敗血症に対して救急車内での病院前抗菌薬使用についてのRCT

Alam N, Oskam E, Stassen PM, Exter PV, van de Ven PM, Haak HR, Holleman F, Zanten AV, Leeuwen-Nguyen HV, Bon V, Duineveld BAM, Nannan Panday RS, Kramer MHH, Nanayakkara PWB; PHANTASi Trial Investigators and the ORCA (Onderzoeks Consortium
Acute Geneeskunde) Research Consortium the Netherlands. Prehospital antibiotics in the ambulance for sepsis: a multicentre, open label, randomised trial. Lancet Respir Med. 2018 Jan;6(1):40-50. doi: 10.1016/S2213-2600(17)30469-1. Epub 2017 Nov 28. PubMed PMID: 29196046.

心筋梗塞や外傷などの早期認知・早期介入が必要となる疾患ではEmergency medical services (EMS)の役割が非常に大きい。敗血症は死亡割合の高い疾患でその発症割合も上昇している症候群である。SSCGでは1時間以内の抗菌薬投与が推奨されており、後ろ向き観察研究で早期抗菌薬投与と死亡割合の改善の関連性が報告されている。しかしながら前向き観察研究では早期抗菌薬投与と死亡割合の改善効果は示せていない。著者らは敗血症においてプレホスピタルからの抗菌薬投与することが予後を改善すると仮説をたて本研究を行った。
デザインは多施設オープンラベルRCTでオランダの34施設で行った。対象患者は18歳以上、感染症と診断もしくは疑われた患者でSIRS基準を満たすもので、介入群では通常治療(酸素・輸液)に加えて、CTRX2gを投与、対照群では通常治療のみ施行として、28日死亡割合を主要評価項目として検証した。マスキングはおこわず、ブロックランダム化で中央施設で割付は予め行われ、封筒法で隠蔽化した。主解析はITTで行われ、脱落率は1%であった。サンプルサイズはARR6%、検出力80%で2144人と算出した。研究のプロトコルにアクセスできないがイベント発症割合を17%程度に設定していると思われる。

結果は2014年6月から2016年6月までの期間で3228人がスクリーニングされ、2698人が組み入れられた。家庭医からの紹介が75%で、年齢は72歳前後で、男性57%程度、臓器障害のないsepsisが37-38%、severe sepsisが58%、Septic shockが3-4%であった。ベースラインは同等であった。抗菌薬投与までの時間の中央値は介入群で26分 (IQR 19-34)、対照群では救急到着から70分であった。
主要評価項目である28日死亡割合は8% vs 8%(RR0.95 95%CI 0.74-1.24)で有意差はなく、副次評価項目の90日死亡にも差はなかった。再入院割合のみ7% vs 10%(P=0.0004)で低下していた。

本研究のLimitationとしてマスキングが行われていないこと、91人の詳細不明の除外がある以外に、最大の問題点としては軽症の敗血症(臓器障害のない敗血症)が多いことである。サンプルサイズ計算は2144人で、2698人を組み入れてはいるものの結局の死亡割合は8%であり、この差を本研究で検出することはできない。ICU入室割合も10%程度であり、サンプルサイズ設定と組入設定が甘かったと言わざるを得ない。よりイベント発症割合が高い、つまり、より重症な集団での検証が必要であり、この研究で「敗血症にはプレホスピタルでの抗菌薬投与が無効」と結論付けることはできない。もう一つはCTRXが感受性のある微生物であったかである。介入群ではStaphylococcusが22.6%(対象では9.1%)と差があり、MRSAなどのCTRX耐性の菌であった可能性も考慮したほうが良い。この点で抗菌薬の適正割合も結果として示してほしかった。今回の研究からは「SIRS+感染で定義した敗血症の集団」を院前で拾い上げ、「CTRX2gで治療開始」しても効果がない可能性はあるが、より興味のある重症な敗血症で効果があるかは依然として不明である。このような集団(qSOFA≧2やsepsis-3の基準や、septic shock)でかつ抗菌薬の適切性も測定した検証が今後行われることを期待したい。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科