今話題のGritについて

National Evaluation of Surgical Resident Grit and the Association With Wellness Outcomes

外科レジデントのGritと健康状態との関連性に関する全国調査
D. Brock Hewitt, MD, MPH, MS; Jeanette W. Chung, PhD; Ryan J. Ellis, MD, MS; Elaine O. Cheung, PhD; Judith T. Moskowitz, PhD, MPH; Yue-Yung Hu, MD, MPH; Caryn D. Etkin, PhD, MPH; Michael S. Nussbaum, MD; Jennifer N. Choi, MD; Caprice C. Greenberg, MD, MPH; Karl Y. Bilimoria, MD, MS
doi:10.1001/jamasurg.2021.2378

■背景
医療現場では燃え尽き症候群(burnout)が大きな問題となっている。特に外科レジデンシーはストレスと苦難の度合いが他の科よりも大きく、burnoutによるレジデンシープログラムからのドロップアウトが多いことが知られている。これに加え、自殺が男性レジデントの死因の第1位、全レジデントプログラムでの第2位の死亡理由であり、その改善が求められている。Gritは、生まれ持った知能や才能とは別の長期的目標に対して情熱を持ちやり抜く力と定義される個人の特性である。それは様々な領域での成功やパフォーマンスを予測する因子として注目されている。高いGritスコアはよい精神的健康状態と回復力との関連が示唆されている。一般外科レジデントにおいもGritスコアがburnoutや脱落と関連があることがいくつかの研究で示されているが、多くのバイアスがある。そこで、ACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education、米国卒後医学教育認定評議会)が認める全一般外科レジデンシープログラムにおける全国総合調査を利用し、一般外科レジデントのGrit スケールの特徴、レジデンシープログラムレベルでのGritのバリエーション、Gritスケールとバーンアウト・ドロップアウトの思考・希死念慮との関係性が調べられた。

■方法
2018年ABSITE(American Board of Surgery In-Training Examination 外科レジデンシーは毎年受験することが義務付けられている)受験者に対してGritに関する多選択肢アンケートを実施し、横断研究を行った。アンケートの実施にあたって、情報は匿名化され、個人も特定されないことが保証された。アンケート項目は過去の研究から検証されたものが選択された。その内容には健康状態、勤務時間の遵守、Gritが含まれた。Grit スコアに関してはすでに検証されている8項目からなるShort Grit scale(GRIT-S)が採用された(1点;まったくGritではない〜5点;非常にGrit)。Burnoutの指標にはよく検証されている修正abbreviated MaslachBurnout Inventory Human Services Survey for Medical Per-sonnelが使用された。ドロップアウト思考は直近1年間のその思考の強さの5段階評価で、希死念慮については直近1年間の希死念慮の有無で評価された。Gritとそれぞれのアウトカムとの関係の評価には多変量ロジスティック回帰分析を行い、性別・卒業年数・交際状況・プログラムサイズで調整した。Burnoutとは独立にGritの健康状態に与える評価すためにBurnoutも独立変数として各モデルに組み入れた。

■結果
262の一般外科レジデントプログラムのなかの7464人のうち7413人が回答し、うち男性が4469人(60.2%)だった。個々のグリッドスコアは1.13-5.00[mean(SD)3.69(0.58)]だった。Gritは女性、卒後4,5年目、結婚しているレジデントが高った。Gritがより高いレジデントは、勤務時間違反の報告が少ない傾向があり(OR,0.85;95%CI0.77-0.93)、外科医になったことによる不満足感が少なく(OR,0.53;95%CI0.48-0.59)、burnout(OR,0.53;95% CI0.49-0.58)、ドロップアウト思考(OR,0.61;95%CI0.55-0.67)、希死念慮(OR,0.58;95%CI0.47-0.71)が低い傾向だった。

■Implication
本研究ではGritとburnout・ドロップアウト思考・希死念慮が関連していることが示された。一般的にGritと結果の間には無数の交絡が存在することが知られている。しかし、本研究で行われた多変量解析ではいくつかの交絡が調整されたのみであり、その関連に疑念が残る。さらにGritが上記リスクを予測するツールとしての有用性を示すならば、すくなとも縦断研究が必要である。また、仮にGritがスクリーニングとしての機能を果たしたとしても、様々な交絡が存在しているため、介入自体はまったく別の問題である。以上からGritに限らず、レジデントのburnoutを予測し、回避する方策は今後も様々な角度から検討されるべきである。

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文責 柳本 達摩セルジュ/増渕 高照/南 三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科