担癌患者の鑑別疾患

Takafumi Koyama MD

はじめに

救急外来、一般内科外来で診療していると、担癌患者の診察時に苦慮することがある。
担癌患者以外にも、自己免疫疾患、間質性肺炎、冠動脈疾患、肝硬変、透析患者は、診療時に多くの注意を必要とする。しかし、担癌患者の診療開始前には、躊躇する研修医の先生が多いのではないだろうか。

180722img1.jpg躊躇する原因としては、i)特有のがんの病態とii)抗がん剤関連が考えられる。

しかし、我々が、学生時代から習得してきた患者へのアプローチを変える必要はない。病歴聴取、身体所見の取り方は共通である。必要なことは鑑別疾患の追加だ。鑑別疾患は通常、確からしい3つ、はずせない致死的2ー3つを考えることが多いだろう。ここに癌患者特有の鑑別疾患を組み入れてやれば、診療スタイルを変える必要はない。
がん患者特有の鑑別疾患を連想するTipを今日は習得しよう。

がん患者特有の鑑別疾患

診察を開始する前に、バイタルサイン、年齢、性別、主訴を確認する。これは担癌患者でも変わらない。次に、多くの医師が、カルテから患者情報をPick upするのではないだろうか。
もし、がん患者特有の鑑別疾患をあげる上でどのような情報をPick upするかがわかれば、あなたも今朝から担がん患者の診療のエースになれる。

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  • Biological Character
  • 脳転移の頻度の高い癌
    肺がん、乳がん、腎がん、悪性黒色腫、胚細胞腫瘍
  • 骨転移の頻度の高い癌
    肺がん、乳がん、腎がん、前立腺がん、甲状腺がん
  • 出血しやすい癌
    肝細胞がん、腎がん、甲状腺がん、悪性黒色腫、下垂体腺腫
  • 血栓を起こしやすい癌
    膵がん、肺がん、尿路上皮がん、腎がん、胃がん

Care/Treatment

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化学療法

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免疫チェックポイント阻害剤は、現在、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、胃がん、頭頸部扁平上皮がん、尿路上皮がん、に使用可能となっている。従来の抗がん剤(殺細胞薬、分子標的薬)とは、別に考えた方がわかりやすい。自己免疫疾患やGVHD(Graft versus host disease)のような症状(皮膚障害、腸炎、肝障害、内分泌異常)を起こす。
殺細胞薬、分子標的薬の副作用は4つのカテゴリーにわけると理解しやすい。
i)骨髄抑制、ii)反応性、iii)血栓・出血、iv)臓器障害である。
骨髄抑制・臓器障害が問題となるのは殺細胞薬、それ以外のものは分子標的薬で問題となることが多い。
骨髄抑制のピークは3週間毎の抗がん剤であれば10-14日、2週間毎であれば7-10日、毎週投与では休薬の週と覚える。

Cancer IP Skin and mucosal
damage
Bleeding/ Perforation/ DVT Cardiac toxicity Renal
toxicity
Gastric cancer Ramucirumab Transtuzumab Cisplatin
Lung
cancer
Gefetinib, Erlotinib
Afatinib
Crizotinib
Gefetinib, Erlotinib,
Afatinib,
Osimertinib
Crizotinib,
Ceritinib
Alectinib
Bevacizumab
Ramucirumab
Cisplatin
(Bevacizumab)
Breast
cancer
Everolimus Everolimus Bevacizumab Transtuzumab,
(Pertuzumab) Doxorubicin, Epirubicin
(Bevacizumab)
Colorectal cancer Cetuximab, Panitumumab Cetuximab, Panitumumab,
Regorafenib
Bevacizumab, Regorafenib
Aflibercept
(Bevacizumab)

放射線

・照射部位、照射線量、照射時期
急性期:粘膜炎、吐き気(頭蓋、上腹部)、倦怠感、食欲低下
亜急性期〜慢性期:放射性肺臓炎、放射線リコール

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ステロイド

脳転移、脊椎転移による周囲組織の浮腫軽減や、制吐剤、悪液質のコントロールと様々な癌診療の場面で使用される。
深刻な問題としては、筋症(4週間以上)、消化管潰瘍、ニューモシスティス肺炎(3週間以上)がある。
自覚されやすいものとしては震戦、吃逆、不眠がある。

Distribution

がんの拡がっている範囲と異物の有無を確認する。

Location

i)原発巣の切除の有無をみる。原発巣は、病変の中でもっとも大きいことが多く、問題をおこしやすい。出血、膿瘍、上大・下大静脈症候群、窒息。
ii)腹膜播種、胸膜播種、髄膜播種にも注意する。とくに腹膜播種症例では閉塞(胆管、尿管)をおこし、機能不全、感染を起こす。
異物は、血栓、感染のリスクであり、注意する必要がある。異物関連であれば、抜去することを考えなければならない。ステントが入っている患者では再閉塞、Colonizationをしばしば経験する。

症例の答え

Case:転移性大腸癌65歳男性の胸部違和感

既往歴:高血圧、薬剤:ACEI、CCB
病変はS状結腸、多発肺転移、リンパ節転移。
原発巣の切除なし。放射線治療歴なし。現在FOLOX+bevacizumabで治療中。
診断:中心静脈カテーテル関連血栓症

このサイトの監修者

亀田総合病院
腫瘍内科部長 大山 優

【専門分野】
がんの包括的医療、病状に応じた最善の治療の選択と実践