敗血症患者において、プロカルシトニンガイド下の抗菌薬投与は長期の感染症関連有害事象を減少させるか(ランダム化比較試験)

Journal Title
Procalcitonin to Reduce Long-Term Infection-associated Adverse Events in Sepsis. A Randomized Trial
Am J Respir Crit Care Med. 2021;203(2):202-10.

論文の要約
・背景
抗菌薬の不適切な長期使用は、腸内細菌叢に大きなダメージを与え、重症患者におけるClostridioides difficile (C. difficile) やmultidrug-resistant organisms (MDRO) による感染症のリスクを高める。これらの感染は臨床転帰の悪化と関連がある。近年、プロカルシトニン(PCT)が、抗菌薬の適正使用をするための指標になり得るとして、注目されている。
PCTガイド下での抗菌薬治療の中止は、下気道感染症患者の抗菌薬曝露量および有害事象のリスクを低減すること、さらには敗血症患者に対してPCTガイド下での抗菌薬の投与が生存率を改善させる可能性があることが確認されている。しかし、この生存率向上のメカニズムはまだ明らかにされていない。また、アウトカムとしてInfection-associated Adverse Events(IAAEs)が検討された試験は存在しない。
そこで今回、PCTガイドによる抗菌薬治療の早期中止が、IAAEsの発生割合を低下させるかどうか検証を行った。

・方法
本研究は、ATTIKON University Hospitalを中心としたギリシャの7部門の内科で行われた、多施設前向きランダム化比較試験(非盲検)である。
下気道感染症(市中感染、院内感染、人工呼吸器関連)、急性腎盂腎炎、一次性血流感染のいずれかで入院し、Sepsis-3の敗血症の定義を満たす成人を対象とした。一方で、予定を越えて抗菌薬治療の延長を必要とする患者、ウィルスや寄生虫に感染している患者、結核患者、嚢胞性線維症の患者、好中球減少がある患者(< 500 mm3)、CD4数が低下したHIV感染患者(< 200 mm3)、妊娠・授乳中の患者は除外された。
患者は抗菌薬開始24時間以内にPCTガイド群とstandard of care(SOC)群に1:1で無作為に割り振られた。PCTガイド群では抗菌薬開始から5日目にPCT値が80%以上減少した場合、または0.5μg/L未満の場合、抗菌薬の投与を中止した。5日目に基準に満たない場合、毎日採血を行い、基準を満たした時点で抗菌薬の投与を中止した。ただし、昇圧剤を要したり発熱が持続するなど医学的に不安定な患者は例外として扱われた。SOC群ではPCT値の測定はされたが、試験期間中に治療医師に値が知らされることはなかった。また、各疾患に対する抗菌薬の投与期間は国際ガイドラインに基づいて決定された。
主要評価項目は抗菌薬投与開始から180日目までのIAAEsの発生割合(具体的には、C. difficile新規感染、MDRO新規感染、MDROまたはC. difficile感染に関連した死亡)とし、副次評価項目は新規感染までの期間、抗菌薬治療期間、28日後および180日後の死亡割合、治療にかかった費用とした。IAAEsの発生割合がSOC群30%からPCT群15%に減少すると仮定し、5%の有意水準で80%の検出力を得るために各群で133名ずつの患者が必要とされた。主要評価項目はITT解析で行われた。

・結果
本研究は2017年11月から2019年1月までの期間で行われた。911人が選定され、そのうち266人がランダム化された。PCTガイド群とSOC群 に133人ずつ割り当てられ、PCTガイド群で8人、SOC群で2人が途中で同意を撤回したため、最終的なITT解析の対象は256人となった。
ベースライン特性では患者が平均78.6歳と高齢、Charlson comorbidity indexは平均で5.8点だった。
主要評価項目である180日目までのIAAEsは、PCTガイド群では125例中9例(7.2%)で発生したのに対し、SOC群では131例中20例(15.3%)で発生した。オッズ比は0.43(95%CI 0.19-0.99)、P= 0.045で有意差ありという結果になった。
副次評価項目では治療期間(P<0.001)、治療にかかった費用(P=0.05)、院内死亡割合(P=0.02)、28日死亡割合(P=0.02)に関してPCTガイド群の方が有意に少なかったが、C.difficile、MDROによる便のコロニー形成割合、180日後死亡割合では有意差なしという結果であった。

Implication
本研究では肺炎・腎盂腎炎・血流感染においてPCTガイドによりIAAEsが低下することが示された。
内的妥当性について:
・全般的な治療介入については国際ガイドラインに準拠しており治療の統一がなされている。
・しかし、オープンラベルであり盲検化されておらず、ソフトアウトカムが含まれる複合エンドポイントであるため情報バイアスが懸念される。
・SOC群におけるIAAEs発生割合が30%でありPCTガイド群のIAAEs発生割合が15%になると予想されているが実際には大分低く、αエラーが懸念される。
外的妥当性について:
・下気道感染症、尿路感染症、血流感染の患者のみが選択された理由が不明であり感染症患者一般に対する外挿が困難である。
以上のような限界があるものの、PCTガイドによって抗菌薬投与期間の短縮し、その後の多剤耐性菌の出現やCDADを抑えることで、死亡という転帰だけでなく医療費の抑制など様々な効果が期待され非常に有益な仮説であることに違いない。
PCTを利用する治療戦略の効果を示すためにはクラスターランダム化試験やクロスオーバー試験が望ましい。また、本試験では死亡転帰も改善させているため、死亡などのハードアウトカムでの検証を期待する。


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科