多枝病変をもつSTEMI患者の非責任病変治療においてFFRは有用なガイドとなるのか?

Journal Title
Multivessel PCI Guided by FFR or Angiography for Myocardial Infarction
N Engl J Med 2021; 385:297-308 DOI: 10.1056/NEJMoa2104650

論文の要約
・背景
非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)や慢性冠症候群患者の冠動脈狭窄病変に対して冠血流予備比(Fractional Flow Reserve; FFR)を指標として経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を行うことは、血管造影と比較して主要心血管イベントを抑制することが示されてきた。一方、多枝病変を有するSTEMI患者に対して責任病変以外にもPCIを行うことは、再灌流療法の再試行が減り、その後の主要心イベントも減少することがわかっているが、この際のPCIを行う指標としてFFRと血管造影のどちらが有用かはわかっていない。本研究ではSTEMI患者の非責任病変に対して、FFR使用群と血管造影使用群にわけ、FFRに優位性があるか検証した。

・方法
本研究はフランスの41施設で行われたオープンラベルのランダム化比較試験である。対象は18歳以上のSTEMI患者で、責任病変のPCIに成功し、また責任病変以外の血管にPCI適応と考えられる50%以上の狭窄が存在した者とされた。除外基準として、不安定な血行動態、CABGの既往、冠動脈の石灰化や高度な蛇行、慢性完全閉塞、手術適応と考えられる多枝病変、単一血管の病変、アデノシン過敏症、推定予後2年以内、妊婦が設定された。責任病変のPCIが成功したのちにインターネットによる中央割付方式でランダム化された。手技タイミングは初回PCIと連続が推奨されたが、5日以内の待機的な施行も許容された。患者は手技タイミングと施設によってブロック化され、FFR群と血管造影群に1:1で割り付けられた。FFR群では、すべての50%以上の狭窄でFFRが測定され、0.80以下であればPCIが施行された。
主要評価項目は1年間での全死亡、非致死的心筋梗塞、緊急再灌流療法による入院の複合エンドポイントとされた。副次評価項目は主要評価項目の各構成要素のほか、処置時間、造影剤総使用量、待機的ならびに緊急血行再建術、狭心症または急性心不全あるいはあらゆる理由での循環器科への再入院、Canadian Cardiovascular Society(CCS)狭心症分類、QoLスコア、冠血管薬使用数とされた。サンプルサイズはFFR群で9.5%、血管造影群で15%の複合エンドポイント発生率を見積もり、検出力を80%、有意水準を0.05(両側検定)、脱落を5%として1170人と計算された。解析はkaplan-Meireを作成し、coxモデルにて比例ハザードを算出した。感度分析として競合モデルを調子したFine and Greyモデルを使用した。

・結果
2016年12月から2018年12月までの期間に1183人の患者が組み入れられ、12人が除外されたのちFFR群に581人、血管造影群に590人が割り付けられた。それぞれ4人の除外を経て、577人、586人が解析対象となった。両群とも62歳前後、男性が80%を占める患者群で、FFR群において喫煙者や心筋梗塞の既往、糖尿病罹患者がやや多かった。手技については、非責任病変への介入は両群とも95%の患者で待機的に行われ、FFR群で66.2%、血管造影群で97.1%にPCIが施行された。主要評価項目はFFR群で5.5%(32/586人)、血管造影群で4.2%(24/577人)と有意差を認めなかった(HR 1.32 95%CI 0.78-2.23)。競合リスクを調整した感度分析においても同様に差は認めなかった。副次評価項目は循環器科への再入院のみ、HR 1.49(95%CI 1.03-2.17)と有意差をもってFFR群で多く認められた。
カプランマイヤー曲線では、主要評価項目と非致死的心筋梗塞、緊急再灌流療法において7ヶ月以降にFFR群のグラフが血管造影群を下回る現象がみられたが、追加の解析で7ヶ月以降にも有意差はみられず、比例ハザード性も担保されていた。

Implication
本研究では主要複合評価項目やほとんどの副次評価項目において差がみられなかった。さらに予定された治療効果量は主要評価項目の信頼区間の下限を下回り、点推定値はむしろ血管造影使用群に有利な値を示している。また、主要評価項目のカプランマイヤー曲線では7ヶ月以降、FFR群でイベント発生が増加している傾向がある。この傾向は以下の理由が考えられる;サンプルサイズ設計の時点で予定されたイベント発生数と比較し、実際のイベント発生数が少なかったことによる偶然誤差、FFR群での治療されなかった非責任病変の増悪の可能性、血管造影群でFFRでは捉えきれていない不安定性病変に対する介入の効果など。しかし、原因に関してはどれと断定することは出来ない。
以上から本研究結果をもって、FFRが有用とも不要とも結論づけることは出来ない。FFR以外の病変の不安定性を評価する質的評価も検討されることが望ましい。また、現時点においては、これまでの研究結果を踏まえて総合的に考える必要がある。

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文責 三石一成・増渕高照・南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科