第54回日本癌治療学会学術集会で田中悠医師が「担癌患者における偽膜性腸炎の後方視的検討」について報告しました

将来腫瘍内科志望の当院初期研修医の田中悠医師が、10月20日(木)〜22日(土)横浜で開催された第54回日本癌治療学会学術集会で口頭発表をしました。


第54回日本癌治療学会学術集会

担癌患者における偽膜性腸炎の後方視的検討

田中悠*1、小山隆文*2、三浦大典*3、斎藤亜由美*3、大山優*3
*1 亀田総合病院 卒後研修センター
*2 国立がんセンター中央病院
*3 亀田総合病院 腫瘍内科

【背景】

Clostridium difficile(CD)は院内感染の原因て、時に致死的になりえる。リスク因子としては抗菌薬使用歴、入院歴、高齢、胃酸抑制剤使用歴、低栄養に加え、化学療法や免疫抑制状態も報告されている。しかし、担癌患者に限定した偽膜性腸炎の発症率、死亡率、リスク因子を検討した報告はない。

【方法】

2010年10月から2015年9月の5年間、亀田総合病院腫瘍内科の診療録を後方視的に検討した。偽膜性腸炎の診断は、有症状(発熱または下痢)かつ便中CDトキシン(A/B)陽性とした。

【結果】

4238人の内、44人(1.0%)が偽膜性腸炎と診断された。癌種は大腸がん(11名)、造血器腫瘍(9)、肺がん(7)、胃がん(5)、食道がん(3)、頭頚部がん(2)、乳がん(2)、肉腫(2)、腎がん(2)、その他(6)であった。固形腫瘍の病期は1期(4)、2期(1)、3期(7)、4期(26)であった。感染までの罹患期間中央値は6ヶ月(1-55)、Charlson Comorbidity Score中央値は6(2-11)、Body Mass Index(BMI)中央値は22.7(14.5-33.9)、前回退院から診断日までの中央値は0. 6ヶ月(0-58)であった。抗菌薬は84%、化学療法は84%、PPIは52%、H2blockerは54%、ステロイドは80%、非ステロイド系抗炎症剤は25%、経鼻胃管留置は14%であった。症状は発熱のみが3人、下痢のみが28人、発熱・下痢の両方を有したのは13人であった。メトロニダゾール(42)またはバンコマイシン(3)で治療し、治療期間中央値は11日(4-22)、死亡率は0%であった。

【考察】

16%の担癌患者は抗菌薬使用歴がなかったが、それでも偽膜性腸炎を起こす可能性が示唆された。化学療法中の有害事象で下痢の頻度は高いが、下痢を有する患者は、抗菌薬が投与されていなくても偽膜性腸炎の鑑別が必要である。また、7%の患者は下痢を伴わず発熱のみであり、発熱のみでも偽膜性腸炎を鑑別にあげる必要がある。担癌患者の偽膜性腸炎は適切に治療すれば、死亡率を低下させる可能性があり、早期診断が重要である。

【結語】

担癌患者において、抗菌薬使用歴がない下痢や、下痢のない発熱患者でも、偽膜性腸炎の可能性を考慮し、積極的に鑑別する必要がある。

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亀田総合病院 卒後研修センター 初期研修医
田中 悠

このサイトの監修者

亀田総合病院
腫瘍内科部長 大山 優

【専門分野】
がんの包括的医療、病状に応じた最善の治療の選択と実践