Campylobacter jejuni

今日は、ウイルス達の影に隠れて最近日の光が当たらない細菌に目を向けていきたいと思います。

今日のテーマは、Campylobacter jejuniです。
火を十分に通していない鶏肉を食べると胃腸炎を起こすアレです。
最近は自宅でテレワークをしている方々も多いと思いますが、ご自宅で飼っているニワトリを調理するときは十分気をつけてください。

Campylobacter jejuni
ギリシャ語でcampylos(曲がった)とbaktron(桿菌) jejunum(空腸)→(胆汁を好み空腸で増える)

グラム陰性、無芽胞のらせん状桿菌(0.2〜0.8×0.5〜5μm)
Campylobacter属はArcobacter 属とともにカンピロバクター科 (Family Campylobacteraceae)を構成する。Campylobacter 属には 18菌種が含まれ,さらに亜種や生物型に分けられるものもある。

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微生物学

1.形態と染色性
微好気性グラム陰性らせん菌。染色性が弱い。グラム染色でらせん状に湾曲し両端が細く尖っているため、カモメが翼を広げたように見える(gull wing)。培養が古くなったり、大気にさらされたりすると球状に変化する。菌体の一端(時に両端)に単毛性鞭毛をもち、コルクスクリュー状に運動する。

2.培養条件、主な特徴
微好気培養、または炭酸ガス培養を行い、35〜37℃で発育。42℃でも発育可能(42℃の方が選択性は高い)。

培地はCampylobacter属は他の腸内細菌よりもの増殖が遅いため、便培養では選択培地を用いないと分離できない。
培地は3つ
Skirrow培地、 Butzler培地、Campy-BAP培地
後者2つの培地にはセファロチンが含まれており、C. fetusを含めた他のCampylobacter属を阻害するため、C. jejuniの分離に最適。

培地の乾燥状態によりコロニーの性状が異なる。高湿な環境では良く増殖し、拡散した扁平で大きなコロニーを作り、遊走する。コロニーは浸潤で無色、半透明、かき取ると粘性で徐々に淡褐色を呈する。培地表面が乾燥していると、2日間で直径1mmのやや隆起した浸潤なコロニーを形成し遊走は見られない。

3. 本菌の仲間と鑑別性状
以前は、馬尿酸加水分解やナリジクス酸とセファロチンの感受性になどにより鑑別できていたが、近年、馬尿酸加水分解が弱陽性の株やナリジクス酸耐性株も検出されているため同定が困難な例が報告されている。またC. fetusは42℃で発育しないとされていたが、発育する株が増えているので、42℃での発育がC. fetusを否定する材料にならなくなっている。そのため正確な同定には遺伝子的な解析が必要である

疫学

  • 全世界で発症リスクがある
  • 先進国では夏の終わりと秋にピーク、発展途上国では一年中発生。
  • 家禽の摂取または接触により発症する。

病因・病態の特徴
全てのCampylobacterが病原性を持つわけではない。
最も重要な3つの要因
・小腸に到達する菌量
・感染株の病原性
・宿主の特異的免疫:特に液性免疫が関与
潜伏期間 1日〜7日 摂取した菌量が多ければ発症も早い。
 多くは曝露後2〜4日で発症。
牛乳、脂肪分の多い食品、水など、胃酸バリアを通過しやすい飲食物を摂取すると、比較的低菌量で感染症が発生する可能性がある。(胃酸環境がCampylobacterの障壁となるため)
同様に、PPIまたはH2遮断薬を使用していると感染しやすくなる。
C. jejuniは、ヒトの胆汁で増殖する。これにより、感染の初期に胆汁が豊富な上部小腸の定着を助ける。空腸、回腸、結腸に腸炎を生じさせる。
しばしば菌血症を生じさせる。Campylobacter fetus subsp. fetusが良く報告されるが、C. jejuniの方が遥かにcommonである。

臨床症状

・Campylobacter腸炎
腸炎症状が始まる12〜24時間前に発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感などの前駆症状がある。症状は1日から1週間以上続くことがある。
下痢は、軟便から重度の水様、血便までさまざま。多くの患者で、1日10回以上の下痢をする。腹痛は排便により緩和される。多くが自己制限的であり、数日で症状は徐々に軽快する。ただし、10%〜20%で1週間以上持続、治療を受けていない患者の5%〜10%で再発が見られる。
腹痛は右下腹部痛であることが多く、Yersinia enterocoliticaやSalmonella enteritidisと同様に、偽虫垂炎の所見を呈する。

・C. jejuni菌血症
菌血症は、C. jejuniの1%未満。急性腸炎で医師が血液培養を取る閾値を超えないことも影響している。
腸管外C. jejuni感染の3パターン
1) 急性カンピロバクター腸炎の正常な宿主に生じる一過性菌血症。
数日で血培陽性となった頃には、すでに患者は完全に回復していることもある。この場合の予後は良好であり、通常血液培養陽性をみての治療は不要。
2) 免疫正常者に生じる、腸炎後の持続菌血症もしくは深部感染。
この時分離されるC. jejuniは"serum resistant"であることが多い(自然免疫や液性免疫により除去されにくい株)が、抗菌薬が通常良く効く。
3) 免疫不全者で生じる、持続的な菌血症または深部感染。多くは腸炎を伴わない。この時分離されるC. jejuniは"serum sensitive"であることが多いが、宿主の免疫機構の問題により、滅菌するには長期の抗菌薬治療が必要。

・Campylobacter腸炎の合併症
急性期
胆嚢炎、下痢を伴う腹膜透析関連腹膜炎、皮疹(蕁麻疹、結節性紅斑など)、感染性動脈瘤、心膜炎、心筋炎 など

遅発性
・反応性関節炎
  下痢の発症後、通常1〜2週間(場合によっては数週間)に出現。
  小関節炎。関節炎の期間は1週間から数ヶ月
・ギランバレー症候群(GBS:急性免疫介在性多発神経障害)
 GBSの30〜40%はCampylobacter感染に起因。
 Campylobacter感染の1〜2週間後に神経症状が生じる。
C. jejuni感染の症候性エピソード後の2か月間にGBSを発症するリスクは、一般集団でGBSを発症するリスクよりも約100倍高い。

治療

C. jejuniとC. coliは通常、マクロライド、フルオロキノロン、カルバペネム、アミノグリコシドに感性。また、in vitroでクリンダマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコールに感性であるが、これらの薬剤の臨床的有効性を示すデータはない。ペニシリン、多くのセファロスポリンを含むβラクタム薬、トリメトプリムに耐性。
一方、C. fetusは基本的にマクロライド、フルオロキノロンに耐性。アンピシリン、カルベペネム、アミノグリコシドに感性。

・Campylobacter jejuni腸炎
基本的は自己限定的なため、抗菌薬加療は不要。体液量/電解質管理を行う。
抗菌薬加療を行うのは、重症の時と、重症化のリスクがある時(高齢、妊婦、免疫抑制)
アジスロマイシン 1回500mg 1日1回 経口 3日間
代替薬:シプロフロキサシン 1回500mg 1日2回 経口 3日間
重症の場合、カルバペネム±アミノグリコシド
※渡航者、特に東南アジアは、フルオロキノロン耐性が増えている

・Campylobacter jejuni菌血症
アジスロマイシン 1回500mg 1日1回 経口 14日
重症の場合、カルバペネム±アミノグリコシド

参考文献
1)MANDELL 8th Edition- Principles and Practice of Infetious Diseases.p2486-p2493
2)Up To Date 「Clinical manifestations, diagnosis, and treatment of Campylobacter infection」

亀田総合病院 感染症内科 菊池 航紀

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育