症候性低ナトリウム血症患者に対する高張性生理食塩水の急速間欠的ボーラス投与と、緩徐連続投与の過剰補正発生率の比較

Journal Title
Risk of Overcorrection in Rapid Intermittent Bolus vs Slow Continuous Infusion Therapies of Hypertonic Saline for Patients With Symptomatic Hyponatremia The SALSA Randomized Clinical Trial

論文の要約
<背景>
低Na血症は、入院患者の14%-42%に発生し、死亡率の上昇に関与している。また、高張性生理食塩水は症候性低Na血症に効果的な治療法であり、高張性生理食塩水の長期使用は、浸透圧性脱髄症候群(以下ODS)のリスクがある。
マラソンランナーの低Na血症の治療のために、高張食塩水の間欠的ボーラス投与を使用する概念が2005年に導入されており、アメリカとヨーロッパの低Na血症のガイドラインでは、小規模ランダム化試験の結果に基づいて、高張性生理食塩水の少量固定量ボーラス投与を推奨している。
しかし、Slow continuous infusion(以下SCIと示す)とRapid intermittent bolus(以下RIBと示す) therapyを比較した質の高いエビデンスは今までにない。

<方法>
韓国の3つの総合病院が参加した前向き、オープンラベルのランダム化比較試験である。
18歳以上で中等度(眠気・頭痛・眠気・全身脱力感・倦怠感)または重度(嘔吐・昏迷・けいれん・意識障害(GCS≦8))の症状があり、かつグルコース補正Na(以下sNa)が125mmol/L以下の患者を対象とした。2016年の8月24日から2019年の8月21日までの期間に登録された救急科の患者を重症度に応じて層別化、無作為化し、RIB群とSCI群は1:1の比率でランダムに割り当てられた(RIB群87人、SCI群91人)。除外基準としては、原発性尿崩症(尿浸透圧≦100mOsm/kg)、無尿、低血圧(収縮期血圧<90mmHg,平均動脈圧<70mmHg)、肝疾患(ASTやALTが正常上限の3倍以上、利尿剤使用や腹水を伴う肝硬変、肝性脳症、静脈瘤)、コントロール不良のDM(HbA1c>9%)、無作為化前3か月以内に、心臓手術・急性心筋梗塞・持続性心室頻拍・心室細動・急性冠症候群・脳外傷・頭蓋内圧亢進症の既往があるもの、偽性低Na血症(血清浸透圧>275mOsm/kg)、妊婦/授乳中の方であった。
オープンラベル(患者・医師は介入を受けたことを知っている)であったが、解析者は盲検化されていた。
主要評価項目は、任意の期間における過剰補正の発生率(全参加者中の過剰補正が発生した人の数)であった。副次評価項目は、高張性食塩水による治療後24時間後と48時間後の症状残存の有無、治療開始からsNa≧5 mmolLの増加までの時間、治療開始からsNa >130 mmolLの達成までの時間、24時間以内にsNaが5-9mmol/L,48時間以内にsNaが10-17mmol/Lまたは130mmol/L以上に到達すると定義した目標修正率の発生率、院内滞在率、追加治療の発生率、ODSの発生率、治療前と治療24時間または48時間後のGCSの変化であった。
仮定した過剰補正の発生率はRIB群で5%、SCI群で20%とした。推定脱落率15%、α(有意水準)=0.05 検出力80%の場合に必要なサンプルサイズを計算すると、X2検定を用いて有意差を認めるには、各群89人(合計178人)が必要となった。高張性生理食塩水注入により脱落者が高いと判断されたため、intention to treat(以下ITT)とpre protocol(以下PP)の両方が実施された。

結果
ベースラインは平均年齢が73.1歳、男性が44.9%であった。低Na血症の原因は、チアジド系利尿薬の使用(n=53 [29.8%])、不適切な抗利尿症候群(n=52 [29.2%])、副腎不全(n=29 [16.3%])、非腎性ナトリウム喪失による細胞外液量の減少(n=25 [14.0%])、細胞外液量の増加(n=19 [10.7%])であった。低Naが補正された場所は救急科が大多数であったが、途中から一般病棟の患者でも行われた。
主要評価項目である過剰補正発生率は、ITT解析ではRIB群87人中15人(17.2%)、SCI群91人中22人(24.2%)、過剰補正発生率(絶対リスク差、-6.9%[95%CI、-18.8%〜4.9%]P=0.26)であった。PP解析ではRIB群72人中14人(19.4%)SCI群73人中19人(26%)過剰補正発生率 (絶対リスク差、-6.6%[95%CI、-20.2%〜7.0%]P=0.35)であった。RIB群とSCI群で差はなかった。
副次評価項目では、安全性のアウトカムでは、両群ともODSのイベントはなく、RIB群はSCI群に比べて再治療の発生率が低かった(87人中36人[41.4%]対91人中52人[57.1%]、絶対リスク差-15.8%[95%CI, -30.3%〜1.3%]、P=0.04、NNT, 6.3)。また、1時間以内に目標補正率を達成した患者の割合は、SCI群よりもRIB群の方が高かった(87例中28例[32.2%]対91例中16例[17.6%]、絶対リスク差14.6%[95%CI、2%〜27.2%]、P=0.02、NNT、6.8)。

Implication
一般的に、重度の慢性低Na血症(120mEq/L、特に115mEq/L未満)、低K血症、アルコール依存症、栄養失調、肝疾患の患者がODSのリスクが高いとされている。
SALSA試験では、125mEq/Lかつ中等度から重度の症状のある患者さんを対象としており、研究対象が上記の本当の高リスク群とは異なるため、この結果をもって安全とはいえない。また、特にODSの高リスク群と考えられるアルコール患者は肝機能障害が除外に入っているため、除外された可能性が高く、ODSの合併の結果について一般化可能性が低い。そのため、本当に介入が必要な症状が改善したか正確な評価ができていない。
対象群(SCI群)の治療の目標が欧米のガイドラインに示されるよりもハードルが高く、高張性食塩水を利用している時間が長いため、通常よりも過剰補正が多く発生してしまった可能性がある。
研究途中から患者リクルートのために入院病棟患者も試験の対象に含んでおり、医原性の低Na血症の患者も含まれている。患者の異質性が高い可能性があり、一般化可能性を損なう。
以上より、SALSA試験は中等度または重度の症候性低Na血症患者における高張性食塩水のRIBとSCIの有効性と安全性を評価した最初の前向き、多施設、オープンラベルRCTだが、患者選択基準に問題があり、正確にODSの発症率を評価できていないと考える。今後、外的妥当性の高めたさらなる研究が必要である。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科