貧血を合併する心筋梗塞患者に対する輸血制限と輸血自由群における治療効果

Journal Title
Effect of a Restrictive vs Liberal Blood Transfusion Strategy on Major Cardiovascular Events Among Patients with Acute Myocardial Infarction and Anemia; The REALITY Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2021;325(6):552-560.

論文の要約
<背景>
急性心筋梗塞の患者において中等度の貧血(ヘモグロビン値10-12g/dL)であっても正常ヘモグロビン値と比較して心血管系の原因による死亡率が高いことが知られている。そのため輸血の閾値がHb 10g/dlとされることが多い。しかし、その根拠は大規模観察研究や小規模ランダム化比較試験の結果に基いたものであり、頑健性に乏しかった。近年、消化管出血や周術期の患者に対しては輸血を制限する利益が大規模研究で示されてきたが、心筋梗塞の患者は除外されていた。そこで本研究は急性心筋梗塞の患者に対して輸血を制限した群が自由にした群と比較して非劣性であるか検証した。
<方法>
本研究はフランスの26施設とスペインの9施設で行われた、オープンラベル多施設ランダム化比較試験である。18 歳以上の心筋梗塞患者(STセグメント上昇の有無を問わず発症48時間以内の心筋逸脱酵素上昇を伴う)でHb 7-10g/dlの貧血を合併した患者を対象に、ブロックランダム化で割付を行った。ただし、ショック状態、経皮的冠動脈インターベンション・冠動脈バイパス手術後、現在進行系の出血患者、30日以内に輸血を受けた、悪性血液疾患の患者は除外された。
輸血制限群はHb<8g/dlで輸血を施行し輸血後Hb 8-10g/dlに保ち、輸血自由群はHb<10g/dlで輸血を施行し輸血後Hb 11g/dl以上に保つようにし、割付後30日経過するまで遵守した。主要評価項目は、ランダム化施行30日経過した時点でのMACE(major adverse cardiac event ; 全死亡数, 脳卒中数, 再発心筋梗塞数, 緊急再灌流療法施行数の複合項目)とし、副次評価項目をランダム化施行30日と1年経過した時点でのMACEの個々の構成要素と定めた。安全評価項目も、輸血の副作用と定めた。
統計的評価は、先行研究を参考にして輸血自由群では15%、制限群で11%と見積もり、αエラーを5%、パワーを80%として計算し、630人を必要と計算した。非劣勢マージンも、先行する大規模観察研究を参考に、Hbが11.0g/dlよりも-1.0g/dlになるにつれてMACEのオッズ比が1.45となる結果を考慮し、Hb 1g/dl程度の差が出ると予想し、相対リスク1.25と定めた.
<結果>
2016年3月-2019年9月の間に668人が登録され、輸血制限群では342人中327人、自由群が324人中322人割り付けられた。
主要評価項目であるMACEは、相対リスク0.79(1-sided 97.5% CI : 0.00-1.19)で非劣性であることが示された。しかし、As randomized populationでの逐次解析では、制限群で38/342(11.1%)、自由群で46/324(14.2%)となり、優位性までは示すことはできなかった。副次評価項目である個々のMACEのアウトカムでも、輸血自由群で発生率は高かった。安全項目では、両者で発生率に差はなかったが、輸血の多い自由群では心不全や肺水腫、感染が増加しており、制限群では急性腎障害が増えていた。

Implication
制限輸血群は自由輸血群に比べても30日時点でのMACE発生率は非劣性であることが示された。
本研究の強みとしては、多施設のRCTで脱落が少ない事に加え、研究開始前のサンプル計算時での予想とほぼ同等の結果となったデザインの良さ、そしてPP(per protocol)解析、ITT(intention to treat)解析でも非劣性を示すことができた点である。弱みとしては、オープンラベル試験であり解析者しか盲検化されていない点、非劣勢マージンの設定が適切だったかは不透明である点があげられる。また、副次評価項目ではMACEの各項目が定められているが、入院日数や金銭面といった患者中心の評価項目により輸血制限群が優れている点を示す必要があったと考える。
今回の大規模なRCTで、初めて心筋梗塞の貧血合併患者でのHb目標値を他の疾患と同様Hb 8.0g/dlと緩やかにしても良い可能性が示唆された。さらなる追試が期待される。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科