microbiology round

昨日のmicrobiology roundは、Proteus vulgarisがテーマでした。

まず、多発褥瘡感染で、血液培養からProteus vulgarisが検出された症例を当科フェローが提示し、その後、調べたことを発表します。微生物検査技師さんからは、実際の菌が発育中の培地を見ながら、培養する過程の特徴などを教えていただきました。

【Proteus属の歴史】
詩人ホメーロスにより伝承された古代ギリシアの長編斜事詩「Odyssea」で登場する、海神「Πρωτεύς, Prōteus」が名前の由来。「Prōteus」は敵から逃れるために形態を自由に変化させる能力があった。後の15世紀(A.D.)、シェイクスピアの初期の喜劇である「ヴェローナの二紳士」の主要キャラクターの1人として「Proteus」を登場させた。
「Odyssea」を参考にして、1885年にドイツの病理学者であったGustav Hauserは、彼が初めて発見した形態を変える特徴のある細菌を「Proteus」と名付けた。

【微生物学的特徴】
Proteus属は、P. vulgaris、P. mirabilis、P. penneri、P. myxofaciensの4菌種に分類される。腸内細菌科に属する通性嫌気性のグラム陰性桿菌である。大きさ0.4〜0.8×1.0〜1.3μm程度。自然界に広く分布し、土壌・汚水、また腸管常在菌でもあり、ヒトの糞便などから検出される。ラクトース非分解、硫化水素とウレアーゼを産生し、P. vulgarisはP. mirabilisと異なりインドール陽性である。
液体中では6-10本程度の鞭毛を有し、高い運動性を有する(Swimmer)。しかし、固形物の上では自身の細胞を全長20〜80μm程度まで伸長させ、さらに液体中と比較して50-500倍程度まで鞭毛の数を増加させる特徴を有し、固形表面も移動できるようになる(Swarmer)。
P. vulgaris OX19、OX2株は発疹チフスリケッチア(Rickettsia prowazekii)および発疹熱リケッチア(R. typhi)、日本紅斑熱(R. japonica)、P. mirabiris OXK株はツツガムシ病リケッチア(Orientia tsutsugamushi)と共通抗原を持つ。その性質を利用したのがWeil-Felix反応である。

【培地での特徴】
・Proteus属は培地で特徴的な匂いを呈することがあり、"fishy odor(魚臭)"と言われる。
・培地上では限局したコロニーは形成せず、培地面に薄く広げた様な発育をする。(Swarming)
<Swarmingの抑制>
・胆汁酸塩の培地への混入→MacConkey寒天培地、XLD寒天培地で抑制
・食塩を追加しない→CLED寒天培地で抑制
・寒天培地を2%以上にする

【臨床的特徴】
Proteus spp.で臨床的に最も分離頻度が高いのはP. mirabilis(90%程度)で、次いで多いのがP. vulgarisである。院内感染ではP. mirabilisと比較してP. vulgarisが起因菌となる頻度が高い。膀胱留置カテーテルが挿入されている患者や、機能的・解剖学的に尿路に異常がある患者の尿路感染症の起因菌となることが多い。尿路感染症の起因菌として最多であるE. coliと比較して、Proteus spp.による尿路感染症はより重症となる傾向がある。その他、創部感染症、腹腔内感染症、院内肺炎、カテーテル関連血流感染症などを引き起こす。
菌により産生されたウレアーゼが尿素を分解して、アンモニアを産生することで尿中pHが高くなり、リン酸マグネシウム・アンモニウム結石(struvite)が析出しやすくなることで尿路結石の原因となることも多い。

【抗菌薬治療】
 P. vulgarisはAmbler分類クラスAのβラクタマーゼ(セフロキシマーゼ or CumA)を染色体性に有しており、ペニシリン系薬、第一世代セファロスポリン系薬に自然耐性である。治療には第三世代・第四世代セファロスポリン系薬、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(ピペラシリン・タゾバクタムなど)、セファマイシン系薬などが用いられる。最近、ESBLsを産生する株が報告されているが、染色体性のAmpC遺伝子の保有はまだ報告されていない。

【参考文献】

1) Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Disease, Eighth Edition, Chapter 220, 2516.
2) 臨床微生物学 医歯薬出版株式会社, 2017.
3) 臨床微生物検査ハンドブック 第5版, 三輪書店, 2017.
4) Indian J Urol. 28(4): 388-391.
5) Microbiol Spectr. 2015 October; 3(5).
6) J Clin Diagn Res. 2013 Apr; 7(4): 642-5.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育