第4回KINDセミナー:講義1「感染症総論」質疑応答

先日のKINDセミナーでは、大勢の皆様にご参加いただき、ありがとうございました。

講義1「感染症総論」(細川直登)の質疑応答をアップしましたので、ご確認ください。
その他の講義の質疑応答については、引き継きアップしていきますので、よろしくおねがいします。


Q.前医で抗菌薬が入っており、感染症をあまり疑わないが、IEなどできるだけ否定したい時など抗菌薬を一回中止して結愛などを撮るタイミングはいつが良いか?
A.可能なら1-3日明けて取るのが良い。感染症を疑わないなら抗菌薬を投与しない、というのが重要

Q.グラム染色は外注で嫌気性菌は偽陰性になってしまうなど、解釈に気をつけるポイントは
A.外注の時はGPC, GNRなどだけの表記がされていることがあるが、そのような場合は必ず白血球の量を記載してもらうように検査センターに要求する。可能であれば推定起炎菌を記載するように依頼する。嫌気性菌は培養が難しく、培養は偽陰性になることがあるが、Gram染色では見えるので、塗抹検査を重要視する。Gram 陽性菌、陰性菌、球菌、桿菌が全部混ざって見える、いわゆるpolymicrobial patternが嫌気性菌がいるサインと考える。

Q.抗菌薬をnarrowにゆくメリットとして公衆衛生学的な問題以外に投与する患者自身に一生住み着く耐性菌が生じることを防ぐ効果もあると思うがどうか。
A.多くの耐性菌は耐性遺伝子を発現しているので、野生型との生存競争に負けることが多く、自然に消えてゆくことが多いが、MRSA、ESBLsなどは常在菌として残る可能性があるのでおっしゃる通りです。

Q.特異度の高い身体所見はありますか?
A.Physical signはどれもそれ一つで診断を確定できるほどのものはありません。病歴、検査所見などと合わせて判断することが大事です。EBM的にはそれほど特異度の高いサインはありません。しかし経験的にはIEの時の"ポチ"や、関節炎の時の関節の圧痛、他動時痛、胆管炎の肝叩打痛、腎盂腎炎のCVA叩打痛・恥骨直上の圧痛、壊死性筋膜炎の時の見た目と不釣り合いな圧痛などはいつも注意してみています。

Q.アンチバイオグラムを使用する際にターゲットとする細菌に対し通常何%以上効果があれば使用しますか?
A.教科書的には90%以上とされています。診察の結果、全身状態と疾患名から生命予後が極めて良いと考えられればより低い確率の抗菌薬を使用します。例えば蜂窩織炎の患者には黄色ブドウ球菌の感受性率が75%ぐらいのセファゾリンを初期治療として使用しています。
院内死亡率の高いことが予測される場合は、より確率の少ない菌を対象にします。
三途の川を渡り切りそうな人の場合は、思考回路を切り替えて、患者背景から考えられる菌を全部カバーに行きます。septic shockでカテコラミン投与に加え、ピトレシンの投与が必要でまだ血圧が上昇しない、直前に広域抗菌薬が2週間も投与されていた患者の場合は、カルバペネムでグラム陰性菌の耐性株を含めて、バンコマイシンでグラム陽性菌の耐性株を含めてカバーし、加えて、初めから抗真菌薬を投与したりします。

Q.入院患者のプロブレムの上げ方の注意点があれば上げてください。
A.常に患者背景から患者さんに何が起こっているのかを想像しながら上げることでしょうか。

Q.肺炎の治療がうまくいかないとき、一旦抗菌薬を注視して培養を撮り直すべきか?
A.場合によりけりです。通常は抗菌薬を投与するとすぐに起炎菌が消えてしまうので、喀痰を取り直しても情報が得られないことが多いですが、本物の緑膿菌肺炎などでは有用な場合もあります。
まずは、なぜ、うまくいかないのか?を考えることが重要だと思います。その一環としては喀痰をとりなおしてGram染色をすることが有用だと思います。

Q.免疫不全について具体的に知りたい。
Q.免疫不全の4つのタイプについて、実際にどう臨床に落とし込むか?
A.これだけで一つのレクチャーになるので、別の機会に
 好中球減少 悪性腫瘍の化学療法時 緑膿菌を第一のターゲットとする あとは真菌(酵母・糸状菌)
 細胞性免疫不全 ウイルスと真菌がターゲット CMV, Pneumocystis jiroveciiなど
 液性免疫不全 莢膜のある細菌 肺炎球菌、インフルエンザ菌(type b)、 髄膜炎菌
 皮膚粘膜の破綻 皮膚ならS&S(Staph & Strep) 口腔粘膜なら口腔内常在菌(嫌気性菌を含む)、腸管粘膜なら腸内細菌科細菌、Bacteroidesなど

Q.MEPMはどのような時に使用するのか?
A.ESBLs産生腸内細菌科細菌、AmpC過剰産生腸内細菌科細菌のseptic shockが疑われる時。

Q.septic shockで来院される患者さんに外すのが怖くてMEPMを投与してしまいます。
A.外して死ぬか?を基準に考えると良いと思います。spectrumとしてはPIPC/TAZとカルバペネムはほとんど変わりません。ESBLsに対する治療効果がMEPMの方が良いことがわかっているので、これが起炎菌である可能性があって、抗菌薬治療が不成功に終わった時に死亡する可能性があるかどうかを考えてください。ちなみに当院ではESBLsが確定したら、CMZを積極的に使っています。

Q.嚥下機能の悪い患者さん、誤嚥性肺炎疑いの抗菌薬選択で嫌気性菌カバーは必須か?好気環境なので必要ないのではないか?
A.いい質問ですね、誤嚥性肺炎は嫌気性菌が関与します。10年以上前にNEJM誌上で議論があったのですが、嫌気性菌を重要視する専門家と重要視しない専門家がいます。どっちも正解。でも嫌気性菌は関与します。吐物や喀痰で閉塞した肺胞は嫌気的な環境であり、実際に嫌気性菌が検出されることから関与することは明らかです。
横隔膜より上の嫌気性菌は嫌気性菌用のスペクトラムが必要ない菌が多いので、CTRXでも十分治療できるとされています。当院ではグラム陰性菌へのスペクトラムが狭いABPC/SBTを積極的に使っています。PIPC/TAZは緑膿菌がターゲットにならない限り使わないようにしています。

Q.悪寒と戦慄を区別する必要があるか?
A.悪寒だけでなく戦慄があると菌血症の確率が上がります。

Q.ジェイム イリュージョン?
A.Janeway lesion 感染性心内膜炎の兆候です

Q.もともと意識が悪い人のqSOFAはどう評価したら良いか?
A.免疫不全の4つのタイプについて、実際にどう臨床に落とし込むか?意識を除いて評価してください。qSOFAの点数では評価できません。

Q.意識状態の悪い人の肺炎の治療効果判定が難しい。
A.意識ではなく呼吸状態で評価するのが良いと思います。呼吸数、SpO2などが評価指標になります

Q.発熱W/Uで喀痰の提出は必須か?
A.肺炎を疑ったら出してください。疑わなければ出さなくて良いと思います。
 呼吸器症状がなくてもリスクがあれば気道内の吸引検体を出した方が良いか?
 高齢者は咳が出ないこともよくありますので、それは患者さん全体を見て評価することが重要です
 一般内科の診察が重要、ということです

Q.CRPはseptic shockの患者の経過を見ていく上で指標の一つとしているが、あまりしないのでしょうか?
A.経過を見る指標の"一つ"としてみても良いかもしれませんが、よくなっているかどうかはCRPを見なくても評価できます。
septic shockであればカテコラミンの必要量が最も良い指標になります。呼吸器設定、Lactateも良い指標です。尿量が確保できるようになることも重要です。CRPを一切見なくても評価できますよ。
感染症科では CRPは見ていませんが、当該診療科で提出されるのを禁止してはいません。
寝たまま、目を開けなかった人が、声掛けで目を開けるようになって、声が出なかった人が答えるようになって、話ができるようになって、座位が取れるようになって、食事が取れるようになって、テレビを見るようになる、これがsepsisがよくなってくる、ということです。

Q.呼吸音に異常がない肺炎について教えて欲しい
A.深呼吸ができないとcrackleが聞こえないことはよくあります。
 呼吸数、酸素需要、CXRなどで評価すると良いと思います。

Q.ダニに噛まれただけで、リケッチア感染症がなくて発熱することはあるか?
A.ダニに刺されただけで発熱は起こりません

Q.慢性骨髄炎ではなぜCRPを指標にするのか?
A.赤沈とCRPを指標にして抗菌薬投与期間の参照にすることが推奨されています。

Q.高血圧患者のqSOFAは
A.同じです

Q.菌血症を示唆する所見がなければルーチンに血培を取らなくても良いか
A.感染症ではっきり原因がわかっている時以外はとって損はないです。必ず「とっといてよかったー」ということを経験すると思います。

Q.感染症では抗菌薬治療期間を決める上で重要な要素は何でしょうか?
A.いい質問ですね。実は凡その投与期間はだいたい決まっています。
 基本2週間
 それより短くて良いと証明されたものはだんだん短い期間の推奨が出ています
 2週間よりも長く必要な疾患は限られています。感染性心内膜炎・骨髄炎・膿瘍は最低4週間。起炎菌と疾患により決めます。
文献はIDSAのガイドラインが一番よく整理されていて使いやすいと思います。
教科書では青木眞先生の本が良いと思います。
文献を評価する方法は他の一次資料を評価する方法と一緒です。EBMの原則に則って、批判的吟味をしてみてください。その上でどの程度臨床に反映させるか、は自分の患者さんにどの程度当てはめることができるか、をご自身で判断する、ということになると思います。

Q.高齢者で所見が出にくいという理由で発熱、CRP、WBCの上昇のみで抗菌薬がほぼ投与されているが、仕方ないことなのか?
A.レクチャーの内容をもう一度復習してみてください。
 大切なことはいつも同じ
 です。
 必ず総合的な評価をしてその上で必要と判断されれば微生物検査を提出した上で、抗菌薬投与を開始すれば良いと思います。

Q.喀痰が適切な質でないときは培養しないということを検査室と取り決めた方が良いと思うが。
A.おっしゃる通りです。亀田ではGeckler 1,2の痰は培養しません。取り直しを依頼しています。

Q.救命センターで意識障害に血培、尿培、痰培、LPをルーチンに行なっています。ER、ICUへのアプローチを詳細に教えて欲しい。
A.これだけで一つのレクチャーになってしまいます。
 「大切なことはいつも同じ」
 です。
 総合的な評価が必要です。疑わない培養は出さない、というのも重要です。
 意識障害で細菌性髄膜炎を疑ったら、血液培養を採取したらすぐに抗菌薬投与が開始になりますが、本当に細菌性髄膜炎を疑っていますか?
 診断なくして治療なし、です。
 感染症の場合は"確定診断前に治療を開始"しますが、その時点で疑い診断、仮の診断をつけて治療を開始します。

Q.抗菌薬をGPC、GNR、嫌気、緑膿菌に分ければ良いということですが、GPR, GNCなどが検出された時はどう考えれば良いですか?
A.Gram陽性菌の中で疾患と関連の深いものはほとんどGPCです。Gram陰性菌の中で臨床的に問題になるものはほとんどGNRです。
なので、GPR、GNRは例外的なので、それらは個別に理解すれば良いでしょう。
Gram陽性菌は球菌でも桿菌でも大体一緒です。原則ペニシリンが効けばペニシリン、ペニシリンが効かないものはバンコマイシンで治療します。GNCは臨床的に問題になるのはほとんどNeisseriaです。呼吸器感染を起こすのはMoraxellaです。髄膜炎菌は基本はペニシリンです。第三世代セフェムも標準的な治療薬です。淋菌は現在では信頼できる抗菌薬は第三世代セフェムですが、外来ではアジスロマイシンで治療します。Moraxellaはベータラクタマーゼ産生菌なので、アンピシリン・スルバクタム、または第二、第三世代セフェムを使用します。

Q.経過観察、有効性判断のための血液培養再検は必要か?必要ならどのくらいの期間で採取すれば良いか?
A.Gram陽性球菌の場合はブドウ球菌、連鎖球菌なので、心内膜炎を起こす典型的な菌として血液培養の陰性化確認が必要です。
抗菌薬投与2-3日ごに採取します。GNRは基本的に再検は必要ありません。心内膜炎を疑う兆候があれば、再検します。Candidaは血液培養陰性化から2週間が標準治療期間なので、必ず陰性化確認をします。

Q.風邪、上気道炎患者でも悪寒を訴える患者がいますが、どのようにアプローチするか?
A.風邪診療のレクチャーを参考にしてください。
それは本当に風邪ですか?上気道炎ですか?風邪、上気道炎と確定診断をつける過程で菌血症が疑われればその時点で、血液培養を採取しておいてください。
"風邪" "急性上気道炎"は初期研修医がつけてはいけない診断名と教えています。

Q.抗菌薬の選択においてβラクタム薬が優先されるのは副作用などの問題ですか?スペクトラムの問題ですか?
A.いい質問ですね。βラクタム薬はその作用機序が細胞壁合成阻害です。人間の細胞には細胞壁はないので、基本的な作用機序が人間の細胞には作用しないというのがポイントです。細菌に対しては致死的で極めて毒性が強く、患者には毒性が極めて少ない、選択毒性の強さが優先して使用される一番の理由です。
スペクトラムはβラクタム薬の中でも様々ですので、GPC、GNR、 嫌気性菌、緑膿菌のどれを狙っているかを意識して選択します。

Q.入院患者の発熱で、感染症は否定できないが培養が陰性で診察や検査でも熱源がわからない場合、抗菌薬を始めるべきでしょうか?
A.ケースバイケースでしょう。基本的には培養をきちんととって陰性になる理由の最も多いものは先行抗菌薬の投与です。ですから、必ず抗菌薬投与前に必要な培養を取っておくことが重要です。
上記に当てはまるような患者さんの発熱はその原因が感染症以外であることが十分予測されます。
なぜ熱が出ているのか?を検索するのが重要です。その過程で感染症が示唆されれば検体を採取して抗菌薬投与を開始するのが良いでしょう。

Q.肺炎で血培は不要でしょうか?
A.肺炎は血液培養が出にくいことが知られていますが、肺炎と診断がつくのは後からなので、感染症診療の過程で血培を出しておくのは無駄ではありません。必ず、「血培出しといてよかったー」という症例にあたります。「出した方が良いか?」という質問が出る状況になった時点で出すべきでしょう。

Q.培養検査を提出するときに特殊なコメントをつけておくべき場合はどんなときか?
A.レジオネラはコメントがなければ培養されません。Neisseria属は冷やすと死滅しやすいので、できるだけそのまますぐに培養に移します。コメントではなく、あらかじめ細菌検査室に連絡してから検体採取することをお勧めします。真菌や抗酸菌(結核、非結核抗酸菌を含む)の時にもコメント、もしくは連絡をしておくと良いでしょう。
基本的には普段から自分が疑う起炎菌をコメントに書いておくことをお勧めします。

Q.感受性検査がin vitro と in vivoで異なることがあると聞いたことがあります。代表例はどんなものでしょうか?
A.感受性検査は基本的にin vitroの検査です。vivoで起こる現象と違うことを認識する必要があります。
試験管の中で、対象菌のMIC(最小発育阻止濃度)を測定する、というのが基本です。あくまでも試験管=in vitroの結果を見ているだけです。得られたMIC値に関して、抗菌薬投与で得られる血中濃度より高いものは耐性、低いものは感受性と判断します。
どのくらいの濃度で耐性とするか感受性とするかという基準が設けられているので、それに当てはめてS, I, Rのカテゴリーがつけられます。
基本的に"S"の抗菌薬は"臨床的に有効"と判断して良いと言えます。

検査機器で自動判定された結果が正しくないことがあります。
Klebsiellaの感受性でABPCがS と出ていたらそれは間違いです。
ESBLs産生株で第三世代セフェムが感受性、と出ていたらそれは間違いです。

ただし、"S"の抗菌薬ならどれでも良い、ということではありません。"標準的治療薬"を知っておくことが重要です。
標準的な治療薬の中から選択するということを知っておいてください。当然どの種類の細菌には、どの抗菌薬が標準的か、ということを知らなければなりません。その時にはGPC, GNR, 嫌気性菌、緑膿菌のどの仲間に入るのか、それぞれどれを狙った抗菌薬か、で分ければOKです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育