mRNA-1273 SARS-CoV-2ワクチンの有用性と安全性

Journal Title
Efficacy and Safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine
N Engl J Med 2021; 384:403-416

論文の要約
<背景>
2019年12月にSARS-CoV-2(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)が出現し、世界中に壊滅的な被害が出ている。
マスクの着用、physical distancing、各種検査や隔離政策などは感染制御の一助となっているが不十分であり、ワクチンの開発が待望されている。2002年、SARS流行の際にコロナウイルスのスパイクタンパク質が防御免疫に適した標的であることが示唆されていた。
2020年1月中国でSARS-CoV-2の遺伝子配列が同定され、公表された。それを元に、すでに別のmRNAワクチンであるBNT162b2の有効性と安全性が実証されている。本論文はSARS-CoV-2感染症に対するmRNA-1273ワクチンの安全性と有効性を評価するための第3相試験であるCOVE trial(The Coronavirus Efficacy trial)の一次解析結果を報告するものである。

<方法>
本研究は米国内の99施設で行われた多施設無作為化プラセボ対照試験である。18 歳以上のSARS-CoV-2の感染歴がない方でmRNA-1273ワクチンの初回予防接種を受けた方を対象とした。FDA(Food and Drug Administration)のドラフトガイダンスに従って集団の多様性を高めるために、地域の選択と試験に参加する人種・民族的少数者の人数を増やすように登録プロセスを調整している。中央割付けでmRNA-1273ワクチン群とプラセボ群に1:1で割り付け、28日間隔で2回筋肉内注射を行なった。また、65歳以上と65歳未満、重症化リスクの有無で層別化を行なった。主要転帰はベースラインでseronegativeだった参加者が、2回目のワクチン接種後、14日以降に発症した症候性COVID-19(coronavirus disease 2019)の予防効果とした。ワクチンの有効性は主要エンドポイント(mRNA-1273 vs. placebo)のハザード比の減少率(これをvaccine efficacy=VEとする)として定義され、mRNA-1273ワクチンの有効性が30%以下であるという帰無仮説に基づき、VEの60%低下を検出するために、検出力90%、感染症発症率0.75%を想定し、必要サンプルサイズを30,000人とし、151例のCovid-19患者を想定した。層別コックス比例ハザードモデルを使用して、ハザード比の減少を評価し、プラセボと比較したmRNA-1273ワクチンの有効性を評価した。

<結果>
2020年7月27日から10月23日までの期間に30420人が登録され、mRNA-1273ワクチン群とプラセボ群にそれぞれ15210人ずつ割り付けられた。96%以上が2回目の接種をし、mRNA-1273ワクチン群14134人、プラセボ群14073人が解析された。2回目のワクチン投与後、中央値63日(0?97日)の追跡期間で、ワクチン群で11例(1000人年あたり3.3人 95%CI 1.7-6.0)、プラセボ群で185例(1000人年あたり56.5人 95%CI 48.7-65.3)がCOVID-19と診断され、プラセボと比較して症候性SARS-CoV-2感染の予防に対するmRNA-1273ワクチンの有効性は94.1%(95%CI 89.3-96.8% P <0.001)を示した。また、副次項目として重症Covid-19の予防についてmRNA-1273ワクチンの有効性を評価したが、重症Covid-19発症者30人全員がプラセボ群だった。
安全性について、局所での有害事象は、初回投与時にはmRNA-1273ワクチン群対プラセボ群:84.2%対19.8%、2回目の投与時には88.6%対18.8%と、いずれもプラセボ群よりもmRNA-1273ワクチン群でより頻繁に発生した。その内容は、最多は局所の痛みで重症度グレードは1または2と軽度で、4〜5日の間に消失した。
全ての全身性有害事象は、初回投与時には54.9%対42.2%、2回目の投与時には79.4%対36.5%と、特に2回目の投与後にプラセボ群よりもmRNA-1273ワクチン群でより頻繁に発生した。内容は頭痛、倦怠感、筋肉痛、関節痛、嘔気・嘔吐、寒気があり、それぞれの群で平均2.9日、3.1日持続した。重篤な有害事象についてはmRNA-1273ワクチン群(71人[0.5%])、プラセボ群(28人 [0.2%])だった。

Implication
mRNA-1273ワクチンはBNT162b2ワクチンと同等の有効性を示した。副作用についても重篤な有害事象は稀で、プラセボと比較し差がみられなかった。
本論文の強みとしてはサンプル数が多く、多施設RCTならびにPP(per protocol)解析、ITT(intention to treat)解析がなされていることである。弱みとしては、安全性と有効性のフォローアップ期間が短いこと、妊婦や小児が含まれていない点、米国での人種差・地域での発症率を考慮して群を調整してあるが、アジア人が4.6%と少ないこと、高齢者が少ないこと、平均BMIが29.3%と高いことなど外的妥当性に問題がある。また、主要転帰は有症者のみであるため無症候性感染予防に有効かどうかは不明である。
今後は、小児や妊婦への適応の拡大、長期での安全性の検証、重症COVID-19発症予防効果や無症候患者における予防効果についての報告が期待される。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科