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論文:N Engl J Med. 2018 Jan 19. doi: 10.1056/NEJMoa1705835. PMID: 29347874
"The ADRENAL Trial" → Adjunctive Corticosteroid Treatment in Critically Ill Patients with Septic Shock(ADRENAL) trial

<Background>
Sepsis(敗血症)は、適切な抗菌薬・輸液・昇圧剤の他には効果が証明された薬物治療が存在しない。この30年間で、Septic shock患者に対するステロイドの補助療法に関する17個のRCTが組まれてきた。しかしステロイドの効能に関する共通の総意はなく、臨床的に実用されるかどうかは臨床家による。ステロイドは、Sepsisの補助療法として40年以上も用いられているが、その安全性や効果は確立されていない。
1980年代に組まれたRCTでは、高用量のメチルプレドニゾロン(30 mg/kg)はコントロール群よりも高い死亡率と関係しているという結果となった[NEJM 1984;311:1137-43] [NEJM 1987;317:653-8]。また、ステロイドの有害事象(高血糖、ミオパチー、高Na血症、低K血症、免疫抑制、創傷治癒の遅延、白血球増加、膵炎、死亡率増加、感染の増加)の報告もあり(ARDSNet / CORTICUS試験)、ステロイドのマイナス面を示唆する研究は少なくない。
低用量ヒドロコルチゾン(200 mg/day)と死亡率の関連については、相反する結果を示す2つのRCTがあるが、後のsystematic reviewやメタ解析はステロイドの使用を完全に否定するには至らなかった。また、低用量ヒドロコルチゾンを使用した群がショックからの回復が早いという結論が一致するRCTがある[JAMA 2002;288:862-71] [NEJM 2008;358:111-24]。
そこで、これまでの先行研究の流れを踏まえた今回のResearch Questionは、「Septic shockの患者に対し、ステロイドの投与が死亡率を低下させるか?」というものである。

<Methods>
本論文のPICOは、P:人工呼吸器装着中のSeptic shock患者 3658人(Intervention群 1898人+Control群 1902人)、I:ハイドロコルチゾン 200 mg/day×7日間(もしくは死亡するまで、ICUから退室するまでのうちで最も短い日数)を持続投与する群、C:ハイドロコルチゾンを投与しない群(Intervention群と似ている白い粉(Lactose)を使用)、O:90日以内の死亡率(すべての死因を含む)である。5ヵ国、69施設での多国間共同無作為化二重盲検試験のStudy designである。
Inclusion criteriaは18歳以上、SIRSの4項目のうち2項目を満たす感染症、人工呼吸器使用、カテコラミン使用中などの条件が含まれる。Exclusion criteriaとして死亡が免れない、本人・Key person・臨床家が積極的な治療を望んでいない、原疾患による90日以内の死亡がほぼ確実、ESCAPE試験に参加済みなどが挙げられた。
ICU入室理由、カテコラミン使用量、感染臓器(肺or肺外)、性別、APACHEII score、ショックの持続時間)などの6個のサブグループ別にも解析された。

<Results>
Primary outcomeとしての90日以内のすべての死因を含む死亡率については、両者で差がなかった(27.9% vs 28.8%)。Secondary outcomesとしての28日目と6ヵ月後の全死因による死亡率、ショックから回復するまでの時間、ショックの再燃、ICU滞在期間、病院滞在日数、人工呼吸器装着の頻度と日数、腎代替療法の頻度と日数、ランダム化して2〜14日目に起きた菌血症、ICUにおいて輸血が必要なレベルの出血、6ヶ月時点でのQOLの10項目については、何項目か有意差がみられた。具体的には、ショックからの回復時間、ICUからの退室時間についてはHydrocortisone群の方が有意に短く、輸血件数もHydrocortisone群の方が少なかった。ステロイドの有害事象については合計33個の有害事象が報告され、Hydrocortisone群 vs. コントロール群で(1.1% vs. 0.3%, p= 0.009)Hydrocortisone群の方が多かった。
Limitationとしては、Adverse eventsは携わっている臨床家の判断のみに任せており、第三者が判定した訳ではないこと、抗菌薬選択が適切かどうかの判断は含まれていないこと、人工呼吸器再装着率に関して長期の神経筋疲労についての評価は行っていない、ステロイドの有害事象に関して追跡がされていないことなどが述べられている。

<Conclusion>
人工呼吸器使用中のSepsis患者に対し、ステロイド投与は90日以内の死亡率を減少させない。ただし、ショックからの回復時間は早い、輸血される頻度の減少、ICUからの早期退室、初期の人工呼吸器からの早い離脱などの限られた使用価値はあるかもしれない。

<批判的吟味>
研究デザインとしてはなるべくバイアスの少ない工夫がなされており、6個のサブグループ解析(性別・ICU入室理由・カテコラミン使用量・敗血症を起こした感染臓器・APACHEII score・ショックになってから割り付けされるまでの時間)においても、Hydrocortisone群 vs. コントロール群で90日以内の死亡率に差がない結果が明らかとなった。この6項目に関しては非常によく選ばれた条件であり、両群とも均質な集団で、今後対象患者を変えてみたとしても有意差が出ないであろうことを示唆している。
サブグループ解析も含めてステロイド投与が最も有効なpopulationが選択されており、ステロイドの投与量や対象患者群の設定を変えてステロイドの有効性を示そうとしてきた探索的な先行研究とは異なり、本研究では(一部の限られた使用価値を除いて)「低用量ステロイドは死亡率低下に寄与しない」という最終的な結論を示しているといえる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科