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集中治療患者への栄養療法の診療ガイドライン(SCCM/ASPEN、ESPEN、CPPG)は推奨度の違いはあれ早期経腸栄養が奨められている。その根拠としてはこれまでのメタ解析で早期経腸栄養群で死亡リスクの低下や感染の合併が少ないと報告されているからである。しかし、このメタ解析に含まれるRCTはどれも規模が小いこと、古いなど根拠としては弱いためどの投与方法がよいかは決着がついていない。

当研究は2013/3/22~2015/1/30にフランスの44のICUで行われたmulticenter open RCTである。18歳以上のショック患者(中心静脈から昇圧剤使用)で、挿管24時間以内で48時間以上人工呼吸器が必要と想定される患者に対して、20~25kcal/kg/dayの栄養を割り付け後24時間以内に経腸で投与した群と経静脈から投与した群で比較し、早期経腸栄養が経静脈栄養にくらべ28日死亡率を改善するか検討した。両群とも最低72時間は決められた投与方法を固持し、その後は経静脈栄養群は経腸栄養に変更できることとした。αエラー0.049、power80%とし、経腸栄養群の28日死亡率32%、経静脈栄養群の28日死亡率を37%としサンプルサイズを両群あわせて2854とした。施設で層別化しブロックランダム化した。主要評価項目だけでなく副次評価項目、中間解析(1000人、2000人の時点)Post hoc解析も事前に設定された。Post hoc分析では施設効果を混合効果ロジスティック回帰分析で調整し、データ欠損は死亡と仮定し感度分析を行った。
結果として10855人がエントリーされ8445人が除外され2410人で解析された(2回目の中間解析の結果をもって事前設定された中止基準に合致し中止された)。主要評価項目である28日死亡率は施設間効果を考慮した混合効果ロジスティック回帰分析や感度分析の結果も含めて差がなかった(37% enteral group vs 35% parenteral group absolute difference 2.0%(95%CI-1.9-5.8);p=0.33)(欠落データを除外した感度分析absolute difference 2.1%(95%CI-1.8-5.8);p=0.31)(施設効果を調整した混合効果ロジスティック回帰分析odds ratio1.1(95%CI 0.9-1.3);p=0.33)。副次評価項目であるICU滞在期間、90日死亡率、感染合併、臓器障害でも差はみられなかった。しかし、腸管虚血、イレウス、嘔吐などの消化器合併症が経腸栄養群で多かった。

当研究が発表される3年前の2014年にCAROLIES 1)が報告された。イギリスで行われたmulticenter open RCT で2388人の大規模研究である。少なくとも3日間以上ICUに滞在することが予想される患者を対象に経腸栄養、経静脈栄養群に割り付け48時間から72時間以内に目標カロリー25kcal/kg/dayを投与し比較した。当研究同様主要評価項目である30日死亡率(33.1% vs 34.2% RR0.97(95%CI0.86-1.08);p=0.57)、副次評価項目である感染合併に差がなく、消化器合併症が経腸栄養群で多かった。これらの結果も踏まえ当研究では経静脈栄養は経腸栄養にくらべ劣っているとは言えないと結論している。
一方2010年以降、いくつかの経腸栄養にまつわる研究 2),3),4)が発表されている。早期に経腸からfullfeedingを行った群と最初の1週間前後を経腸から少量投与した群で比較を行った結果、これらの研究では死亡率、感染合併率に差がなく、むしろfullfeeding群で消化管合併症が多いことがすでに報告されている。よって当研究においても経腸栄養群で消化器合併症が多く出た原因は経腸使用単独ではなくfullfeeding自体にあると推測できる。
現在、先に紹介した研究から腸管粘膜を保護するだけの少量経腸栄養投与方法が提唱され、permissive underfeeding、trophic feedingとして知られている。このトレンドを踏まえると当研究から経静脈栄養が推奨されるということはなく、経腸栄養によるpermissive underfeedingを含めた多施設共同研究が待たれる。ただし栄養単独での介入で死亡率の改善を期待する事自体無理があるのかもしれない。今後このような問題を解決するデザインも含めた新しい方法が期待される。

Reignier J, Boisramé-Helms J, Brisard L, et al.
Enteral versus parenteral early nutrition in ventilated adults with shock: a randomised, controlled, multicentre, open-label, parallel-group study (NUTRIREA-2).
Lancet. 2017 Nov 8. doi: 10.1016/S0140-6736(17)32146-3. [Epub ahead of print]           

*Reference
1) Trial of the route of early nutritional support in critically ill adults PMID27089843
2) Randomized trial of initial trophic versus full-energy enteral nutrition in mechanically ventilated patients with acute respiratory failure PMID21242788
3) Permissive underfeeding and intensive insulin therapy in critically ill patients PMID21270385
4) Initial trophic vs full enteral feeding in patients with acute lung injury PMID22307571

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科