中等症・重症の頭部脳損傷患者におけるTRACK-TBI studyの1年アウトカム

Journal Title
Functional Outcomes Over the First Year After Moderate to Severe Traumatic Brain Injury in the Prospective, Longitudinal TRACK-TBI Study
JAMANeurol.2021;78(8):982-992

論文の要約
・背景
中等症〜重度の外傷性脳損傷(msTBI)は世界中で主要な死因となっている。また、一般的に生存できた場合でも生活機能の予後は不良であり、急性期の評価で治療が中断されることが多い。複数の先行研究でmsTBI患者が長期経過で生活機能が改善する可能性が示唆されているが、急性期から慢性期に至るまでの回復について長期前向きの結果を集めた研究は行われていない。本研究は、急性期から慢性期(12ヶ月)での主要な生活機能の評価を目的とした。

・方法
本試験は米国で行われた頭部外傷の急性期から慢性期までの前向きコホート研究、すなわちThe transforming Reesarch and Clinical Knowledge -TBI(TRACK-TBI)studyのデータを利用した過去起点前向きコホート研究である。対象患者は17歳以上で、受傷24時間以内にlevel1外傷センター(18施設)に搬送されたAmerican college of Emergency Medicine/US center of disease control and prevention基準下でCT施行した中等度(GCS9-12)、重度(GCS3-8)のmsTBI患者であった。除外基準は、多発外傷や精神疾患、認知症や脳卒中などの神経疾患、担癌患者、ASISスコアC以上の頸髄損傷患者など、評価困難やフォローアップ困難となる患者とされた。主要アウトカムは過去の TBI研究において最も多く利用されており、生活機能評価尺度であるGlasgow Outome Scale-Extended(GOSE)を採用した。予後良好群(GOSE4-8)、不良群(1-3)に二分し評価した。また、副次アウトカムは、GOSEと並ぶTBIの機能評価尺度であるDisability Rating Scale(DRS)を用いて意識、認知機能、機能障害レベル、雇用されうる能力などを評価し、その結果をTBIの重症度に基づいて6段階に分類した。
解析は、中等症、重症患者における患者特性や障害項目の違いについて、連続変数はマンホイットニー検定を、カテゴリ変数はフィッシャーの直接確立検定を使用し、有意水準p=0.05で両側検定を行った。また、アウトカムの欠測に対して、IPCW(逆確率による重み付け)を持ちた補正による感度分析も行われた(その結果、アウトカムの欠損は無視できる程度と判明した)。本研究は各領域における累積GOSE、DRSの18%ポイントの検出力が少なくとも83%以上有した。

・結果
2014年2月26日-2018年8月8日の期間に合計484人が登録された。年齢は中等症で中央値38歳(25-53)、重症は中央値35.5歳(25-53)であった。受傷起点は交通外傷と転落で80%前後近くを占めたいた。死亡した患者の33%は最初の3日間で、52%は最初の1週間で、70%が最初の2週間で亡くなった。全体の主要アウトカムは、中等症、重症TBI患者で受傷2週間後にGOSE≧4の割合はそれぞれ40.9%(38/93人),12.4%(36/290人)だが、12ヶ月後では75%(54/72人),52.4%(142/271人)と機能改善が示唆された。また、受傷2週間後に植物状態であっても、生存した症例では全例で意識レベルの改善を認め、12ヶ月で25%以上が見当識が保たれる状態にまで回復した。副次的アウトカムについても、受傷2週間後では重症TBI患者の93.9%、中等症の79.2%でDRS≧4だが、12ヶ月後では重症の19%、中等症の32%でDRS0にまで改善することが示された。

Implication
本研究は、msTBI患者の多くが受傷2週間から12ヶ月の間に生活機能が大幅に改善することを縦断研究ではじめて示した。この結果は、2018年にアメリカ神経学会が発表した意識障害に対するガイドラインが提唱した内容(受傷28日以内の頭部外傷による意識障害患者で予後判定を行わないことを推奨)を支持している。しかし、
TRACK-TBIに参加した全施設でのmsTBI患者が追跡されていないことによる選択バイアスが懸念されることや、level1外傷センターのみの結果であること、多発外傷が除外されていたり、頭部外傷を負いやすい認知症・脳卒中患者が除外されているため一般化可能性を損ねている。そのため、実臨床への応用には注意が必要である。
TRACK-TBI studyは現在も長期予後を予測する臨床予測変数を模索中であり、その結果に注目したい。また、本研究結果はGOSE・DRSと患者の自立度の客観的評価結果のみであるが、今後は患者中心アウトカム(Patient-centered outcome)も評価されることを期待する。

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文責:岡部宏樹・増渕高照・南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科