スポーツ医学とは21- スポーツ早期復帰の切札となるか?高気圧酸素療

この原稿が掲載される頃には、日本中を熱狂させたサッカーワールドカップ2010南アフリカ大会も終わり、優勝国が決まっているかと思います。ワールドカップでの怪我といえば、2002年のワールドカップ直前にベッカム選手が足を骨折して、その後に早期復帰を目指して「酸素カプセル」に入ったというニュースが記憶に新しいですね。

今回はこの治療方法、「高気圧酸素療法」についてお話をさせていただきます。

古くは潜水病や脳梗塞、さらには感染症などの治療に用いられてきた高気圧酸素療法ですが、近年スポーツ医学分野においても注目されています。

スポーツによる怪我には様々なものがありますが、怪我をして間もない急性期には組織が腫れて、痛みが伴います。そして多くの場合は局所の血流量が減少していると考えられています。そこで高気圧酸素療法を行うと、血液中に溶け込む酸素の量を増やすことができるため、組織修復を促進する効果が期待でき、また全身的に加圧することで腫れや痛みも改善が可能となります。こういったことから一日でも早くスポーツに復帰するための補助的な治療方法として多くのトップ選手が愛用しているのです。

高気圧酸素療法に関しては多くの研究がなされており、肉離れはもちろん、近年では骨組織や靱帯組織の修復に対しても有用性があると結論づけた研究があります。

当院ではトップレベルのスポーツ選手を一日でも早く競技に復帰させるため高気圧酸素療法が行えるようにしています。一人用のカプセル(「チャンバー」と呼びます)に入り、酸素を高濃度で吸入しながら少しずつ圧を高くしていきます。当院のチャンバーは酸素でなく空気で内部の圧を高くするタイプなので、より安全性は高いです。気をつけなければならないのは蓄膿症や虫歯のある方です。こういった方では痛みが強くなり実施できないことがあります。また、圧を徐々に上げるにつれて一度耳が痛くなります。飛行機に乗って高度が上がる時や新幹線に乗ってトンネルに入った時のようなキーンという状態です。この時に唾を飲み込んだり、あくびをしたりすることで「耳抜き」ができれば、あとは痛いことはほとんどない治療法です。

まだ効果に関しては研究途上である高気圧酸素療法ですが、今後の研究結果次第ではスポーツ医学分野における必要不可欠な治療ツールになる可能性があります。

高気圧酸素療法による治療をご希望の方は、是非スポーツ医学科医師におたずねください。診察させていただいた上で治療効果が期待できると判断された場合には施行させていただきます。

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当院にある一人用高気圧酸素チャンバー。寝た状態で治療を受けます。

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窓もついています。

スポーツ医学科 大内洋

このサイトの監修者

亀田総合病院
スポーツ医学科主任部長 大内 洋

【専門分野】
スポーツ整形外科、関節鏡手術、スポーツ整形外科疾患に対する超音波診断
PRP療法、体外衝撃波、高気圧酸素治療の最新治療法