救急外来において肺塞栓症低リスク群の患者に対し、PERCスコアを使用した場合のその後の塞栓イベントへの影響について:PROPERランダム化臨床試験

Effect of the Pulmonary Embolism Rule-Out Criteria on Subsequent Thromboembolic Events Among Low-Risk Emergency Department Patients: The PROPER Randomized Clinical Trial.
JAMA 2018 Feb 13;319(6):559-566.

PE(Pulmonary Embolism)の診断には、一般的にはD-dimerとCTPA(CT pulmonary angiogram)が使用されていることが多い。PERC(Pulmonary Embolism Rule-Out Criteria)スコアは、8項目全てが陰性であった場合にPEを除外できるというスコアである。先行研究において、PERCスコア陰性の群でPEの見逃し率が1.8%であったということが報告されているが、PERCスコアの実用性については未だ検証されていなかった。

本研究では、PEが疑われ、PEの事前確率が15%以下であると予想される救急外来の患者において、PERCスコアが0点であり、かつD-dimer、CTPAを含む検査を行わなかった場合に、安全にPEを除外できるかどうかを検討した。

研究デザインは、非劣性のクロスオーバークラスターランダム化比較試験で、フランスの14の救急施設で行われた。期間は2015年8月〜2016年9月、介入群の期間、コントロール群の期間はそれぞれ6ヶ月ずつで、wash out期間は2ヶ月に設定されている。対象は救急外来に来た患者で、PEの疑いがあり、PEの事前確率が15%以下と予想される患者で、介入群ではPERCスコアを使用し、0点であれば、D-dimer、CTPAなどの更なる検査を行わずにPE除外とし、PERCスコア陽性であれば、D-dimer、CTPAを用いて従来通りのPEの診断を行った。コントロール群では、全例にD-dimer検査を行い、D-dimer陽性であればCTPAを施行した。D-dimer陰性、あるいはCTPAでPE無しと判断された場合にPEを除外とした。

主要評価項目は、診断後3ヶ月以内の新規のPE診断率であり、Per-Protocol解析をすると、介入群において0.1%、コントロール群では0%という結果となった。2群の差は0.1% (1-sided 95% CI, − ∞% to 0.8%)であり、PERCスコアを用いた方法が非劣性であるという結果となった。副次的評価項目については、全体で5例の死亡があったが、どれもPEが原因とは考えにくく、2つの群で有意差も無かった。その他、CTPA例の施行は、介入群で有意に低く(13% vs 23%)、ER滞在時間も、介入群で有意に低かった(4時間36分 vs 5時間14分)。

本研究では、PEの事前確率が15%以下ということで患者を選択していたが、実際の診断では2.7%であったことから、事前確率のより低い患者が選択されていた可能性が挙げられる。また、見逃し率は先行研究より1.5%に設定していたが、結果は0.1%であり、サンプルサイズも妥当ではない。さらに、研究の特性上、患者の組み入れの際に恣意的な選択が行われていた可能性があり、研究に組み入れられるべき患者が、プロトコール外治療に進んでしまった可能性も考えられ、内的妥当性は十分とは言えない。
外的妥当性については、日本と、本研究が行われたフランスではPEの有病率が10倍程度違うこと、人種での特性の差があることから、日本でのPERCスコアの適応には更なる研究が期待される。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科