膝前十字靭帯(ACL)損傷と前外側靱帯(ALL)

【ACLとは】

 膝前十時靱帯:ACL(Anterior Cruciate Ligament)は膝関節についている重要な靱帯の一つです。膝関節は太ももの骨である「大腿骨」、すねの骨である「脛骨」と「腓骨」、お皿と呼ばれる「膝蓋骨」の4つの骨が関係しています。

ACLはそのうちの「大腿骨」と「脛骨」をつなぐ靱帯で、脛骨上面の前方から大腿骨底面の後方に向かって付いています。ACLは膝関節を安定させる重要な役割を持っており、特に膝の前方、回旋の安定性に関わっています。つまり、膝関節の可動域が過度になりすぎて関節を痛めないように、抑える働きがあるのです。

【ACL受傷機転】

 ACLは大きく分けると2タイプの受傷原因(怪我の原因)があります。一つは「接触型」で、ラグビーやアメリカンフットボールのタックルなどで膝に直接外力が加わり損傷するものです。もう一つは「非接触型」といって、走行中の方向転換やジャンプの着地時に膝に大きな力が加わり損傷するものです。このような動作は瞬発系の要素のあるスポーツ全てに共通します。

【ACLが損傷すると】

 ACL損傷の多くは、損傷するときに断裂音が聞こえるとともに膝がガクッと崩れるような感じがします。その後徐々に膝の痛みと腫れが増していき、数時間経つとかなり腫れた状態になり歩くことも困難になります。通常痛みと腫れは痛めてから2日以上は増えていきますが、その後徐々におさまっていきます。ACLが損傷すると、他の靱帯や膝関節にある他の組織が同時に損傷する場合があります。その場合、痛みや腫れの程度が増えることもあります。

ACLが損傷してしまうと、膝が不安定になり突然膝がガクッと崩れるような症状が現れます。長年このような症状が続いていますと、軟骨の損傷が起こり、変形性関節症への進行を急激に早めます。

【治療の選択】

 ACL損傷の治療には2つの選択肢があります。「保存療法」と「手術療法」です。「保存療法」は手術をせずに治す方法です。装具を用いて一定期間固定をしますが、装具はあくまで皮膚の上で固定するものですので、固定性は不十分とされております。一般的に装具で保存的に治療した場合も数年の経過で変形性関節症が進行するとされております。

このようなデメリットを考え、近年積極的に行うようになっているのが「手術療法」です。これは手術によって靱帯を再建して治す方法で、近年非常に手術時間が短く、かつ手術侵襲が少なくなっております。当院においても世界でもっとも先進的な術式を取り入れて手術を行っております。

 どちらの場合においても、膝関節の可動域を回復するための練習や、膝関節周囲の筋力強化などをする膝のリハビリテーションが術前後に必要になります。
治療方法を適切に選択するには、患者さまと医師で多くの要素を考える必要があります。患者さまの希望、日常生活やスポーツの活動状況、膝関節の損傷程度、関節の不安定性などです。

 若年の患者さまで競技レベルのスポーツ復帰を希望する場合には、手術の必要性が高まります。

【ACLの手術療法】

 ACL損傷に対する手術は近年様々な方法が開発されています。最近の手術では、切れた靭帯を縫い合わせるのではなく、別の部位から移植のために腱を採取し、その腱を用いてACLを再建します。

採取される腱は「半腱様筋腱」「薄筋腱」(太もも後ろの筋肉の腱)、「BTB」(骨付き膝蓋腱)、「大腿四頭筋腱」(太もも前の筋肉の腱)、「アキレス腱」などです。当科では主に半腱様筋腱、薄筋腱を用いてACLを再建します。

【当院における先進的な手術方法】

ACL再建の手術は、当科では主に関節鏡という内視鏡を用いた侵襲度の低いAll-inside法を行っています。健側の膝(損傷していない方の膝)から半腱様筋腱を採取し移植腱として作成することが多いです。これは既に怪我をして状態が悪い膝からさらに腱を採取することでリハビリが困難になるのを最大限防ぐためです。

そして、移植するための腱を完全清潔野で作成し、脛骨(すねの骨)、大腿骨(太ももの骨)に骨孔と呼ばれるトンネルを掘り、そこに作成した移植腱を通してつなぎます。

当院におけるこの方法では従来行われていた他の関節鏡手術に比べ、傷口がより小さくより、かつ移植靱帯がより強固に固定できるので成績がきわめてよいです。

この術式を取り入れるのが早かった米国では本術式の長期成績が報告されており、従来の術式と比較してきわめて良好な結果が報告されております(Lubowitzら)。 このように傷による侵襲が少なく、かつ靱帯が強固に固定されるので術後リハビリも従来より早期に開始できるようになりました。

【前外側靱帯(ALL)とは】

 近年注目されている膝の外側の靱帯で、ALL(Anterolateral Ligament)とも呼びます。大腿骨の外側と脛骨の前外側をつなぐ靱帯で、この靱帯は膝の回旋の安定化に関わっていると言われています。

 当科ではACLを再建する患者さまに対して、同時にALLも再建することを日本で先駆けて行っております。同時再建することで、術後の膝の安定性がより得られ、ACL再建後の再受傷のリスクを減らすことを期待しています。ALL再建では主に薄筋腱を採取し移植腱として作成します。この場合、ACL再建で使用する半腱様筋腱と同じ場所から採取できますので、腱採取のために傷口が増えることはありません。

【出典】

1) Øiestad BE, et al,Knee Osteoarthritis After Anterior Cruciate Ligament Injury:A Systematic Review,Am J Sports Med. 2009 Jul;37(7):1434-43.

2) Potter HG, et al,Cartilage Injury After Acute, Isolated Anterior Cruciate Ligament Tear Immediate and Longitudinal Effect With Clinical/MRI Follow-up ,Am J Sports Med. 2012 Feb;40(2):276-85.

3) Shaarani SR et al,Effect of Prehabilitation on the outcome of anterior cruciate ligament reconstruction,Am J Sports Med. 2013 Sep;41(9):2117-27.

4) Lubowitz J.H., Amhad C.S., Anderson K. All-inside anterior cruciate ligament graft-link technique: Second-generation, no-incision anterior cruciate ligament reconstruction.Arthroscopy. 2011;27:717-727

5) Lubowitz,All-Inside Anterior Cruciate Ligament Graft Link:Graft Preparation Technique,Arthroscopy Techniques, Vol 1, No 2 (December), 2012: pp e165-e168

6) Lubowitz et al,Randomized controlled trial comparing all-inside anterior cruciate ligament reconstruction technique with anterior cruciate ligament reconstruction with a full tibial tunnel.,Arthroscopy. Vol 29, No 7 (July), 2013: pp 1195-1200

7) Prodromos C.C., Han Y.S., Keller B.L., Bolyard R.J. Posterior mini-incision technique for hamstring anterior cruciate ligament reconstruction graft harvest. Arthroscopy. 2005;21:130-137.

8) Claes et al.Anatomy of the anterolateral ligament of the knee, J. Anat. (2013) 223, pp321--328

9) The Anterolateral Ligament (ALL) of the Knee, http://www.arthrex.com/resources/presentation/LFalSlg4QU6cFAFCSROaRA/the-anterolateral-ligament-all-of-the-knee (手術動画リンク)

10) Combined All-Inside ACL & Anterolateral Ligament Reconstruction
https://www.vumedi.com/video/combined-all-inside-acl-anterolateral-ligament-reconstruction/ (手術動画リンク)