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日本の麻酔科医の臨床渡米の選択肢

臨床留学

はじめに

「いつかアメリカで臨床をしてみたい」
そう考える日本の医師は少なくありません。麻酔科領域においても同様であり、近年、若手医師から米国での研修やキャリアに関する相談を受ける機会が増えています。

一方で、麻酔科医としての臨床渡米は、想像以上に制度が複雑であり、複数の選択肢が存在します。他科ではあまり見られないような経路も含まれています。

本稿では、日本の医師が麻酔科医として米国で臨床を行うことを目指す際に、まず整理しておきたい主要な選択肢について概説します。

米国における麻酔科医不足

米国では麻酔科医不足が続いており、少なくとも2035年頃までは売り手市場が続くとされています。(https://ascnews.com/2024/08/national-anesthesiologist-shortage-causes-solutions-and-strategies-for-asc-operators

また、米国のトレーニング構造上、麻酔科は Advanced entry specialtyに分類されるため、Internal Medicine や Family Medicine、Emergency Medicine などと比較して研修期間が長く、人材不足が生じやすい領域と考えられています。

特に以下の分野で不足が顕著です:
  • 一般麻酔
  • 小児麻酔
  • 産科麻酔
  • 区域麻酔
  • 地方病院勤務

臨床渡米の主な4つの選択肢

日本の麻酔科医が臨床渡米を目指す際の主なルートは以下の通りです:
  • US Residency(米国レジデンシー)
  • ACGME Fellowship(公式サブスペシャリティ研修)
  • Non-ACGME Fellowship / Instructor
  • Faculty(指導医としての勤務)

各ルートのポイント

① 王道:US Residency(米国レジデンシー)

制度上もっとも明確で確実なルートは、USMLEを経て米国の麻酔科レジデンシーに参加する方法です。

「将来的に米国で長期的に臨床を行いたい」「制度上最も確実な道を選びたい」という場合には有力な選択肢となります。
このルートの最大の利点は、その後のキャリアの自由度が高い点です。米国で正式なトレーニングを受けることで、専門医資格や就職の道筋が明確になります。

一方で、米国医学部卒業生との競争が避けられず、特に若手での参入には以下が重要になります:
  • 高いUSMLEスコア
  • 研究・臨床実績(CV)
参考として、近年のマッチングの概要を以下に示します。
Specialty Step2 CK平均 ポジション数 IMG採用数 IMG割合
Internal Medicine 約250 約9,000+ 約3,500–4,000 約40–45%
Family Medicine 約240–244 約5,100 約1,500–2,000 約30–40%
Emergency Medicine 約247–248 約3,000 約500–700 約15–20%
Anesthesiology 約248–250 約2,100–2,200 約700–900 約30–40%
General Surgery 約250–253 約1,600 約200–300 約10–15%
OB/GYN 約252 約1,600 約200前後 約10–15%
  • IMGの多くは、海外医学部(カリブ海諸国や東欧など)を卒業した米国籍医師が占める。
日本人がレジデンシーに申し込む上で、日本で麻酔科専門医資格を取得後に渡米する戦略も有効です。多くの米国プログラムでは、既に米国外での専門医資格を有するIMGを一定数採用しており、教育負担の軽減という観点からも評価される傾向にあります。

また、当院のようなACGME-International認定プログラム修了歴は、CV上大きな強みとなります。

ただし、日本で経験を積んだ後にレジデンシーに再度入ることは、時間的・経済的負担が大きく、すべての医師にとって現実的とは限りません。そういった方は以下で説明するレジデンシーをスキップした方法での渡米をお勧めします。

② ACGME Fellowship

米国の正式なサブスペシャリティ研修です。

通常は米国レジデンシー修了が必要ですが、ACGME-International修了者は応募可能となるケースも増えており、現実的な選択肢となりつつあります。

多くの場合、J-1ビザが必要となり、原則として帰国義務(2-year rule)が課されます。そのため、長期滞在を見据える場合はwaiver戦略が重要になります。

採用に際しては、USMLEのスコアなども参照はされますが、研究歴が重要視され、IMGとして強みを出すなら研究に力を注ぐべきと考えられます。

2026年現在、特に以下の分野ではポジションの空きが比較的多い状況です (https://sfmatch.org/vacancies) :
  • Pediatric Anesthesia
  • Obstetric Anesthesia
  • Regional Anesthesia

③ Non-ACGME Fellowship / Instructor

制度として標準化されていない多様なポジションです。
  • 教育主体のフェロー
  • 準指導医的役割
  • 研究主体ポジション
など内容は施設ごとに大きく異なります。

日本で専門医取得後の現実的な入口となることが多い一方、契約内容・業務範囲の確認が極めて重要です。

④ Faculty(指導医)

直接Facultyとして雇用されるルートです。

近年、麻酔科医不足を背景に、このルートの可能性も広がっています。実際に日本からも複数名が米国大学にFacultyとして就任しています。この2年間で当院からは3人(University of Iowa 2人、Oregon Health & Science University 1人)が直接Facultyとして渡米しています。麻酔科医が不足している一部地域ではSpecial Licenseを得ることで、USMLEを受けなくても働くことが可能になっています(https://www.kameda.com/pr/anesthesiology/post_242.html)。

まとめ

米国で臨床を行うための道は一つではありません。
重要なのは:
  • 自分がどのようなキャリアを望むか
  • それに合ったルートを選択すること
また、ビザや永住権の問題は非常に重要な要素であり、これらを踏まえた戦略設計が不可欠です。ビザの問題や米国での麻酔科専門医取得に関しては次回以降の記事でお話します。
麻酔科部長
植田 健一