女性アスリートの健康問題

【女性アスリートの三主徴】

継続的な激しいトレーニングを続ける女性アスリートは、「low energy availability(利用可能エネルギー不足 ) 」「無月経」「骨粗鬆」のリスクがあります。これらを「女性アスリートの三主徴」といい、アメリカスポーツ医学会(ACSM)や国際オリンピック委員会(IOC)より、その予防や対応の重要性が強調されています。


low energy availability(利用可能エネルギー不足)

【low energy availability(利用可能エネルギー不足)】

low energy availabilityとは、運動によるエネルギー消費量が、食事によるエネルギー摂取量を上回った状態をいい、これが続くと、女性ホルモン分泌や骨代謝のメカニズムに異常をきたし、後述する無月経や骨粗鬆症へと発展します。

女性アスリートでは、やせ体型となることがパフォーマンスの向上に有利とされがちであること、また審美を気にすることから、食事摂取量を減らして体重減少を図る選手が少なくありません。中には、極端に食事を制限したり、食後に嘔吐するなど問題的な摂食スタイルが習慣となる選手もいます。病的な摂食障害は専門家のカウンセリングにつなげることを考慮します。

 明らかな摂食障害がなくとも、運動によるエネルギー消費量が多いためにlow energy availabilityとなり得ることが、最近注目されており、指導者・選手ともに栄養への配慮が必要です。

【無月経】

女性アスリートの無月経の主原因の1つにlow energy availabilityが挙げられます。メカニズムとしては、low energy availabilityの状態が続くことで、視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌が障害され無排卵になると考えられています。

国立スポーツ科学センター(JISS)の実施したアンケート調査では、国内トップレベルの女性アスリートのうち無月経を含む月経周期異常のある者は約4割でした。競技別では体操やフィギュアスケート、陸上(長距離)など、体脂肪率が低くなる傾向にある審美系や持久系競技に多くみられました。

無月経について女性アスリートは、「月経周期による好不調を試合で気にする必要がない」というメリットを感じるかもしれません。一方で、将来妊娠や出産はできるのかという不安の声も挙がってきます。
 
多くの無月経アスリートは、食事摂取量と体重の増加、練習量の減少とともに月経が回復してくることが知られており、妊孕性の問題はおおむね解決可能といえます。しかし、無月経に続発する骨粗鬆症は、容易に疲労骨折を起こし競技生活の中断につながる恐れがあります。

【骨粗鬆症】

骨粗鬆症とは骨量が減少し、骨内部の構造がもろく変化し、骨折しやすくなった状態をいい、閉経後の高齢者に起こりやすいことで知られています。若い女性アスリートにおいても、low energy availabilityの状態が続くと性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌が低下し、成長ホルモンやエストロゲンの分泌が抑制された結果、無月経とともに骨代謝異常をきたし、骨量が低下します。

骨粗鬆症になると、疲労骨折(運動の繰り返しにより骨疲労が進み、正常な力学的負荷で骨折が生じること)が発症する危険性が高まります。JISSのアンケート調査では、正常月経アスリートより無月経アスリートの方が疲労骨折の発症率が高いことが認められています。

骨量の年間増加率は11〜14歳が最も大きく、20歳頃に骨量のピークを迎えます。若年アスリートの骨粗鬆症は、疲労骨折による競技生活の中断(場合によっては終焉)のリスクがあるだけでなく、将来的な骨の健康にまで影響を及ぼしかねません。
 女性アスリートの骨粗鬆症の治療として有効性が確立している薬物治療は現段階ではありません。十分なカルシウムやビタミンD、ビタミンK、蛋白質を摂取するとともに、low energy availabilityを是正するため、トレーニング強度と栄養摂取量を改善することが求められます。

【さいごに】

競技人生の成功を長い視点で支えるためには、目に見えるケガの予防だけでなく、栄養摂取や月経についての配慮も重要です。女性アスリートの三主徴は、競技指導者にとって馴染みが薄かったり、話題として触れにくい場合があります。インターネットでは非常にわかりやすい資料が無料で入手できるので、ぜひ参考にされるとよいでしょう。

独立行政法人日本スポーツ振興センター 国立スポーツ科学センター(JISS)発行

女性アスリートためのコンディショニングブック(2013年3月)
成長期女性アスリート 指導者のためのハンドブック (2014年3月)
わからないこと、不安なことがあれば、受診のうえ気軽にご相談ください。

【参考文献】

1. The American College of Sports Medicine (ACSM) position stand. The female athlete triad.(2007)

2. International Olympic Committee (IOC) Medical Commission Position Stand on the Female Athlete Triad(2009)

3. 女性アスリートためのコンディショニングブック(国立スポーツ科学センター 2013)

4. 成長期女性アスリート 指導者のためのハンドブック (国立スポーツ科学センター 2014)

5. 女性アスリートの3主徴 Over View・無月経への対策(日本臨床スポーツ医学会誌 vol.21 No.3 2013)

6. 女性アスリートの骨粗鬆症(日本臨床スポーツ医学会誌 vol.20 No.2 2012)

このサイトの監修者

亀田総合病院
スポーツ医学科主任部長 大内 洋

【専門分野】
スポーツ整形外科、関節鏡手術、スポーツ整形外科疾患に対する超音波診断
PRP療法、体外衝撃波、高気圧酸素治療の最新治療法