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<論文>
Circulation. 2018;137:250-258. DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.117.029457

<background>
大動脈症候群(Acute Aortic Syndromes:AAS)は大動脈解離、大動脈壁内血腫、貫通性大動脈潰瘍、大動脈破裂と定義される。
発症率は一年間に10万人に3-6人であり、臨床症状がとても非特異的であるため、診断が難しい。また、AASの誤診率は14-39%とも言われており、救急外来でAASが疑われ造影CTを撮影された患者のうち、結果が陽性だったのは2.7%だった。 
国際ガイドライン(AHA,ESC)ではAASの診断アルゴリズムの中でAortic Dissection Ditection Risk Score(ADD-RS)を使用し、試験前確率を高めることを推奨している。
2009年にThe International Registry of Acute Aortic Dissection Substudy on Biomarkers (IRAD-Bio Experience)では大動脈解離を疑われた患者でD-Dimerを測定し、DD<500ng/mLは24時間以内に限ってはPE同様、大動脈解離の除外に有効かもしれないことを示唆している。
2010年にACC/AHAはguidelineでopredisposing conditions, pain features, and clinical examinationの3つのグループの基づいたリスク評価を提唱し、0−3のスコアリングシステムを同時に提案している。
しかし、ADD-RS low score単独、D-Dimer陰性単独ではAASを除外するには不十分であった。
ゆえに、これまでもADD-RSによる検査前確率とD-dimer陰性を組み合わせることにより、画像検査を使用せず安全にAASをrule-outできるという報告がいくつかあった。
しかしそのいずれも後ろ向き研究であり、前向きに研究されたことはなかった。
それをふまえて、今回の研究はADD-RSとDDを組み合わせ『前向き』に研究したものである。

<Study design>
4ヶ国、6病院、150人の医師が加わった多施設、多国籍の前向き観察研究である

<Inclusion>
18歳以上の来院14日以内に胸痛、腹痛、背部痛、失神もしくは血流欠損の徴候や症状で救急外来を受診した患者。
かつ、AASがattending physicianの鑑別診断に挙がった患者。
24時間いつでも組み入れできる。

<Exclusion>
外傷患者、研究への参加に同意が得られないもしくは不適応な患者

<Methods>
oADD-RS:試験前確率を評価。0-3にスコアリング
oD-Dimer:cut off <500ng/mL
最終診断は画像診断(CT/MRI/TEE)、検死、手術、もしくは、14日後の電話か外来でのfollow-upで行う。
Primary outcome:
AASを除外するための2つの診断戦略の見落とす確率(failure rate):# of AAS/# of DD- in each catefory
1.ADD-RS=0 and negative DD
2.ADD-RS≦1 and negative DD
Secondaryoutcome
AASを除外するための2つの診断戦略の効果(efficacy)# of DD- in each category/患者総数

<Results>
1850人が研究に含まれ、241人(13%)がAASの診断となりました。ADD-RSが0点だったのは438人(24%)おり、そのうちD-dimerが陰性だったのは294人(67%)で、そのうち1人のみがAASであった。ADD-RSが1点だったのは1071人(58%)で、そのうちD-dimerが陰性だったのは924人(50%)で、そのうち3人がAASであった。
ADD-RSが2点以上だったのは341人(18%)で、そのうちD-dimerが陰性だったのは113人(33%)で、そのうち5人がAASであった。
AAS-RSが0かつD-dimer陰性の患者(n=294、15.9%)で、AASは1件のみであった(見逃し率0.3%)。ADD-RSが1以下でD-dimer陰性の患者(n=924、49.9%)では、AASは3件(見逃し率0.3%)であった。
ADD-RS≦1かつD-dimer陰性の感度は98.8%、特異度57.3%、陽性的中率25.8%、陽性尤度比2.31、陰性的中率99.7%、陰性尤度比0.02であった。
ADD-RS≦1かつD-dimer陰性では49.9%のefficiencyであり、2人に1人はこのカテゴリーに当てはることとなる。

<Conclusion>
ADD-RS ≦ 1点とD-dimer陰性の両方が揃う場合、AASの可能性は300人に1人ということになり、このカテゴリーではほとんどAASを除外できる可能性がある(見逃し率0.3%)。この結果を受けて著者はADD-RS とD-dimerを組み合わせた、画像検査を行うアルゴリズムを提唱している。

<批判的吟味>
Strength:impact analysisで2つの測定因子を組み合わせて前向きに研究している。
      多施設、多国籍であり、Nが多い。
Weekness:Inclusion criteriaが医師の鑑別診断によるものである。
D-dimerのblindもなされていない。
約半分の参加者が決定的な画像診断を行なっていない。
観察研究であり多くのconfounderが影響しうる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科