y, Tanabe N, Allergol Int 2024)。
• 体組成・代謝:女性で傍脊柱起立筋密度低下と呼吸機能低下が関連(Tattersall MC, AJRCCM 2023/Hayashi Y, Tanabe N, Ann Allergy Immunol 2024)。Fatty airway(平滑筋〜外膜間の脂肪浸潤)という形態学的概念も紹介。

2) 粘液栓:スコアから“質”と“分布”へ
• 量(Score):10(または8)区域でのMucus plug score 0–18点が炎症負荷と関連(Dunican EM, J Clin Invest 2018)。
• 長さ:長い粘液栓ほど気道好酸球炎症が強い(Huang BK, JCI Insight 2024)。
• CT値:CT値は密度を意味し、従来のMucus plug scoreと独立して血中好酸球(Eos)と相関し、FeNOとは相関しない。(Tanabe N, AJRCCM 2025)。
• 分布:下葉優位の粘液栓はFEV1低下・ACT低値・増悪と関連(Tanabe N, JACI Global 2025)。
• 換気との対応:換気MRIで粘液栓区域=換気欠損が一致(Svenningsen S, Chest 2019)。
• 微生物叢の関与:Eosが高くないにもかかわらず粘液栓が多い症例では、喀痰中のHaemophilus増加が関連する表現型がある(Tanabe N, Allergol Int 2024)。さらに、経過中に好酸球優位から好中球優位へ炎症がシフトする例もあり、粘液栓と微生物叢の関係は二相的に捉える必要がある(Tanabe N, Matsumoto H, Allergol Int 2025)。
・補足:なぜ粘液栓ができるのか: IL‑13の刺激により、上皮の杯細胞化が進み、MUC5AC優位の粘液を産生し、IL-5により、好酸球が血管壁に動員されて、硬化に寄与する。

3) 重症喘息における Tezepelumab
• 上流阻害の利点:TSLPはT2経路の上流(下流にIL-5/13/4, B細胞)。Eos/FeNO/IgEの重複フェノタイプを横断的に抑制(JACI In Pract. 2021)。
• エビデンス:大規模試験で増悪抑制と安全性。バイオマーカー横断の有効性が臨床的利点。 • 適応の見極め:FeNO高値(>35ppb)で粘液栓頻度が高く、粘液栓が多い表現型ほどBioの反応性がよい可能性。外的因子誘発(気温・天候・におい)を伴う気道過敏性を有する症例ではTezepelumabが奏効する可能性を考える。
• モニタリング:気道過敏性の改善には6か月以上かかることもあり、気道過敏性よりも早く改善するFEV1・PEF・SABA使用・夜間症状と併せて、長期フォローを要する。

田辺先生が強調されたポイント
• CTでの中枢気道壁肥厚と気道拡張は重症化に関連する。
• 骨格筋密度低下は、インスリン抵抗性や直接的脂肪浸潤を介して気道壁肥厚・将来の呼吸機能低下に関与する可能性がある。
• FeNO高値、血中好酸球高値例では粘液栓を有する頻度高く、今後は、粘液栓スコアだけではなく、粘液栓の長さ、CT値、下葉気管支優位性などの詳細の臨床的意義については今後の検討が必要。
• Tezepelumabは重症喘息患者の増悪抑制に有効で、Eos・FeNO・IgEの低下、気道過敏性改善、粘液栓減少をもたらす。

フロアからの質問
Q1. 気管支喘息の粘液栓とABPM との違いは?
• ABPMは真菌が局在し好酸球浸潤を伴うためCT値がより高く、縦隔条件で脊柱起立筋よりCT値が高い。
Q2. FeNOが低いのに粘液栓がある症例の解釈は?
• IL-4/13以外の経路の寄与、喫煙でFeNOが低下する点を考慮。一般にFeNO 50ppb以上で粘液栓の可能性が高い。
Q3. ACTは改善しているがFeNO高値が続く場合の対応は?
• FeNO高値は将来の呼吸機能低下リスクと関連するため、治療満足度が高く追加治療に逡巡する場面でも、Bioの恩恵を得られる可能性を説明し、呼吸機能の慎重なモニタリングを継続する。
Q4. 細菌感染との関連は?
• 好中球/好酸球の双方が気管支拡張症の重症度と関連。Bio導入前にマクロライド少量長期など非Bio治療を検討する。

喘息・COPD患者のCT評価の視点が大きくアップデートされ、粘液栓の“質”の評価と末梢気道の可視化が診療戦略に直結することが明確になりました。田辺先生が推進されている多施設共同研究の考え方にも触れ、臨床研究についても深く考える機会になりました。 ご多忙のなか、鴨川までお越しくださり、改めて深く御礼申し上げます。ぜひまた来年もご講演を賜りたいと思います。会場およびオンラインでご参加いただいた先生方にも、心より感謝申し上げます。本講演会が、皆さまの日々の診療に少しでもお役立ていただければ幸いです。